第二話:軽井沢への期待、沙織の覚悟【加筆&修正】(26年5月26日)
26年5月26日に加筆&修正を行いました。
「失礼します」
生徒会室の重厚な扉を開けると、そこには書類の山を前にペンを走らせる生徒会長、広山加奈子の姿があった。彼女は172cmの洗練されたスタイルに、少しきつめの美貌と、凛とした立ち振る舞いが光る、才色兼備の生徒会長である。
「桐谷くん、いいタイミングね。夏休み中の生徒会業務の確認をしておきたかったの」
浩紀はテキパキと資料を広げ、会議の予定や備品の管理状況を報告していく。その姿はまるで洗練された機械のような正確さであった。
加奈子にとって、浩紀は自分の意図を完璧に汲み取って動く「最高の右腕」だ。
「……ええ、問題ないわ。完璧な報告ね」
加奈子は手元の資料を閉じると、眼鏡を指先で上げ、少しだけ目を細めて浩紀を見た。
「あなたは本当に、博康さんに似てきているわね。……いえ、ある意味ではあの人以上かもしれない。あなたは私と違って、全体の利益のために、自分を殺してでも『正解』を選び続けられる人」
加奈子のどこか見透かすような視線に、浩紀は一瞬、息が詰まるような感覚を覚えた。
「でも桐谷くん。たまには自分の感情を優先しないと、いつか壊れてしまうわよ? 完璧すぎる正解は、時に自分自身を追い詰める毒になるから」
「……肝に銘じておきます」
眼鏡の奥で微かに揺れた加奈子の忠告に、浩紀は曖昧な笑みで応えた。
「それで、あなたの私的な予定はどうなっているの? 副会長のあなたが不在の期間は把握しておきたいのだけれど」
「8月の頭に3日間ほど、両親が持っている軽井沢の別荘へ行く予定です。兄の運転で、河合さんのところの三姉妹も一緒に行くことになっています」
加奈子の手が止まり、ふっと瞳が柔らかくなった。
「軽井沢の別荘……。そういえば、博康さんが現役の頃に一度、生徒会の役員たちと招かれたことがあったわね。懐かしいわ。……あの人に伝えておいて。彼が卒業した後、この学校をまとめるのがどれほど骨の折れる仕事か、たまには愚痴を聞きに来てくださいってね」
「はい。伝えておきます」
加奈子からの伝言を預かり、浩紀は足早に更衣室へと向かった。
ーーー
テニスコートへ出ると、すでに練習は熱を帯びていた。
「遅いぞ、副会長様! 杏奈が首を長くして待ってたぜ」
親友の太田が、ニヤニヤしながらボールを打ってくる。浩紀は慣れた手つきでそれを打ち返した。
「生徒会の仕事なんだから仕方ないだろ。それより……太田、夏休みの軽井沢に行く時のメンバーについて、杏奈たちに話してくれたか?」
「ああ。さっき休憩中に話したら、杏奈も薫ちゃんも大はしゃぎだったぞ。特に杏奈は『博康さんも来るのよね!?』って、目がキラキラしてたな」
太田の言葉に、浩紀の胸がチクリと痛み、無意識に奥歯をかみしめていた。
企画したのは俺で、別荘を使わせてもらう許可を取ったのも俺なのに。
彼女をあんなにも輝かせるのは、いつだって兄さんの名前だ。
女子コートを見ると、主将としてテキパキと指示を出している杏奈と目が合った。
彼女は浩紀に気づくと、パッと顔を輝かせて大きく手を振った。
「ヒロ、遅い! 罰として練習の後に、私のバックハンドの矯正付き合いなさいよね!」
「……わかってるよ」
浩紀は苦笑いして応える。その様子を、少し離れた場所からドリンクの用意をしていた薫が、どこか複雑な表情で見守っていた。
(お姉ちゃん、博康さんが来るからってあんなに嬉しそうにして……。浩紀お兄ちゃんが企画してくれたことなのに……)
薫はお守りとして大事にしている青い花の栞を思い浮かべ、小さくため息をつき、自分の想いを、そしていつかその隣を奪いたいという「秘めた執念」を隠すように、ポニーテールを揺らして練習に戻った。
同じ頃、校舎の窓からは畑中沙織が、テニスコートを走る浩紀の姿を静かに見つめていた。 同じクラスの浩紀たちの会話を耳にしていた彼女は、自分には入ることのできない、幼馴染たちの強固な輪に寂しさを感じながらも、今まで誰にも感じたことのない強い想いに後押しされ、絶対にこのチャンスを逃すまいと心に決めていた。
夏の太陽が傾き始め、オレンジ色の光がコートを包み込む。
沙織の瞳の中で、鋭く、静かに、そしてまっすぐに強く燃えていた。
それは、穏やかな日常が「特別な誰か」によって「上書き」されるまで、残された最後のわずかな静寂だった。
第2話を読んでいただきありがとうございます!
ついに夏休みの計画が動き出しました。
加奈子会長やクラスメイトの沙織など、少しずつ新しい顔ぶれも増えてきて、浩紀の周りが騒がしくなっていきます。
実は、この軽井沢編が物語の大きな転換点になります。
浩紀の切ない献身がどう報われるのか、ぜひ見守っていただけると嬉しいです!
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ぜひよろしくお願いします。




