第4章 第十六話:交錯する想い、窓越しの孤独【加筆&修正】(26年6月9日)
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本日の更新に合わせ、第1章第1話〜第6話を加筆・修正いたしました。
もしよろしければ、過去エピソードも合わせて読み返していただけると嬉しいです。
博康と歩く文化祭の校庭は、活気に満ち溢れていました。
「そういえば、浩紀が一緒に当番してる相手って僕の知ってる人かい?」
「……私の妹、薫ですよ。終わったら一緒にテニスコートに行くって言ってましたから」
「薫ちゃんって最近子供っぽさが抜けて来て、凄く可愛くなったよね」
博康の言葉を聞いた瞬間、杏奈の胸を言い知れぬ不安がよぎった。
浩紀の隣を歩く薫。二人の親密そうな姿を想像するだけで、先ほど感じた不安が色濃く影を落とした。
「浩紀は待機当番の後、どうすることになってるんだい?」
博康が尋ねると、杏奈がそれに答えた。
「ヒロも薫もテニス部の出し物の方に参加しますよ」
「浩紀たちも行くなら、俺たちも後で行ってみないとね」
「ちょうど、私もヒロと同じ時間のテニス教室の担当なんです。一緒に向かいましょう」
「今年もテニス教室をやるんだ。なら、経験者は部員と試合もできるんだよね?」
「できますよ。……久しぶりに、博康さんの華麗なプレイスタイルを私、見たいです」
杏奈は憧れの眼差しで博康を見つめました。
その表情は、幼馴染としての顔ではなく、恋する一人の少女のそれでした。
「そこまで期待されたら応えないとね」
博康は茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせます。
「でもその前に、腹ごしらえだね。ほら、あっちに行こう」
二人は賑わう屋台の列へと向かいました。
ソースの香ばしい匂いが漂う中、博康は手際よくたこ焼きなどをいくつか買い込んだ。
「博康さん、どうぞ」
杏奈は少し恥ずかしそうに熱いたこ焼きを爪楊枝で刺し、フーフーと息をかけて冷ましてから博康の口元へと運んだ。
「ありがと」
博康はスマートにそれを美味しそうに微笑みながら口に入れた。
たこ焼きを食べ終わった博康がお返しをする。
「なら、お返しね。はい、あーん」
今度は博康が杏奈の真似をするように、揚げたての唐揚げを息を吹きかけて少し冷ましてから杏奈の口に運んで食べさせた。
(博康さんといるのは、本当に楽しい……。やっぱり、私は博康さんが好きなんだ)
自分が好きなのは博康だと改めて確信し、今の幸せを噛みしめる杏奈の心臓は激しく高鳴っていた。
しかし、彼女はその幸せのすぐそばに、もう一つの視線があることに気づいていなかった。
ーーー
静まり返った生徒会待機室。
浩紀は、窓の外に広がるその風景を、ただじっと見つめていた。
自分の幼馴染が、憧れの兄に寄り添い、幸せそうに微笑んでいる。
「あーん」と食べさせ合う二人の姿は、まるで絵に描いたように完璧な恋人同士の姿であった。
「……うまくいってるみたいで、よかったね、アン」
浩紀は独り言のように静かに呟いた。
その声はどこまでも優しかったけれど、彼の表情は今にも泣き出しそうなほど歪んでしまっていた。
「……お兄ちゃん」
背後から、薫の静かな声がした。
そして、彼女は浩紀の痛々しい背中に静かに寄り添った。
浩紀は自分の本当の気持ちを飲み込んで、彼女の幸せを願う。
それが幼馴染としての自分に唯一許された役割だと言い聞かせるように、浩紀は震える手で窓の縁を強く握りしめていた。
第4章16話をお読みいただきありがとうございます。
憧れの博康さんと「あーん」で幸せいっぱいの杏奈だけど、それを窓から見つめる浩紀君の心はもうボロボロです。そんな浩紀の心を癒すかのように忍び寄っていく薫といった構図になっています。今後どうなっていくかは次回以降のお話をお待ちください!
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次回、舞台はついにテニスコートへ。
3人(沙織・杏奈・薫)とキスした事実を抱えた浩紀と、何も知らない博康、そして疑念と独占欲が渦巻く少女たちが一堂に会します。お楽しみに!




