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『幼馴染の境界線 ―僕の祈りと、君の憧れ―』  作者: サッサン
第5章:聖夜の審判、そして約束の指輪

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73/100

第5章 第七話:聖夜の審判

今回は5章の7話と8話(5章完結)を一気に読んでいただきたいので、特別に8話(5章完結)も清書が終わり次第投稿いたします(予定:20時ごろ)。是非ご覧ください。

街の喧騒から少し離れた、ライトアップされた広場。

その中央にそびえ立つ巨大なクリスマスツリーは、まるで聖夜のすべてを見守るかのように神聖な輝きを放っていた。

浩紀に背中を押され、ここに辿り着いた杏奈は、冷えた手をコートのポケットに突っ込みながら博康を待っていた。


「……待たせたかな、杏奈ちゃん」


人混みの向こうから、いつもの穏やかな笑顔を浮かべた博康が現れた。

浩紀とよく似た、けれど大人の余裕を感じさせるその姿に、杏奈の心拍数は跳ね上がる。


「いいえ、私も今来たところです。……博康さん、今日はありがとうございます」


「いや、俺も杏奈ちゃんと話したいと思ってたんだ。浩紀から聞いてたよ。……今日、君が俺に大切な話があるって」


博康の口から出た「浩紀」という名前に、杏奈の胸がわずかに疼いた。

自分が今日ここに立っているのは、誰よりも自分を理解してくれる「ヒロ」が、自分の恋のために背中を押してくれたからだ。


「はい……。私、ずっと博康さんに……」


杏奈が震える声で想いを切り出そうとしたその時、博康はふっと視線をツリーの頂点へと向け、優しく、けれどどこか試すようなトーンで彼女を制した。


「杏奈ちゃん。その言葉を口にする前に、一つだけ俺の質問に正直に答えてほしい。いいかい、ゆっくりと想像して」


博康は杏奈の瞳を覗き込み、彼女にそっと目を閉じさせた。


「もし今、俺に君以外の恋人ができてしまったら、君はどんな気持ちになる?」


杏奈は瞼の裏で、博康が自分ではない誰かと楽しそうに歩いている姿を思い描いた。

彼は優しくて素敵だ。

いつかそんな日が来ること、そして自分がその幸せを遠くから見守る未来を、杏奈は何度もシミュレーションしていた。


「……悲しいです」


杏奈は一つ一つの感情を確かめるように、慎重に心を探ってから、静かに答えた。


「でも……博康さんは素敵だから。仕方ないかなって、諦められる気がします」


博康は深く頷き、さらに問いを重ねた。その声は、弟の想いを背負った、柔らかなそれでいて真剣さを感じさせる声であった。


「なら……今度は俺ではなく、浩紀に別の恋人ができてしまったら? 沙織ちゃんや薫ちゃん……誰でもいい。あいつの隣に、君ではない別の女性がいて、君に向けられていたあの優しい笑顔が、すべてその人にだけ向けられる。浩紀の日常から、君が消えてしまう。……それを想像してみて」


杏奈はその光景を頭に浮かべようとした。

けれど、心がそれを拒絶した。


浩紀が、沙織と腕を組んで寄り添って歩いている。

浩紀が、薫にだけ仕方ないなぁと特別な優しさを見せている。

自分が「ヒロ」と呼んでも、彼はもう、あの日々のように自分だけを見てはくれない――。


そこまで考えた瞬間、杏奈の心臓が今まで聞いたことのないほど大きな音を立てて激しく脈打ち、呼吸が浅くそして早くなった。

胸の奥を鋭利なナイフで抉られるような激痛が走る。そして、立っていられないほどの眩暈が彼女を襲い、その場にしゃがみ込んでしまう。


「嫌……!」


ずっと隠してきた心の奥底から絞り出すような絶叫。

気づけば、しゃがみ込んだ杏奈の瞳からはとめどなく涙が溢れ出していた。

博康への淡い憧れを、濁流のような執着と絶望が飲み込んでいく。


「絶対に嫌! 誰にも触らせたくない……私だけのヒロなのに! ヒロが私の横からいなくなるなんて、痛くて、苦しくて……っ、そんなの耐えられない……!!」


杏奈は顔を覆い、子供のように声を上げて泣き崩れた。

ツリーの華やかな光が、皮肉なほど彼女の喪失感を際立たせる。


「お願い……神様でも博康さんでも誰でもいいから、私からヒロを奪わないで……っ!」


無意識に胸の三日月を掴み、泣きじゃくりながら声を絞り出す杏奈の肩に、博康はいつもの優しい笑顔でそっと手を置いた。


「今、杏奈ちゃんにとって世界で一番失いたくない人が誰なのか。本当の答えが、出たんじゃないかな?」


ツリーの光が、杏奈の涙をキラキラと反射させる。


今まで故意に見ようとしてこなかった自分の本当の気持ち。

それは、憧れの対象としての「博康」ではなく、常に自分の隣にいて、自分という存在を支えてくれていた「ヒロ」への、ハッキリとした純粋な愛であった。

第5章第7話をお読みいただきありがとうございます。


ついに、博康の問いかけによって杏奈の「本当の心」が剥き出しになりました。

誰にも渡したくない、自分だけのヒロ。

クリスマスツリーの前で泣き崩れる杏奈の姿に、読んでいて胸が熱くなります……!


自分の本当の愛に気づいた杏奈は、ここからどう動くのか。そして、公園で三日月を見上げる浩紀の元へ、この声は届くのか……。


「杏奈、早くヒロのところへ走れ!」と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価☆】で二人の運命を応援していただけると嬉しいです!


次回、第8話(第5章完結)を今夜20時頃の投稿を予定しています。よろしくお願いします!

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