第3章完結 第九話:勝者の孤独、幼馴染の嘘【加筆&修正】(26年6月3日)
放課後、全校生徒が見守る掲示板に、選挙結果が貼り出された。
「桐谷 浩紀」の横に刻まれた数字は、次点候補をダブルスコアで引き離す、圧倒的なものだった。
「……勝った。勝ったわよ、ヒロ!」
杏奈が叫び、浩紀の肩を掴んで揺さぶる。
周囲の生徒たちからも次々と祝福の声が飛び、浩紀はもみくちゃにされながらも、穏やかに、けれどどこか遠くを見つめるような瞳で笑っていた。
ーーー
その夜、沙織や他の協力者たちも集まり、駅前のカラオケ店で祝勝会が開かれた。
盛り上がる室内で、浩紀はマイクを握り、全員に向かって頭を下げた。
「みんな、本当にありがとう。この勝利は、俺一人の力じゃない。みんながビラを配ってくれて、声を枯らして応援してくれたおかげだ。この恩は、これからの生徒会活動で必ず返すと約束するよ」
誠実な言葉に、沙織は顔を上気させ、薫は冷めたサイダーのグラスを握りしめながら、誇らしげに兄を見つめていた。
誰もが浩紀の「輝かしい門出」を祝っていたが、その中心にいる浩紀の心は、激動の選挙期間を経て、不思議なほど静まり返っていた。
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祝勝会が終わり、お隣同士である浩紀と杏奈は二人きりで夜道を歩いていた。杏奈の妹の薫は駅前の夜9時まで営業している本屋に用事があるらしく別行動であった。
静かな住宅街。街灯が二人の影を長く伸ばす。
「……お疲れ様、アン。一番大変だったのは、推薦人のアンだもんな」
浩紀がふと立ち止まり、隣を歩く杏奈を見つめた。
「え? ああ、もう……当然でしょ? 私がどれだけ苦労したと思ってるのよ」
杏奈はいつものように強気に返した。
けれど、今の浩紀に見つめられると、胸の奥が締め付けられるように痛む。
浩紀はゆっくりと歩み寄り、真っ直ぐに杏奈の瞳を見た。
「アン。……本当にありがとう。俺が途中でくじけそうになっても、アンが隣で、俺以上に俺を信じて支えてくれたから。アンがいなければ、俺は今日、あの場所には立てなかった。アンがいてくれたから、俺は頑張れたんだ」
ーーー
その言葉は、一点の曇りもない、純粋な感謝だった。
「……っ」
まっすぐな曇りのない感謝を受けた杏奈は、浩紀を「利用」していた罪悪感から声が出なかった。
嬉しいはずの言葉が、今の彼女には何よりも鋭い刃となって胸に突き刺さる。
(違う……違うのよ。私は、あんたを支えたかったんじゃない。あんたが兄さんに近づくのを見て、自分を安心させたかっただけなのに……)
「アン、どうした? 急に黙り込んで」
浩紀が心配そうに顔を覗き込む。
その顔は、あの作り笑顔ではない。
選挙を戦い抜いた自信と、杏奈への深い信頼が宿った、一人の男の顔だった。
「……何でもないわよ。あんたが私に感謝しようだなんて、10年早いわよ」
溢れそうになった涙が、一滴、制服の隙間からこぼれ落ちた。
それは、浩紀がくれた月のチャームに当たり、静かに砕け散る。
浩紀が自分を信じれば信じるほど、このネックレスの重みは、彼女にとって「愛」ではなく、優しく、しかし残酷なまでに「罪悪感」を突きつけてきた。それでも、浩紀のことで何か不安をかじると頼らなくてはいられなくなるような矛盾を抱えていた。
杏奈は精一杯の毒舌を吐き、足早に歩き出した。
涙が溢れそうになるのを、必死に堪えて。
浩紀のまっすぐな真心に触れるたび、彼女の「博康が好き」という今まで信じてきた仮面は、音を立てて崩れようとしていた。
第3章 最終話(第9話)をお読みいただきありがとうございます。
ついに生徒会長となった浩紀。
彼が杏奈のためにも「一人前の男」となる覚悟を決めたことで、かえって杏奈を追い込む結果に。
浩紀はどこまでも誠実ですが、その誠実さが時に誰かを追い詰めることもある……。
そんな「優しさの残酷さ」を、今回のエピソードでは描きたかったポイントです。
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予告:次回、明日の午前中に「第3回緊急対策会議:祝・1000PV達成座談会(本編とは一切関係ありません)」を投稿したのち、19時に第4章の第1話を投稿する予定です。4章の舞台は文化祭!お楽しみに。




