第3章 第六話:届かない残像、消えない痛み
なんとか19時頃の投稿に間に合いました(-_-;)私はまたすぐ仕事に戻ります。応援メッセージいただけると嬉しいです。第6話をお楽しみください。
――今朝、私は人生で初めて、浩紀を置いて先に家を出た。
昨日の昼休み、屋上で彼が見せたあの温かい『素の笑顔』。
あれに救われた気がして、私の心は少しだけ軽くなっていた。だから今朝、彼を置いて先に家を出たのは、決して彼を避けたかったからではない。
選挙戦に関する急な用事が入ったため、連日の練習で疲れているであろう浩紀にはゆっくり休んでほしくて、一言断りを入れてから一人で登校したのだ。
(ヒロを支えるって決めたんだもん。これくらい、私一人でやっておかないと)
一人きりの通学路。隣に誰もいない寂しさを感じながらも、昨日の彼の笑顔を思い出すと、不思議と力が湧いてくる。
そんなことを考えながら最寄りの駅に着いたところで、私は博康さんの姿を見つけた。
(博康さん、やっぱり大人びていてかっこいいなぁ……)
大学生になり、洗練された雰囲気を纏う博康さんが私に気づき、優しく声をかけてくる。
「珍しいね、杏奈ちゃん。今日は一人なのかい?」
「あ、博康さん! おはようございます。……はい、私だけちょっと朝早くに用事があって。ヒロは練習で疲れているだろうから、先に出てきたんです」
「そうか。浩紀のことを気遣ってあげているんだね。相変わらず仲が良いな」
そう言うと、当たり前のように二人は隣に並んで、一緒にやってきた電車に乗り込んだ。
車内では、博康さんが東大の分厚い専門書を閉じ、「選挙戦はどうだい? 浩紀は頑張っているかな」と優しく問いかけてくれた。
(博康さんに褒められるのも嬉しいけど、早くヒロに会って、今の話を報告したいな)
博康さんと並んで歩く誇らしさと、早く浩紀に会いたいという高揚感。
けれど、放課後の廊下。掲示板の前で一人ポスターを眺めている浩紀を見つけた瞬間、私はその「浮ついた気持ち」のまま、彼に駆け寄ってしまった。
「ねぇ、ヒロ! 聞いてよ。今朝、駅で博康さんに会ったの! 電車を降りるまでずっとお話ししちゃった。浩紀の選挙のこと、凄く気にしてくれてたわよ」
博康とのことを話す杏奈の顔はまさに恋する乙女のそれであった。
「……っ」
浩紀の声は、風に消えそうなほど乾いていた。
昨日、あんなにも「見てるから」と言ってくれたのに。
結局、今朝の自分を避けたのも、兄さんと過ごす時間を優先したかったからなのか。
(ああ……そうか。結局、俺を見てくれるのは選挙戦の間だけで、最終的にアンが求めているのは俺じゃないんだ)
昨日、一瞬だけ剥がれ落ちた「仮面」が、今、これまで以上の厚みを持って浩紀の顔に張り付いていく。
「……兄さんに負けないように、俺も選挙戦頑張らないとな。兄さんの弟が落選したなんて、顔に泥を塗ることになっちゃうし」
浩紀は静かに、自分を納得させるように言った。
私は、彼のどこか遠くを見つめるような瞳に一瞬だけ戸惑い、けれど自分を奮い立たせるように、明るい声で返した。
「……え、ええ。そうよ! だから、二人で頑張りましょ!」
浩紀に届くようにと向けた、精一杯の激励。
けれど、その言葉を受け取った浩紀の胸に去来したのは、温もりではなく、冷え切った確信だった。
(……ああ、そうか。これもきっと、兄さんのためなんだろうな)
浩紀は、心配そうに自分を覗き込む私に、これまでで最も「完璧」な、そして最も「感情のない」笑顔を向けた。
「……うん。分かった。頑張るよ」
その声は、昨日聞いた「素の笑顔」の時のものとは、似ても似つかないほど透き通って、冷たかった。
第3章第6話をお読みいただきありがとうございます。
今回は杏奈の優しさが裏目に出てしまい、浩紀との心のすれ違いが大きくなってしまいました。
これが今後この二人にどんな影を落としていくのか、そして、ここに沙織と薫がどのように絡んでいくのか……。
この物語の展開が気になる方、「二人の未来が明るいものであるように」と祈っていただける方、ぜひ【ブックマーク】や【評価(下の☆☆☆☆☆をポチッとな!)】で応援してくれると、その祈りが作者を通して二人に届くはずです(笑)
⇒ 浩紀の心が折れそうな今、皆様の応援が、彼の「仮面」を剥がす唯一の力になるかもしれません!
すでに完結まで書き終えていますので、毎日19時頃に張り切って投稿していきます。
明日の更新もお楽しみに!




