第4章 第十二話:雪解けの欠伸、幼馴染の聖域【加筆&修正】(26年6月9日)
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文化祭2日目の朝。開場時間少し前のテニスコート付近には、昨日の騒動の当事者たちが顔を揃えていた。
浩紀、太田、沙織、そして少し遅れてやってきた杏奈と、その様子を冷静に観察する薫。
昨日の尋問の続きが始まるのかと、沙織が身を強張らせる中、杏奈は意外にもスッキリとした表情で口を開いた。
「沙織。……昨日のことだけど、もういいわ。許してあげる」
「えっ……? 本気、杏奈ちゃん?」
沙織が信じられないといった様子で目を見開く。
杏奈はフンと鼻を鳴らし、少し勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
(そもそも恋人じゃないお姉ちゃんに怒る資格自体ないと思うんだけど)
と冷静な判断を下す薫。
「ええ。よく考えたら事故だったんだし、仕方ないわよね。私、そんなに器の小さい女じゃないもの」
杏奈はそう言って、沙織に笑顔を向けた。
(……だって、昨夜ヒロの『本当の初めて』を聞いて、そのうえ、上書きまでしちゃったんだもん。事故のキスなんて、もうどうでもいいわ)
杏奈の心には、かつてないほどの余裕が生まれていた。
昨夜の10秒間の記憶が、彼女を最強の「勝者」に変えていたのだ。
そんな中、誰からともなく「ふわぁ……」と大きな欠伸が漏れた。
「あ……ごめん。昨日はあんまり眠れなくて」
「ちょっと、ヒロ。……ふわぁ。私までうつったじゃない」
浩紀と杏奈が、ほとんど同時に、シンクロするように欠伸をこぼす。
昨夜、お互いの部屋とベッドで、相手のことを想いすぎて朝方近くまで眠れなかった二人。
その無防備な姿に、お互いがお互いを見て、思わず吹き出した。
「なによ、ヒロ。情けない顔しちゃって」
「アンこそ。そんな大きな口開けて、お嫁に行けないぞ」
「……だったら、浩紀に昔の約束守ってもらおうかしら」
沙織がすかさず「昔の約束ってなになに!?」と身を乗り出して食いつくが、杏奈はどこか楽しげに、それでいてはねつけるように微笑んだ。
「それは……、私と浩紀だけの秘密よ」
笑い合う二人。
昨日までの刺々しい空気は雪解けのように霧散し、そこには長年積み重ねてきた幼馴染ならではの、誰も入り込めない心地よい空気が流れていた。
(……なんか、緊張してるのが馬鹿みたい。やっぱり、いつもの二人でいるのが一番落ち着くんだから)
その光景を、太田は「やれやれ、お熱いね」とニヤニヤしながら眺め、沙織は「……あれ? 杏奈ちゃん、何かあった?」と不穏な余裕に首を傾げている。
そして、その場にいる誰よりも鋭い視線を送っていたのは、薫だった。
「…………」
お互いの唇を奪い合い、寝不足を共有し、笑い合う。
そんな二人の「聖域」を見せつけられ、薫の心の中では静かに、けれど激しく嫉妬の火が燃え上がった。
(お姉ちゃん、余裕ぶってるけど……。その余裕も今のうちだけだからね)
薫はテニスウェアのスカートの裾をぎゅっと握りしめる。
今日の午前中、お姉ちゃんは博康さんの案内という「大役」できっと浮足立って、他のことに気を回す余裕はないはず。その間に生徒会室で浩紀と二人きりになれるのは、当然私だ。
(お姉ちゃんは憧れの博康さんと仲良くしていればいいわ)
「さあ、お兄ちゃん。当番の時間だよ。……行こう?」
薫は極上の妹としての笑顔を作ると、浩紀の腕を杏奈にわざと見せつけるように強く引き寄せた。
薫のその行動に浩紀は(薫は最近やけに甘えてくるようになったな……)と無防備に可愛い妹として接した。
その薫の瞳が冷たく細められ、杏奈にだけ向けられた一瞬の敵意が瞳の奥に宿っていた。
それは、浩紀と杏奈の二人の間に入り込もうとする意志の表れだったのかもしれない。
薫による幼馴染の絆を、独占欲で塗りつぶすための時間が、ついに始まる。
第4章第12話をお読みいただきありがとうございます。
昨夜の「10秒間の上書き」を経て、最強の余裕を手に入れた杏奈。
浩紀とのシンクロ欠伸は、見てるこっちが恥ずかしくなるほどの「幼馴染パワー」でしたね(笑)。
昨夜の出来事ですっかり余裕の表情を見せる杏奈。しかし、その余裕こそが、最も冷静な三女・薫にとっての「付け入る隙」となります。
次回、いよいよ密室の生徒会室での待機当番へ。
浩紀、杏奈、薫の三角関係が、物理的距離の近さとともに限界まで張り詰めます。
「杏奈、完全に勝ち誇ってるなー!」
「でも、その後ろで薫ちゃんの目が全然笑ってなくて怖い……!」
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さて、次はいよいよ密室の生徒会室。
杏奈がいない隙に、薫が浩紀に何を仕掛けるのか……ご期待ください!
本日19時にも続きを投稿させていただきます。




