第三話:新たな参加者が呼ぶ波乱【加筆&修正】26年(5月26日)
26年5月26日に加筆&修正いたしました
週が明け、永徳高校の教室は期末テスト明けの解放感と、間近に迫った夏休みへの期待で浮き足立っていた。
休み時間、浩紀は自分の席に座り、前の席に陣取った太田と軽井沢旅行の詰めをしていた。
「レンタカーじゃなくて、兄貴が実家の車出すってさ。8人乗りだから、全員乗ってもまだ一人分余裕があるな」
「博康さんの運転か、なら安心だな。河合家の三姉妹に浩紀、それに俺と彼女……。博康さんも入れて合計7人か。……あ、俺の彼女、他校だからちょっと緊張するって言ってたけど、杏奈たちがいれば大丈夫だよな」
太田が愛妻家ならぬ「愛彼女家」な一面を見せながら予定表を書き込んでいると、不意に横から「何それ、楽しそう!」と明るい声が割り込んできた。
振り返ると、そこにはクラスの人気者、畑中沙織がいた。茶髪のショートカットを揺らし、好奇心いっぱいの瞳でこちらを覗き込んでいる。
「あ、畑中さん」
「ごめんね、聞こえちゃって。軽井沢の別荘に行くの? いいなぁ、都会の夏を脱出して避暑地なんて、最高じゃん」
沙織はそう言って、浩紀の隣の席にひょいと腰掛けた。男子からも女子からも慕われる彼女らしい、自然で嫌味のない距離感だ。160cmの小柄な体格ながら、健康的なスタイルが男子の目を引く彼女が近くに来ると、周囲の空気まで明るくなる。
「まあ、家同士も仲が良いから、毎年恒例みたいな感じなんだけどね」
浩紀が答えると、沙織は頬杖をついて
「いいなぁ。私も連れて行ってよ、なんてね」
と悪戯っぽく笑った。
冗談めかした口調だったが、その瞳は少しだけ真剣だ。
「おいおい畑中、お前みたいな人気者が来たら、現地でナンパの行列ができちまうぞ」
太田の冷やかしに、沙織は
「もう、太田くんはすぐそうやってからかうんだから! 私は桐谷くんとお話ししてるの!」
と笑い飛ばす。
そんなやり取りを見ているうちに、浩紀は沙織が持つ「壁を感じさせない親しみやすさ」に、少しずつ緊張が解けていくのを感じた。
「でも、本当に羨ましいな。私、この夏休みは近所のプールに行くくらいしか予定ないし」
肩をすくめて寂しそうに笑う沙織を見て、浩紀の心にふとある考えが浮かんだ。 兄の博康が運転する車は8人乗り。現在の参加者は7人。ちょうど一人分、席が空いている。
(畑中さんとならうまくやれそうな気がするし、もし本当にそんなに来たいなら一緒に連れて行ってあげたいな)
「……じゃあさ、冗談半分だとは思うけど、本当に来る?」
「えっ?」
沙織の動きが止まった。
「もちろん、兄さんに確認してからだけど。車はあと一人分空きがあるし、別荘の部屋も余ってる。兄さんが『いいよ』って言ったら、畑中さんも一緒に行く? 女子も一人増えたほうが、賑やかでいいかもしれないし」
「……いいの!? 本当に!? 桐谷くん、マジ神!」
沙織が身を乗り出し、浩紀の顔を覗き込む。その際、腕を胸の下で組むことにより強調された沙織の豊かな胸が浩紀の視線を奪っていた。沙織の勢いに浩紀は少し圧倒されながらも、「今夜、兄さんに聞いてみるよ」と頷いた。
「やったぁ! 楽しみにしてるね!」
沙織が満面の笑みでガッツポーズをする。その屈託のない反応に、浩紀も思わずつられて笑ってしまった。
その様子を、廊下を通りかかった杏奈が偶然目撃していた。 教室の中で、見たこともないようなリラックスした表情で沙織と笑い合う浩紀。
(……ヒロ? 畑中さんとあんなに仲良かったっけ……?)
杏奈の胸の奥で、正体のわからない小さなざわつきが芽生え、言い知れぬ不安を感じていた。 自分だけが知っていると思っていた浩紀の「特別」が、少しずつ揺らぎ始めていることに、彼女はまだ気づいていなかった。
第3話を読んでいただきありがとうございます!
幼馴染だけだったはずの旅行に、クラスの人気者・沙織が参戦することになりました。
後の話で分かるんですが、この沙織はホントにすごくいい子なんです!
ぜひ、今後の活躍に乞うご期待です!
浩紀の無自覚な優しさが、波乱を呼ぶ予感がしてきませんか?
もしそう思ってくださったなら……私の思うつぼでございます(笑)。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
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完結までエピソードはすべて書き上がっていますので、安心して最後までお付き合いください!




