第五話:すれ違うヒーロー、芽生える覚悟
終業式を目前に控えた放課後。 浩紀は生徒会長の加奈子に呼び出され、夏休み中の役員会議に参加していた。
「アン、ごめん。今日は生徒会があるから、先に帰ってて」
「……えー。わかったわよ、じゃあね。あんまり遅くならないようにね?」
少し不満げに、けれどいつものように強がって手を振る杏奈を見送った浩紀は、申し訳なさを覚えながらも資料へと向き直った。
ーーー
一方、一人で帰路についた杏奈は、駅近くの本屋で雑誌を眺めていた。店を出た直後、見知らぬ二人組の男に声をかけられる。
「ねえ、君。これから暇? ちょっとお茶でも行こうよ」
「すみません、急いでるので……」
「そんなこと言わずにさ。可愛いね、モデルさん?」
断っても男たちは一向に引き下がらない。それどころか、一人が杏奈の細い手首を強引に掴んだ。
「ちょっと……! 離してください!」
恐怖で足がすくみ、声が震える。
(……ヒロ、助けて……!)
心の中で幼馴染の名を呼んだその時、鋭いブレーキ音とともに一台の黒いSUVが歩道脇に止まった。運転席から降りてきたのは、たまたま通りがかった博康だった。
「……君たち、その子から手を離してくれないか」
博康が放つ圧倒的な「大人」の威圧感と、元生徒会長らしい隙のない佇まいに、男たちは舌打ちをして逃げるように去っていった。 助手席に乗せてもらい、家まで送ってもらう道中。杏奈はハンドルを握る博康の横顔を盗み見る。
(……やっぱり、かっこいいなぁ。博康お兄ちゃんは、いざという時に絶対に守ってくれる……)
恐怖から救われた安堵と、長年抱き続けてきた憧れ。助手席という近い距離も相まって、杏奈の胸は激しく高鳴っていた。
ーーー
その夜。生徒会を終えて帰宅した浩紀の携帯が鳴った。杏奈からだった。
『ねえヒロ、聞いてよ! 今日、駅前で変な男たちに絡まれちゃったんだから』
「えっ!? 大丈夫だったのか!?」
慌てて聞き返す浩紀の声には、切実な響きがあった。しかし、電話越しの杏奈はどこか陶酔したような、甘い声で続けた。
『うん。誰かさんは必要な時にいなかったけど……』
『博康お兄ちゃんが助けてくれたの。車から降りてきた時、本当に王子様みたいで。』
『あんな風に守られたら、好きになっちゃうよね』
「……そっか。兄さんが、いて良かったな」
浩紀は電話を握る手に、じわっと力がこもるのを感じた。 まずは、何よりも杏奈が無事でいたことへの心からの安堵感。けれどその直後、「自分がそばにいれば」という激しい後悔と、何をしても敵わない兄への強い劣等感が、重く胸にのしかかってきた。
「……本当に、無事で良かったよ」
『もう、他人事みたいに言わないでよ。じゃあね、おやすみ!』
明るく切られた電話の音。浩紀は静まり返った部屋で一人、深くため息をついた。
ーーー
同じ頃、河合家のリビングの隅で、その会話のすべてを耳にしていた人物がいた。 末っ子の**薫**だ。
(……お姉ちゃん。浩紀兄ちゃんがどんな気持ちでその話を聞いてるか、考えたことないの……?)
自分を一番に想ってくれている浩紀に対して、あまりにも無神経な言葉を投げかける姉。電話を切った後の浩紀の痛みを想像するだけで、薫の胸は張り裂けそうだった。
(お姉ちゃんが、あんなに無自覚に浩紀兄ちゃんを傷つけ続けるなら……)
薫は拳を強く握りしめた。 軽井沢の夏休み。そこで浩紀がまた一人で傷つくことがないように。
(……私が、浩紀兄ちゃんのことを救ってあげる。お姉ちゃんよりずっと、私の方が浩紀兄ちゃんを大切にできるもん)
少女の純粋な恋心に、姉への反発という鋭い棘が混じり始めた。 永徳高校の夏休み。それは、この幼馴染たちの関係を根底から揺るがす3日間になろうとしていた。
第5話を読んでいただきありがとうございます。
……浩紀、強く生きてくれ( ;∀;)。
好きな女の子から、別の男(それも自分の実の兄)を王子様呼ばわりされる電話なんて。
書いている私自身も、浩紀の気持ちを思うと辛かった……私がそう書いたせいなんですけどね。ゴメン、浩紀(-_-;)
そしてついに、末っ子の薫が覚悟を決めました。
この子は沙織とはまた違う感じに……。これ以上は、恐ろしくて言えません((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
杏奈の無自覚な振る舞いが、静かに、けれど確実に「幼馴染」という関係を壊し始めています。
皆さんは、今の杏奈をどう思いましたか?(でも、あんまり責めないであげてくださいね)
感想や、浩紀への応援(笑)、ぜひ【ブクマ】や【評価】で届けていただけると嬉しいです!
完結まで、このままの熱量で走り抜けます!




