第4章 第四話:乙女たちの密約と、夢見心地の夜【加筆&修正】(6月3日)
文化祭を翌日に控えた夕暮れ。
生徒会室では、副会長の畑中沙織と、お手伝いの薫が、真剣な表情で翌日のスケジュールを装いながら密かに言葉を交わしていた。
二人が結んだ密約……それは、浩紀と二人きりになる「待機当番」を、自分たちの欲望に都合よく配置することだった。
「沙織さんは初日の午後……『執事とメイド』ですね」
「ええ。薫ちゃんは2日目の午前中……テニス教室の前、頑張ってね」
互いの健闘を祈るように頷き合い、二人はそれぞれの「戦場」へ向けて、甘い野心を燃やした。
ーーー
その夜、沙織は自室で、明日のためのメイド服を鏡に合わせていた。
「……浩紀、衣装合わせの時に似合ってるって言ってくれたよね。……それに、何よりも浩紀の執事姿、本当に格好よかったな」
ベッドに倒れ込み、スマホに保存したカフスボタンを直す凛とした「執事姿」の浩紀の写真を見つめると、脳内で一気に妄想が加速する。
生徒会室のソファー。連日の準備で疲れ、ふと目を閉じた浩紀に、メイド姿の自分がそっと近づく。
(『お疲れ様です、会長。……ご褒美、いりますか?』なんて耳元で囁いて……)
妄想の中の浩紀が、驚いて目を開ける。その端正な顔が至近距離まで近づき、互いの吐息が熱く触れ合う距離で止まる。そして、執事服のタイを少しだけ指先で引き寄せ、そっと唇を重ねる――。
「……あへ、あへへへ……っ。浩紀君……っ、ちゅー、しちゃうんだから……っ」
フレンチキスの感触を想像し、沙織は頬を真っ赤に染め、だらしなく口角を下げた「絶対に見られてはいけない有罪な顔」でベッドを手足をばたつかせながら転げ回った。
クラスの男子人気トップ3の美少女の面影は、そこには微塵もなかった。
ーーー
一方、河合家では三女の薫が、ミニスカタイプのテニスユニフォームを広げていた。
彼女が描くのは、2日目の午前。
当番を終えたら、二人でそのままテニスコートへ向かうという、完璧なシチュエーションだ。
(お互いにテニスウェアで、これから一緒に汗を流すんだもん……。お兄ちゃんと「ペア」なんだって、学校のみんなに見せつける前に……)
妄想の中の生徒会室。
腕を伸ばしたりして軽く準備運動をする浩紀の背後に忍び寄り、ユニフォーム越しにそっと抱きつく。
「お兄ちゃん、これからのテニス教室……私とペアで、頑張ろうね」
振り向いた浩紀の、スポーツマンらしい爽やかな香りと、ウェアから覗く逞しい腕。
誰も来ない部屋で、出陣前の「おまじない」と称して、彼の唇にほんの一瞬だけ、自分の印を刻み込む。
(お姉ちゃんにだって、きっとまださせてないはず……。お兄ちゃんの初めては、私がもらっちゃうんだから……っ)
「……ふふっ、えへへ。……待っててね、お兄ちゃん」
薫は枕をぎゅーっと抱きしめ、鼻の下を伸ばした「完全に理性が溶けた顔」で天井を見つめていた。
お姉ちゃんの杏奈はもちろん、当の浩紀にすら絶対に見せられない、恋する肉食女子の素顔。
ーーー
二人の少女が、それぞれの部屋でニヤニヤとデレデレの極致に達し、幸せな眠りについた頃。
何も知らない浩紀は、翌日の開会式のスピーチ原稿を読み直していた。
「……よし、これで完璧だ。みんなが笑顔で終われる文化祭にしたいな」
そんな健気な願いとは裏腹に、明日からの待機当番では、妄想を現実にするべく牙を研ぐ二人の「可愛いハンター」たちが、彼を待ち構えている。
まさか、自分の「唇」が文化祭中に狙われているとは、この時の浩紀は知る由もなかった。
文化祭、開幕まであと数時間。
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今回は沙織と薫の妄想回でした。二人とも幸せそうでしたが……あの顔は、絶対に見られてはいけない「有罪」な顔でしたね(笑)。
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今日の19時にも1話投稿しますので、また夜にもお会いしましょう!




