第四話:朝の不協和音と、広がる波紋【加筆&修正】(26年5月26日)
26年5月26日に加筆&修正を行いました。
翌朝。登校中の浩紀は、隣を歩く杏奈に昨夜の決定事項を切り出した。
「あ、そうだ。アン。昨日の夜に兄さんと話したんだけど、クラスの畑中さんも軽井沢に一緒に行くことになったよ」
前を向いて歩いていた杏奈の足が、わずかに乱れた。
「……え、畑中さん? 昨日の教室で話してた子よね。……いつそんな話になったの?」
「昨日、太田と旅行の相談をしてたら畑中さんも興味持ったみたいで。一応、昨日の夜に本人にもラインで『兄さんがOKだって』って伝えておいたんだ」
その瞬間、杏奈が足を止め、ジロリと浩紀を睨んだ。
「……ライン、交換したんだ」
「え? ああ、連絡用にさ」
「ふーん……。そうなんだ。へぇー……」
杏奈はそうぶっきらぼうに吐き捨てると、プイッと前を向いて歩く速度を上げた。明らかに機嫌が悪そうに、カツカツとアスファルトを叩く音が響く。
(ヒロに女の子の友達ができただけなのに、私はなんでこんなにイラついてるの?)
「……アン? どうしたんだよ」
「別に! ……ヒロが誰とラインしようが勝手でしょ。ほら、遅れるわよ!」
浩紀は首を傾げながら彼女の背中を追うしかなかった。後ろを歩く薫は、姉の過剰な反応と、浩紀が「他の女子」に一歩踏み出した事実に、複雑な溜息をついた。
ーーー
教室に入ると、そこはすでに祭りのような騒ぎになっていた。 浩紀が自分の席に着くやいなや、沙織と太田がやってくる。
「桐谷くん、昨日はラインありがとう! お母さんに言ったら『良かったじゃない』って、それで着ていく服とか新調しなさいって言われちゃった!」
沙織が満面の笑みで浩紀に話しかけると、いつの間にか二人の周りには人だかりができていた。沙織の「クラスの人気者」としての影響力は凄まじい。
「何何? 沙織、桐谷くんと軽井沢行くの!?」
「えっ、別荘!? マジで? お泊まりじゃん!」
野次馬の女子たちが騒ぎ出すと、沙織は少し得意げに大きな胸を張った。
「そうなの! 桐谷くんのお兄さんの運転で、みんなでワイワイ行くんだー。いいでしょ?」
「いいなぁ! 私も行きたい!」
「私も! 桐谷くん、お願い、混ぜてよー!」
女子たちが冗談半分、本気半分で浩紀に詰め寄る。浩紀は苦笑いしながら両手を広げて制した。
「ごめん、車の定員がもういっぱいなんだ。うちの車、8人乗りでさ。河合さんちの三姉妹に、太田と、その彼女、それに畑中さんでちょうど埋まっちゃったから」
「チェーッ、残念」
「まあ、さすがに身内ばっかりのところに割り込むのは悪いか。沙織、お土産よろしくね!」
沙織の親しみやすさもあってか、クラスの面々は意外とあっさりと引き下がっていった。 しかし、その賑やかな輪の外で、沙織は浩紀にだけ聞こえるような小さな声で囁いた。
「……桐谷くん、ありがとね。クラスのみんなには『みんなで行く』って言ったけど……」
「私にとっては、桐谷くんとの初めての夏休みだと思ってるから」
そう言って悪戯っぽくウインクする沙織。 浩紀は彼女の口から耳に届いた熱い吐息と、彼女のストレートな熱量に、少しだけ顔が熱くなるのを感じた。
一方、B組の教室では。 杏奈が自分の席で頬杖をつき、消しゴムを無意味に机の上で転がしていた。
(……なんであんなに不機嫌になっちゃったんだろ、私。……別に、誰が来たって、お兄ちゃんがいてヒロがいれば、いつもの夏休みと変わらないのに……)
窓の外に見えるテニスコートを眺めながら、彼女の心はまだ、朝の「ライン交換したんだ」という自分の声のトーンを思い出して、落ち着かずにいた。
第4話を読んでいただきありがとうございます!
ついに、自覚のない嫉妬に振り回される杏奈と、グイグイ距離を詰める沙織の対比が描かれ始めました。沙織の強さが徐々に出てきた感じっすね。
浩紀くんも本当に無自覚というか……「連絡用にさ」じゃないんだよ!(笑)。
あなたは「嫉妬しちゃう幼馴染」と「積極的なクラスメイト」、どちらを応援したくなりますか?
私はどっちもです。
だから書いててつらい時もあるんです( ;∀;)。
それはもっと後の話ですけどね。
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