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『幼馴染の境界線 ―僕の祈りと、君の憧れ―』  作者: サッサン
第5章:聖夜の審判、そして約束の指輪

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第5章 第五話:聖夜の幕開け

12月24日、クリスマスイブ当日。

朝から降り出しそうな厚い雲に覆われた空は、昼過ぎにはホワイトクリスマスを予感させる冷たい空気に変わっていた。


「ヒロ……どうかな、これ」


夕暮れ前、浩紀の前に現れた杏奈は、白いコートに身を包み、少しだけ背伸びをしたような大人びた装いをしていた。

浩紀のアドバイス通り、派手すぎず、けれど特別な日であることを感じさせる服装であった。


「……うん、綺麗だよ。兄さんも、きっと驚くと思う」


(アン、本当に綺麗だ。……これが自分のためにしてくれた格好だったら、どんなに嬉しかったか……)


浩紀は胸を刺すような痛みを感じながら、意識して穏やかな笑みを浮かべた。

自分以外の男性を想ってした服装。

自分以外の男性が待つ場所へ向かう杏奈。

それでも、目の前の杏奈を「綺麗だ」と称賛することだけは、幼馴染として許された最後の特権だった。


「……本当? 変じゃない?」


「ああ。最高に可愛いよ。自信を持って行ってこい」


浩紀は杏奈の肩を軽く叩き、駅へと向かう彼女の背中を押し出す。


「ヒロ、私……行ってくるね」


「ああ。頑張れよ、アン」


杏奈が角を曲がり、その姿が見えなくなるまで、浩紀は見送った。

彼女の幸せを祈る。その一点において、今の浩紀に迷いはなかった。

けれど、独りになった瞬間に押し寄せたのは、心臓が凍りつくような喪失感だった。


ーーー


家に戻った浩紀は、自室の電気もつけずに、ただ椅子に身を沈めた。

窓の外からは、ジングルベルの歌と共に街の浮かれた喧騒が微かに聞こえて来ていたが、その音が浩紀にはすごく遠く感じられた。

今、ポケットの中には、先日買った銀の三日月の指輪がある。


博康が杏奈を受け入れれば、数時間後、二人は恋人になるだろう。

そうなれば、この指輪はゴミ箱に捨てるか、二度と開かない引き出しの奥に隠すだけだ。


(……それでいいんだ。アンが幸せなら、それで)


浩紀は暗闇の中で、何度も自分に言い聞かせた。

沙織や薫からの誘いを断った今の自分には、頼る場所も、待っている相手もいない。


ただ、自分が導いた「アンの恋」が成就するのを、この暗闇の中で静かに受け入れることだけが、伝説の男と呼ばれた自分の、最後の大仕事なのだと。


(「アンを笑顔にする」、これが俺の望んだ結末なのだから……)


言い聞かせるように心の中でつぶやいた。

時計の針が、非情なほどゆっくりと進む。

一分一秒、杏奈が博康に近づき、自分から遠ざかっていく。


浩紀は暗い部屋の中で、膝の上に置いた三日月の指輪の箱を両手で優しく握りしめ、沈黙の中で、誰にも届かない「祈り」を捧げ続けていた。

第5章第5話をお読みいただきありがとうございます。


ついに訪れた12月24日。杏奈の背中を笑顔で押し出した浩紀を待っていたのは、自室の暗闇と、あまりにも残酷な静寂でした。

膝の上の「三日月の指輪」を優しく握りしめる浩紀の姿に、胸が締め付けられます……。


浩紀の捧げるこの「祈り」の結末がどうなるのか、ここからの展開をどうか見守ってあげてください。


浩紀を全力で応援したい、幸せになってほしい!と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価(下の☆☆☆☆☆をポチッと!)】で彼の背中を支えていただけると嬉しいです!


次回も19時頃の投稿を予定しています。よろしくお願いします!

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