第5章 第一話:残酷な相談役
第5章の幕開けです。ここから大きく物語が動き出していきますのでお楽しみに。
どんよりとした曇り空が広がる放課後。文化祭の熱狂が去り、街に冬の足音が聞こえ始めていた。
浩紀は杏奈に図書室へと呼び出された。
杏奈の呼び出しであれば、浩紀はいつもなら喜んで向かうのに、今日はなぜか嫌な胸騒ぎがした。
それを無理やり抑え込むと足早に図書室へ向かう。
杏奈は図書室の隅で、落ち着かない様子で浩紀を待っていた。
「ヒロ、ごめんね。忙しいのに……」
「いいよ。アンの頼みならいつだって聞くって言ってるだろ?」
浩紀は不安な気持ちを隠し、努めて明るく笑った。
けれど、杏奈の次の言葉で、その心臓は凍りついた。
「私……博康さんに告白しようと思う。クリスマスイブに」
スッと血の気が引き、視界が歪むような感覚に襲われる。
倒れそうになる身体を、浩紀は必死に歯を食いしばって持ち直した。
そして、強く握りしめた拳を、杏奈から見えない死角へと隠した。
「……そうか。ついに決めたんだな」
「うん。文化祭の時、博康さんと一緒に過ごすことが出来てホントに楽しかったの。その時思ったんだ。私はやっぱり博康さんが好きなんだって。でも、私……博康さんにどう伝えたらいいか、どんな場所がいいのか、分からなくて。ヒロは男の子だし、博康さんの弟だから……相談に乗ってほしいの」
(……よりによって、僕にか)
浩紀の胸のうちは、叫び出したいほどの苦痛で溢れていた。
自分を「幼馴染」という安全地帯に閉じ込めて、愛する人が他の男へと向かう手助けをさせる。
これほど残酷な仕打ちはない。
けれど、不安そうに自分を見つめる杏奈の瞳に、浩紀は抗えなかった。
(……俺は決めたはずだ。アンが笑顔になれるなら俺の気持ちには完全に蓋をするって……)
決意を固め、また作り笑顔の仮面をかぶりなおした浩紀は杏奈に伝えた。
「兄さんなら……派手なサプライズより、静かな場所がいいと思う。ライトアップされた広場のツリーの下なら、兄さんもしっかり話を聞いてくれるはずだよ」
一言、言葉を紡ぐたびに、自分の恋心が鋭い刃で削り取られ仮面がはがれそうになるような感覚。
それでも浩紀は、杏奈に「頑張れ」と微笑んで見せた。
杏菜の幸せを壊す理由に、自分がなることだけは許せなかったから。
杏奈にはいつも笑顔でいてほしい、その一心だった。
浩紀が隠して握っていた拳の手のひらにはしっかりと爪の食い込んだ跡が残っていた。
第5章第1話をお読みいただきありがとうございます。
今回は浩紀の取ってとても残酷なお願いを杏奈からされてしまいました。書いている私もせつない気持ちでした。今後二人の関係はどのようになっていくのか、そして傷ついた浩紀に沙織と薫がどのようにかかわっていくのか目が離せません。ここまで読んでくださった読者様にはお気に入りの人物がいるはず!なのでその人物を応援してあげてください(昨日投稿した投票でも応援してあげてくださいね)。応援はぜひ感想欄へお願いします。
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