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第六話:夏の光と、避暑地へのプロローグ

八月の陽光がアスファルトを眩しく焼く、軽井沢旅行の出発当日。

桐谷家の前には、洗車されたばかりの黒いSUVが静かに佇んでいた。


「博康君、おはよう。今年も二泊三日、よろしくお願いしますね」


柔らかな声に振り返ると、そこには河合家の長女・香澄が立っていた。

黒髪に緩いウェーブをかけた彼女は、白いサマードレスに身を包み、大人の女性らしい落ち着いた微笑みを湛えている。

博康とはかつて恋人同士だったが、現在は微妙な距離感を保つ「伝説の元会長コンビ」だ。


「お任せください、お姫様。最高の旅を約束しますよ」


博康がおどけて頭を下げると、香澄は「もう、相変わらずね」と少し照れくさそうに笑った。

そのやり取りを、荷物を積み込んでいた浩紀は複雑な心境で見つめる。

兄と香澄の間に流れる、自分たちには踏み込めない完成された空気。


「浩紀兄ちゃん、おはようございます!」


そこへ、ポニーテールを揺らした薫が駆け寄ってきた。


「あ、薫ちゃん。おはよう」


「今日のために、浩紀兄ちゃんが好きそうなプレイリスト作ってきたんです。車で流してもいいですか?」


浩紀が優しく微笑むと、薫は頬を染めて嬉しく頷いた。その後ろからは、大きなキャリーケースを引いた杏奈が現れる。

彼女は助手席に座る香澄と、運転席の博康を見て、わずかに瞳を揺らした。


「博康お兄ちゃん、おはよう! 今日は……助手席、お姉ちゃんなんだ」


「ああ、道案内も兼ねてね。杏奈ちゃんたちは後ろでゆっくりしてね」


博康の言葉に、杏奈は小さく「はーい……」と返したが、その視線はどこか寂しげに博康の後頭部を追っていた。

ーーー

車はまず、駅前で待つ畑中沙織を迎えに向かった。 ロータリーに車が滑り込むと、真っ先に沙織が大きく手を振るのが見えた。


「浩紀君、こっちこっち!」


弾けるような笑顔で、浩紀だけを見つめて駆け寄ってくる沙織。ショートパンツ姿に大きなストローハットを被った彼女が車内に乗り込んだ瞬間、空気が一気に華やいだ。


「お待たせ、畑中さん」


「ううん、今来たところ! 桐谷くんの隣、空いてる? 私、そこがいいな!」


沙織が浩紀の隣に滑り込み、太田と彼の彼女・ミキも合流して、総勢8人を乗せた車は高速道路へと滑り出した。

ーーー

「……ちょっと、休憩しようか」


出発から二時間。車は緑に囲まれたサービスエリアに滑り込んだ。

ドアが開くと、高原に近い涼やかな風が吹き込む。


「浩紀兄ちゃん、冷たい飲み物買ってきますね!」


「あ、薫ちゃん、俺も行くよ」


浩紀が薫と歩き出そうとすると、反対側から沙織がひょいと腕を絡めてきた。


「浩紀くん、私も行く! どっちのアイスが美味しいか選んでほしいな」


「えっ、あ、ああ……」


戸惑う浩紀の右側で薫がムッとした表情になり、左側では沙織が楽しげに笑う。その光景を、太田が


「モテる男は辛いねぇ」


とニヤニヤしながら眺めていた。

一方、杏奈は自販機の影で、博康と香澄が親しげに談笑している姿をじっと見つめていた。


「……結局、私は『妹』止まりなのかな」


ぽつりと溢れた独り言は、騒がしい観光客の声にかき消された。

ーーー

お昼前。 車は鬱蒼とした木々のトンネルを抜け、ついに軽井沢の別荘地へと到着した。木漏れ日が揺れる石畳の先に建つ、桐谷家の別荘。


「着いたぞ。ここが、今年の夏の舞台だ」


博康がエンジンを切ると、窓の外には都会の喧騒を忘れさせる深い緑と、透き通った空が広がっていた。 一見、仲の良い幼馴染たちの夏休み。

けれど、その胸の内には、それぞれが抱える「誰にも言えない想い」が、避暑地の霧のように静かに立ち込め始めていた。


昨日の一挙投稿に続き、本日より本格的に「軽井沢旅行編」がスタートしました。

爽やかな避暑地の空気の中で、それぞれの秘めた想いが少しずつ形を変えていく様子を描いていければと思っています。


明日からも、毎日夜19時ごろに1話ずつ更新していく予定です。


浩紀を巡る争奪戦、そして博康と香澄の過去……。

彼らの夏休みを、ぜひ最後まで一緒に見届けていただけたら嬉しいです。


もし「続きが気になる!」「杏奈を応援したい!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけますと、執筆の大きな大きな力になります。


また明日、19時にお会いしましょう!

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