第4章 第一話:新会長の初仕事と「隣の席」の特等席【加筆&修正】(26年6月3日)
お待たせしました。第4章、文化祭編開幕です。生徒会長となった浩紀。彼が選んだ『自立』は、三人のヒロインにどんな火をつけるのか。加速する修羅場をお楽しみください。
生徒会長選挙での圧倒的な勝利から一週間。
永徳高校2年生の桐谷浩紀の日常は、激変していた。
これまでは「元生徒会長である兄・博康の弟」として、あるいは「河合三姉妹の隣にいる幼馴染」として見られることが多かったが、今は一人のリーダーとして全校生徒の注目を集めている。
「浩紀、お疲れ様。これ、各クラスから集まった文化祭の出し物一覧。……あと、これ差し入れのクッキー。食べながらやって?」
そう言って浩紀のデスクに紙袋を置いたのは、同じ2年A組の畑中沙織だ。
ブラウンのショートカットが似合う、男子人気トップ3に入る美少女。彼女は選挙戦での浩紀を手伝い、その戦いぶりに一目惚れし、今やその好意を隠そうともしていない。
そんな彼女に浩紀は副会長をお願いした。
彼女はちょうど帰宅部であり、生徒たちからの人気も高いのがお願いする決め手となった。
そんな沙織から副会長を引き受けるにあたっての条件を提示された。
それはお互いの名前を呼び捨てにすることであった。
「ありがとう、沙織。助かるよ。……文化祭、みんなが楽しめるものにしたいからね」
浩紀は書類から顔を上げ、穏やかに笑う。
選挙の時に見せた「兄からの脱却」を誓う鋭い表情とは対照的な、彼本来の優しさがそこにはあった。
ーーー
一方、その光景を生徒会室の入り口から複雑な心境で見つめていたのは、長年、浩紀の隣にいるのが当たり前だった幼馴染の杏奈だ。
「……何よ、あいつ。私の『特訓』のおかげで当選したくせに。……ヒロ、ちょっといい?」
杏奈は女子テニス部の主将を務める、黒髪ロングの美少女。
スタイルも良く、校内では高嶺の花だ。
彼女はズカズカと部屋に入り、沙織を軽く一瞥して浩紀の横に立った。
「アン、どうしたんだ? テニス部の練習は?」
「今日は休み。それより、生徒会の役員人事、もう決まったんでしょ? 私はいつから手伝えばいいの?」
杏奈は当然のように自分が役員に入るものだと思い込んでいた。
中学生の頃から憧れている浩紀の兄・博康のような「完璧な会長」に浩紀を育てること。
(浩紀が博康さんと同じ高みに行ってくれれば……その時はヒロに……)
浩紀を博康さん以上の完璧な会長へと導く。そのことに使命を感じていた。それは杏奈が無意識に隠していた浩紀への気持ちを表に出せるようになるための行動なのかもしれない。
「……アン。そのことなんだけど」
浩紀は少し申し訳なさそうに、けれど決然とした瞳で杏奈を見た。
「今回の生徒会に、アンは入れないことに決めたんだ。……アンにずっと頼ってばっかりじゃいけないと思って……」
「……え?」
杏奈の動きが止まる。彼女は無意識に胸に隠された三日月のネックレスに触れていた。その背後で、沙織がハッとしたように二人を見つめた。
「アンには、テニス部の主将としての仕事に集中してほしい。それに、俺はもう兄さんの背中を追うのはやめた。アンに頼ってばかりじゃ、俺は『桐谷浩紀』になれない気がするんだ」
それは浩紀なりの、杏奈を自分の都合から解放するための「一途な優しさ」だった。
しかし、浩紀との「共通の目的」を失った杏奈にとって、それは耳を疑うような拒絶の言葉だった。
ーーー
そんな二人のやり取りを、廊下の陰から静かに見守っている影があった。杏奈の1学年下の妹、薫だ。
薫も浩紀から今後の生徒会の手伝いを頼まれている。浩紀は薫を次代の生徒会長にとも考えていた。
「……お姉ちゃん。お兄ちゃんの隣は、お姉ちゃんの『指定席』じゃないんだよ」
ポニーテールを揺らし、薫は自らの唇を指でなぞった。
子供の頃から浩紀のことがスキだった。
けれど、いつも自分より美しく、浩紀の視線を独占する姉・杏奈の存在があったから、想いを封じ込めてきた。
(お姉ちゃんが、お兄ちゃんの隣から追い出されたのなら……。今度は私が、そこに行ってもいいよね)
文化祭の足音が近づく中、永徳高校のリーダーとなった浩紀を巡る、姉妹と沙織の想いが静かに、けれど激しく火花を散らし始めた。
第4章 第1話をお読みいただきありがとうございます。
第4章では文化祭でのお話を書いていきます。第1話目では浩紀がとうとう杏奈からの独り立ちを示唆させるような行動に出ました。それにショックを受ける杏奈、という構図です。そこに沙織と薫が虎視眈々と浩紀の隣をねらいます。今後の4人の関係にも是非ご注目ください。
すでに最後まで書き上げています。今後も毎日、【19時】に更新していきますので、お見逃しなく!
【お願い】
いつも本作を目に留めてくださり、本当にありがとうございます。
当初、私が予想していた以上に多くの方に読んでいただけており、驚きとともに、この物語を紡ぐ大きな喜びを感じています。
ただ、毎日執筆を続ける中で、今の展開が皆様に楽しんでいただけているのか、ふと不安に思う瞬間もあります。
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