第6章 第五話:引き裂かれる二人
浩紀に目撃されているとは思いもしない杏奈は葛谷に促され、夕暮れの公園のベンチに座っていた。
浩紀に拒絶されたショックで、杏奈の心はひどく不安定になっていた。
「……ありがとう、葛谷君。話を聞いてもらって、少し落ち着いた。やっぱり私、もう一度ヒロの家に行って、ちゃんと謝ってくる」
アンが立ち上がろうとすると、葛谷は優しく、けれど断らせない強さで彼女の手を掴んで止めた。
「待って、杏奈ちゃん。今行っても、また昨日の二の舞だよ。……浩紀君は、君が誰にでも親切なところが不安なんだと思う。君の『優しさ』を、彼は『隙がある』って勘違いして、勝手に怒ってるんだ」
「……ヒロが、私の優しさを……?」
「そう。彼は君を縛り付けたいだけなんだよ。でも、僕は違う。君のその真っ直ぐで優しいところ、本当に素敵だと思ってる。……そんな君が傷つくのは、見ていられないんだ」
葛谷はアンの瞳をじっと見つめ、彼女の罪悪感を「浩紀の理解不足」へとすり替えていく。
ーーー
沙織に付き添われながら遠巻きに二人の様子を見ていた浩紀に、
「浩紀、今日はもう帰りなさい。頭を冷やして、明日学校で……」
沙織が言いかけたその時、二人の視界に、街灯の下で重なり合う二人の影が映った。
葛谷がアンの肩を抱き寄せ、耳元で囁いている。
「大丈夫だよ。僕が君の味方でいてあげるから……」
この時葛谷は離れた場所から見ている浩紀に気が付いていた。
突然のことに驚き、硬直する杏奈。
だが、葛谷はわざと杏奈の背中に手を回し、彼女を包み込むように深く抱きしめた。
遠目から見る浩紀の目には、それは「相談」などではなく、アンが葛谷の言葉にうっとりと聞き入り、自らその腕に身を委ねている決定的なシーンにしか見えなかった。
「……っ!!」
昨日、今日。何度も、何度も。信じたいという最後の一線が、音を立てて崩壊した。
「……もう、いい。全部、嘘だったんだ」
浩紀の瞳から光が消え、底冷えするような怒りと絶望が溢れ出した。
彼は沙織が止める間もなく、二人に向かって走り出した。
「杏奈ッ!!」
浩紀の怒号が公園に響き渡る。
驚いて葛谷を突き放す杏奈。
その顔は涙で濡れていた。
「ヒロ……!? 違うの、これは葛谷君が……!」
「何が違うんだよ! 結局、昨日と同じじゃないか! 俺に嘘をついて、アイツと会って、また抱き合って……!」
「違う! 私はヒロと仲直りしたくて、相談を……っ」
「相談!? アイツの腕の中で泣くのが仲直りの相談かよ! ……分かったよ。お前にとって、俺はその程度の存在だったんだな」
浩紀の声は、アンが聞いたこともないほど冷酷で、突き放すような響きを持っていた。
「アン……いや、河合。もう俺を『ヒロ』って呼ぶな。……お前の顔なんて、二度と見たくない。絶交だ」
「……えっ……」
絶交。その言葉の重みに、杏奈の思考が停止する。浩紀は一度も振り返ることなく、夜の闇へと消えていった。
ーーー
「……ひどいな。あんな言い方、ないよ。杏奈ちゃんは悪くないのに」
葛谷は泣き崩れるアンの肩を抱き、勝利を確信した冷たい瞳で彼女を見下ろした。
その様子を、離れた場所から見ていた沙織は、拳を血が滲むほど握りしめていた。
(杏奈、あんたあんなクズに……! 浩紀は、もう完全に心を閉ざしちゃったわよ……!)
そして、暗闇の中に潜むもう一人の影。
薫は、手元のスマートフォンを確認し、静かにけれどその目は鋭く杏奈を睨んでいた。
「……最低、またお兄ちゃんを傷つけて……。お姉ちゃんは勝手に自滅してしまいそうだね。ほんとは私が万全の状態のお姉ちゃんから奪い取りたかったのに……。まあ、これはこれでやるべきことをするだけだけどね。沙織さんも性格上、手出しできないだろうし……。次は私の番ですよね、浩紀さん」
一学年下の「狩人」が、静かに牙を研いでいた。 『ヒロとアンが長い時間かけて育んだ強い絆』は、葛谷の卑劣な罠によって、完全に破壊された。
第6章第5話をお読みいただきありがとうございます。
正直この第6章は自分で書いておいてあれなんですが、投稿前の清書作業がとてもつらいです。
読み返しながら心が苦しくなってしまいます。
どうか皆さんの励ましを二人へ届けてあげてください。
浩紀と杏奈を励まして、不死鳥のごとく二人に愛を復活をさせてあげたいという方はぜひ、感想及び評価☆、ブックマークにて応援をしてあげてください。その応援は作者を通して必ず二人につながります!
毎日19時に1話ずつ投稿していきますのでよろしくお願いします。




