第5.5章 第2話イルミネーションデート、杏奈はサンタさん(後編)
イルミネーションを手をつないで眺めた二人は、食事のために浩紀が予約したイタリアンのお店にやってきていた。
「クリスマスによくお店の予約が取れたわね?」
「ちょうど電話した時にキャンセルが出ていたらしくってね。もしかしたら僕たちをサンタさんが祝福してくれたんじゃないかな?」
「ヒロの癖に何を気障なこと言ってるのよ。そういうのは博康さんの領分でしょ」
杏奈は博康の名前を出してしまってからはっとした。
そんな杏奈の表情を見た浩紀は穏やかな笑顔を浮かべて伝えた。
「……そんなに気にしなくて大丈夫だよ。今はそれぐらいならなんともないから。もう兄さんにコンプレックスを持つことはやめたんだ」
浩紀は、以前のような苦い笑いではなく、どこか吹っ切れたような、静かな瞳で杏奈を見つめた。
「兄さんのことは今も尊敬しているけど、……これからは兄さんとは別の方法での杏奈の隣に立つって決めたから」
杏奈は、浩紀の瞳にただの幼馴染だった頃には感じてこなかった強い光を見つけた。
「……なにそれ。ヒロのくせにカッコつけちゃって……。それにそんな風にじっと見つめられたら緊張しちゃうじゃない……」
浩紀は少しだけ視線を逸らして、照れくさそうに笑う。
「でも、あんまり兄さんの事ばっかり褒めると、さすがに焼きもち焼くからね。今日は……僕だけを見てほしいかな」
そう言ってお互いの顔を見ながら笑いあう二人であった。
ーーー
食事を終え、レストランから出てきた二人。
外はすっかり暗くなっており一段と寒さが身に染みた。
「ヒロ、ごちそうさま。とってもおいしかったわ」
杏奈は満面の笑みでお礼を言った。
「アンが喜んでくれてよかったよ。」
浩紀の表情には、心の底からそう思っていることが如実に表れていた。
「そろそろ帰ろっか」
そう言って歩き出す二人の手は、何の違和感もなくつながれ、心とつないだ手はとても暖かく感じられた。
「そういえばヒロはマフラー持ってないって言ってたよね?」
「そうなんだよ。去年電車の中に忘れてきちゃって。結局出てこなかったんだよな」
「去年そんなこと言ってたもんね。」
(まだ持ってないみたいでよかった……)
杏奈は心の中でガッツポーズをしながら、安堵の息を漏らした。
ーーー
お互いの家の前につくと、
「そうだ、あとでヒロの部屋に行ってもいい?渡したいものがあるんだけど」
少しだけ不安そうな表情の杏奈が、上目遣いで浩紀に尋ねた。
「もちろん構わないよ。今日は兄さんも遅くなるって言ってたし、玄関のカギ開けておくから入っておいでよ。」
「わかったわ。私が行くまで寝ちゃだめだからね」
杏奈は嬉しそうに答えた。
2人はお互いに家の中に入っていった。
自分の部屋についた杏奈はクローゼットの奥深くに隠しておいたサンタクロースの女性用のコスチュームを引っ張り出すと、鏡の前で着替え始めた。
鎖骨と肩先をきれいに覗かせるオフショルダー(※1)の白、タイトなウエストから広がるフレアスカートから伸びる奇麗な脚、太めの黒いベルトが、そのシルエットをきゅっと引き締めていた。そして当然の様に胸元には三日月のネックレスが輝いていた。
(この格好でいったらヒロびっくりしちゃうかな?)
杏奈の顔は少しの恥ずかしさがありつつも、その表情はいたずらっ子のようであった。
着替え終わった杏奈は浩紀のために午前中に買いに行ってきたクリスマスプレゼントをもって、彼の家へと向かった。
杏奈は桐谷家に入ると、そのまま一目散に浩紀の部屋の前にやってきて、トントンと扉をノックした。
「ヒロ、入っていい?」
「大丈夫だよ、アン」
杏奈を待っていた浩紀からすぐに返事が返ってきた。
杏奈が扉を開けて入っていくと、それを見た浩紀は完全に思考を停止させ、ただただ杏奈に見入っていた。
(なに?この魅力的な生き物は?やばすぎでしょ!)
「ヒロ、この衣装どうかな?」
杏奈は不安そうに浩紀に上目遣いで尋ねた。
浩紀は杏奈の声で我に返り、
「う、うん……。すっごく可愛いし、とっても似合ってるよ」
「……ありがとう」浩紀に褒められて杏奈は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「そういえば渡したいものって?」
「そうだった。はい、メリークリスマス、ヒロ!」
浩紀はプレゼントを受け取りながら「ありがとう」と嬉しそうに返事をした。
「開けてもいいかな?」
「もちろん」
プレゼントの包装を丁寧に開け、出てきたマフラーを見て、
「マフラーを買ってくれたんだね!ありがとう。早速明日から使わせてもらうよ」
そう嬉しそうにいう浩紀に対し、
「駄目よ。ちゃんと今ここでつけてもらうんだから」
そう言うとマフラーを浩紀に首に緩めに巻き、「えい」と可愛い掛け声をつけて緩めのマフラーの隙間に顔を突っ込んだ。
杏奈の可愛い掛け声と行動に胸をきゅんとされながら、杏奈からかすかに香る香水の匂いに酔いしれた。
まだ暖まり切っていなかった室内で、二人がいる場所だけはとても暖かく感じられた。
杏奈と浩紀には身長差があり、ちょうど浩紀の胸に杏奈の耳があたる格好になる。そのため、浩紀の激しい心臓の鼓動が直接耳に伝わってきた。
(……ヒロ、凄いドキドキしてる。私もドキドキしちゃう……)
「アン?」
「ヒロの胸大きいね。こうしてるとすっごいドキドキしちゃう。」
浩紀は「僕も同じだよ」といって杏奈の体温を感じながら、ギュっと体を抱きしめた。
「僕にこんな幸せな気持ちを運んでくれる杏奈は僕にとってのサンタさんだね」
2人は静かな部屋の中でお互いの体温を感じあっていた。
第5.5章第2話をお読みいただきありがとうございます。
二人だけの聖夜。浩紀と杏奈にとって、忘れられないクリスマスになりました。
特に肩まで出てる(オフショルダー)サンタさんの衣装を着ている杏奈を独り占めできる浩紀は幸せ者ですよね。
そしてこの後もまだまだ二人の甘い冬休みのイベントが続きます!是非最後までお楽しみください。
初々しい二人のやり取りを祝福してくれる方、サンタさんな杏奈が可愛すぎるという方は、ぜひブックマーク及び評価☆にて祝福をお願いします。
2人へ一言やこの物語の感想も随時お待ちしています。
※1:肩が見えるくらいまでネックラインが大きく開いたデザインの洋服で、肩先まで露出されるので鎖骨がきれいに出て、華奢な印象を与えます
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