第4章完結 第二十話:伝説の余韻、混走の帰路【加筆&修正】(26年6月9日)
第4章のクライマックスです。文化祭の熱気そのままの車内の雰囲気を感じてみてください。
キャンプファイヤーの火が小さくなり、文化祭の喧騒が静寂へと変わっていく頃。
校門前には、博康が運転する大型のファミリーカーが停められていた。
「みんなお疲れ様。今日は荷物も多いだろうし、家まで送っていくよ」
爽やかに告げられた博康のありがたい提案に、河合家の二人(杏奈、薫)はもちろん、同じ方向に住む太田や沙織も同乗することになった。
車内は、文化祭の熱気がそのまま持ち込まれたような高揚感に包まれていた。
「それにしても浩紀、お前は本当にやってくれたな」
助手席の太田がニヤニヤしながら振り返った。
「三冠王だもんなぁ。こんな人は今までいなかっただろうし、歴史に名を刻んだよな!」
その言葉を合図に、後部座席に座る面々の視線が、中央で身を縮めている浩紀に集中した。
「ねぇ、浩紀さん」
隣に座る薫が、手にした映画チケットをひらつかせながら、甘い声で囁いた。
「3位の恋愛映画、いつ観に行きますか? 私は明日でもいいんですよ?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、薫ちゃん」
反対側に座る沙織が、凛とした声で割り込みました。
「2位のジョイポリスが先よ。薫ちゃんは3位なんだから2位の私に優先権があるはずよ。あそこは一日中遊べるんだから、浩紀のスケジュールを丸一日私に預けてもらわないと。ね、浩紀? 明日か来週の週末なんてどうかしら」
「それならおばさ、……年上の余裕というやつで、可愛い後輩に優先権を譲ってくれてもいいじゃないですか。浩紀さんもそう思いますよね?」
板挟みになった浩紀が「あ、いや、それは……」と言い淀んでいると、運転席のバックミラー越しに、博康の楽しげな視線が投げかけられた。
「浩紀、モテる男は辛いね。でも、一番の問題は『1位』のチケットじゃないか?」
車内が一気に静まり返り、全員の意識が、「品川プリンスホテル宿泊券」をバックの中に収めている杏奈に向いた。
「……アン」
浩紀が恐る恐る、窓際で黙り込んでいた杏奈に声をかけると、杏奈は外の景色を見つめたまま、赤くなった耳を隠すように髪をかき上げた。
「……私は、別に。ヒロが、どうしても行きたいって言うなら……考えなくもないけど」
「お姉ちゃん、ずるい! それ、水族館のチケットも付いてるんでしょ? 私が浩紀さんと行きたい!」
「薫ちゃん、これはコンテストの結果なんだから、仕方ないわよ。……もっとも、浩紀が私と一緒に行きたいって言うのなら、私がその宿泊券を喜んで買い取ってあげるわよ」
沙織の挑発的な言葉に、杏奈がピクリと肩を揺らす。
外の景色を眺めていた杏奈は、動揺がばれないように外を見ているふりを続けた。
その時段差で車が揺れ、制服の襟元からあの「月のネックレス」が、窓から差し込む月の光を受けて、一瞬だけ鋭く、青白く輝いた。
(……ヒロがくれた、私だけの月)
運転席で笑う博康の背中を横目で見つめながらも、彼女の手は無意識に、服の上からその小さなチャームを強く握りしめていた。
博康への「憧れ」を口にするほどに、このネックレスが、彼女の心を浩紀という「最も身近な異性」へと繋ぎ止めて離さない。
「……あげないわよ。これは、私とヒロが貰ったものなんだから」
ポツリと、けれど拒絶の意志を込めて呟いた杏奈の言葉に、車内の温度がわずかに上がった気がした。
「ははは、こりゃ当分、桐谷家と河合家の周りは騒がしくなりそうだ」
博康がハンドルを切りながら、他人事のように笑っていた。
自宅近くで太田と沙織を降ろし、車はやがて見慣れた住宅街へと入っていった。
窓の外を流れる街灯の光を見つめながら、浩紀は自分のポケットにある三枚の「約束」に不安と期待の入り混じった確かな重みを感じていた。
こうして文化祭は終わった。
けれど、このチケットたちが引き起こす波乱は、まだ始まったばかりであった。
第4章20話(最終話)をお読みいただきありがとうございます。
伝説の三冠達成をし、戦いの舞台は博康の車の中へ。
3人からの波状攻撃に、流石の浩紀君もタジタジです。
「アンの『あげないわよ』が、意地なのか本心なのか……たまらない!」「ネックレスを握る手に、彼女の本当の気持ちが見えた気がする」
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今回で文化祭編も完結。明日の19時には第5章の前に間幕で沙織と薫のデートについて投稿します。手に取ったチケットたちは、一体どんな波乱を巻き起こすのか。お楽しみに。
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