第5章 第四話:沈黙の祈り
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生徒会の仕事で少し遅くなった帰り道、浩紀は一人で夜の街を歩いていた。
歩き慣れた帰り道、今は街路樹を彩る電飾が少し幻想的な雰囲気を出していた。
それが今の彼にはひどく眩しく、それでいてどこか他人事のように映る。
(アンとここを一緒に歩くことはきっともうないんだろうな)
ふと足を止めたのは、駅ビルにある宝飾店の前だった。
煌びやかなショーケースの中に、一点の銀の指輪が飾られていた。
華美な装飾はないが、繊細なラインが特徴の、どこか幼い頃に杏奈へ贈ったおもちゃの三日月の指輪を彷彿とさせるデザインであった。
(……アンが、好きそうな形だな)
そう思った瞬間、胸の奥がチリりと焼けるような痛みに襲われた。
今は、兄・博康への告白を成功させるために、自分に相談までしてきている杏奈。
彼女の恋を応援すると決めた自分が、こんなものを見る意味なんてなにもない。
(分かってる。渡せるはずなんてないんだから)
もし買ったとしても、博康が杏奈を受け入れれば、この指輪は一生、日の目を見ることはないだろう。
そのまま引き出しの奥で忘れられていくか、あるいは自分の杏奈への恋心とともに捨てることになるだろう。
そう頭では理解していたが、それでも浩紀の足は動かなかった。
もし、万が一、 ほんのわずかな奇跡が起きて、彼女が自分の隣に戻ってきてくれるかもしれない。
その時、かつて渡した「おもちゃ」ではなく、本当の「愛」として、彼女にこの指輪を贈りたい。
(渡せるはずがないのはわかってる。でも最後にそのぐらい、夢見たっていいよな)
自嘲気味に苦笑いする浩紀。
「……これ、ください」
店員に声をかけた浩紀の指先にはもう迷いはなかった。
それは明るい結末を夢見た希望などではなく、絶望の中に無理やり見つけた、希望という名のか細い「祈り」ではあったが。
「プレゼント用でしょうか?」
「……いえ、自分で持っておくだけなので。そのままでいいです」
(そう、これは俺にとっての最後の「祈り」。……最後まで信じていたい希望なのだから)
落ち着いた雰囲気の初老の男性店員は不思議そうな顔をすることもなく淡々と、それでいて丁寧に対応してくれた。
浩紀は箱を受け取り、コートのポケットに深く押し込む。
手のひらに伝わる小さな四角い感触。
もしかしたら一生渡せないかもしれない。
でも、もしこれを渡すことができたら、彼女はどんな顔をして喜んでくれるだろうか。
そんな「ありえない未来」を想像してしまった自分に、浩紀は自嘲気味な笑みを浮かべた。
「……馬鹿だな、僕は」
(でもこれが僕なんだ)
冷たい夜風が頬を打つ。
浩紀はポケットの中の「祈り」を握りしめ、誰にも見せることのない孤独な決意を胸に、家路を急いだ。
とても寒い冬の夜であった。
第5章第4話をお読みいただきありがとうございます。
イルミネーションの輝く街で、浩紀が手にした小さな箱。
渡せるあてのない三日月の指輪は、彼にとってあまりにも切ない「祈り」そのもの。
浩紀のこの孤独な決意が、今後のクリスマスに向けてどう動いていくのか……。
浩紀に幸が訪れるようにみんなで応援してあげてください!
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次回も19時頃の投稿を予定しています。よろしくお願いします!




