【第2部】第6章 第1話:2人に鳴り響く不協和音
この第6章から第2部スタートです。この第2部(第6章~)のテーマは、『成長と上書き』です。浩紀の選ぶ未来を、どうぞ最後まで見守ってやってください。
冬の朝の冷たい空気が、登校路を白く染めていた。
桐谷浩紀は、自宅前で自分を待つ河合杏奈の姿を見つけて、自然と表情を和らげる。
「……おはよう、アン」
「あ、ヒロ! おはよう」
小2の時から変わらない呼び方。
数日前のクリスマスを経て、ようやく「恋人」になった今、その響きには以前よりも少しだけ甘い熱が混じっていた。
浩紀は生徒会長として全校生徒の代表を務めているが、彼にとって一番大切なのは、幼馴染であるアンの笑顔だった。
彼女が笑ってくれるなら、自分はどんな苦労も厭わない。
杏奈が呼ぶ「ヒロ」という声こそが、彼が最も守りたい世界の中心だった。
ーーー
2人の平和を破る使者は1時間目のホームルームでやってきた。
アンのいるB組に、一人の転校生・葛谷直樹がやってきたのだ。
「葛谷直樹です。早くみんなと仲良くなりたいと思います。だからよろしくね」
整っ顔と長身、さらに爽やかな笑顔と柔らかな物腰。
B組の女子たちが葛谷を見て騒ぎ出した。
担任は騒がしくする生徒たちをたしなめてから、クラスでも特に面倒見が良い杏奈に、校内の案内役を頼んだ。
「はい! 任せてください、先生」
お人好しな杏奈は、いつものように屈託のない笑顔で快諾した。
放課後の生徒会室での仕事を終えた浩紀がB組を覗くと、そこには葛谷を連れて案内に出かけようとする杏奈の姿があった。
「ごめんね、ヒロ。今日は葛谷君の案内があるから、先帰ってて」
「……そうなんだね。なら1時間後に下駄箱で待ち合わせよ。それまで明日の分の生徒会の仕事やっておくからさ。アンも頑張ってね」
浩紀はいつものように優しく微笑んで答えた。
杏奈が誰かの役に立とうとしているなら、それを全力で応援したい。
それが彼の愛の形だった。
だが、葛谷と目が合った瞬間、浩紀の直感が警鐘を鳴らす。
葛谷は杏奈の死角で、これ以上ないほど冷酷な、品定めをするような目を浩紀に向けていた。
廊下で鉢合わせた同じA組で副会長の畑中沙織が、不快そうに眉をひそめる。
「浩紀、あの転校生……。さっき目が合ったけど、すっごく嫌な感じがした。杏奈、あんな『善人面したクズ』の案内なんてして大丈夫なの?」
「……先生の頼みだし、アンも張り切ってたからさ。でも、確かに少し、気になるな」
浩紀は沙織にそう答えつつも、杏奈を信じ、彼女の選択を尊重しようと自分に言い聞かせていた。
ーーー
杏奈は葛谷に学校の施設などを案内していると葛谷が杏奈に尋ねた。
「さっきのヒロって呼んでた人は河合さんの彼氏なの?」
いきなり案内と関係ないことを聞かれて戸惑う杏奈だったが、気を取り直して答えた。
「そうだよ。といってもヒロとは昔からの幼馴染で、まだ恋人になったのは最近なんだけどね」
杏奈は恥ずかしそうに答えた。
「そうなんだ。杏奈ちゃん可愛いし性格もよさそうだから、もしフリーなら俺が彼氏に立候補しようかと思ってたのに残念」
と少しからかうように話す葛谷であった。
「そんな冗談やめてよ。それに葛谷君ならかっこいいからすぐに彼女できるでしょ」
「結構本気だったんだけどな……。とりあえず今はお友達としてよろしくね」
「こちらこそよろしくね」
ーーー
一時間後、ようやく合流した杏奈だったが、話題は自然と葛谷のことになった。
「ヒロ、待たせちゃってごめんね。そういえば葛谷君だけど、とっても物知りでね、前の学校の話とか、面白かったよ」
「……そうなんだね。新しい友達ができて良かったじゃないか、アン」
浩紀は精一杯の笑顔で答えようとした。
しかし、自分だけのものだと思っていた杏奈の時間が、見知らぬ男に削られていく感覚に、胸の奥がチリチリと焼ける。
「そういえば葛谷君に『杏奈ちゃん可愛いし性格もよさそう』って言われちゃった。彼見た目もかっこいいし、女の子から人気でそうだよね」
世間話をするように、楽しそうに話す杏奈。
「アン、葛谷君に褒められて嬉しかったんだね……」
浩紀はどこか突き放すような声で、杏奈から目をそらして答えた。
「ヒロ……? 怒ってるの?」
その浩紀の様子に困惑して尋ねる杏奈。
「……怒ってないよ。それとも俺が怒らなきゃいけに様なことしてたの?」
いけないと思いつつも、つい口調がきつくなってしまう浩紀であった。
「そんなこと絶対にしない!……でもゴメンね、ヒロに嫌な思いさせちゃって……」
反射的に出てしまった嫉妬の言葉に、浩紀自身が自分の器の小ささを感じ後悔する。
アンの顔から笑顔が消え、寂しそうに瞳が揺れる。
「ごめん、アン。今のは……」
謝ろうとしたが、言葉が続かない。
浩紀は逃げるように視線を逸らし、先に歩き出した。
杏奈を悲しませたくないのに、抑えきれない独占欲が、二人の間に初めての「不協和音」を鳴らしていた。
校舎の窓から二人の後ろ姿を見下ろしながら、葛谷は低く笑う。
「……なるほど。あの生徒会長、彼女のためなら何でも受け入れようとするタイプか。面白いじゃんか。どこまで耐えられるか、試してやるよ」
第6章第1話をお読みいただきましてありがとうございます。
恋人同士になり幸せをかみしめていた二人の関係を揺るがしそうな葛谷が登場。
今後二人の関係がどうなってしまうのか、今後のお話をぜひお待ちください。
「葛谷とかかわらないで!」「杏奈無防備すぎるだろ!」などと思われた方、続きが気になってくれている方、是非ブックマーク(更新通知受け取り)と評価★で応援してください。毎日投稿する活力になります。
毎日19時に1話ずつ投稿予定ですので、よろしくお願いします。




