第2章 第十一話:宣戦布告と、新しい名前
USJの熱気と歩き疲れで、太田と浩紀はベンチに座り込んでいた。
「悪い、二人とも……。ちょっとここで少し休ませてくれ」
「ええ、いいわよ。じゃあその間、私と畑中さんで一つ回ってくるわね」
杏奈の提案に、沙織も「賛成! じゃあ、あのアトラクションにしよう」と即座に乗り、女子二人は男性陣を置いて人混みの中へと消えていった。
ーーー
■ 舞台裏の真実
並んだのは、比較的空いていた屋内型のアトラクションの列だった。
周囲に知っている生徒がいないことを確認すると、沙織は不意に足を止め、前を行く杏奈の背中に向かって静かに、けれど芯の通った声で切り出した。
「……杏奈ちゃん。私、本気だよ」
杏奈が振り返ると、そこにはいつもの愛嬌たっぷりの「沙織」ではなく、一人の女性として覚悟を決めた、真剣な瞳の少女が立っていた。
「今はまだ、浩紀君の隣は幼馴染としての君の場所かもしれない。……でも、そこは私がもらう。昨日も、今日も、彼と一緒にいてもっと好きになっちゃったから」
真っ直ぐすぎる宣戦布告。 杏奈は一瞬、圧倒されたように目を見開いた。
しかし、すぐにその瞳には、テニス部の主将を務める時のような、鋭く気高い光が宿った。
「……受けて立つわ。ヒロの隣を譲る気なんて、最初からないから」
「そっか……。あはは、やっぱり杏奈ちゃんはそうでなくっちゃね」
沙織は満足げに笑うと、右手を差し出した。
「これから、ライバルとして改めてよろしくね」
杏奈はその手を見つめ、昨夜の自分自身の迷いを振り払うように、力強く握り返した。
「ええ……負けないから、沙織」
杏奈はそう言うと、握りしめた沙織の手を離し、自らの制服の襟元に指をかけた。
そして、これまで大切に隠していた**「月のネックレス」**を、スッと沙織の目の前へ引き出した。
「……っ、それ」
沙織の瞳が驚きに揺れる。
シルバーの月が、屋内の照明を反射して静かに輝いた。
「これはヒロが私にくれたもの。軽井沢の夜にね。……あなたがこれから隣を狙うなら勝手にすればいい。でも、私たちが積み重ねてきた時間は、あんたが思っているよりずっと……重いわよ」
宣戦布告の仕上げと言わんばかりの杏奈の言葉。 沙織は一瞬、言葉を失ってそのネックレスを見つめていた。
だが、次の瞬間――沙織の瞳がパッと輝き、感動で潤んだ。
「……っ、今、名前で呼んでくれた!?」
「えっ……? ちょっと、話聞いてたの……?」
「杏奈ちゃんに名前で呼ばれるなんて! 嬉しい! 大好き!」
「ちょっ、何すんのよ! やめなさいってば!」
ネックレスを見せつけられた悔しさよりも、「杏奈が心を開いて(名前で)呼んでくれた」ことへの喜びが勝ってしまう。
そんな沙織の計算のない(あるいは計算ずくの)猛烈な抱擁に、杏奈は毒気を抜かれたように戸惑うしかなかった。
「離して、暑苦しいわね!」
杏奈は、じゃれつく大型犬をあしらうかのように沙織の頭をぐいぐいと押し返したが、その口元には、隠しきれない柔らかな笑みが浮かんでいた。
浩紀を奪い合う敵同士であることに変わりはない。
けれど、本音をぶつけ合った二人の間には、昨日までの刺々しい空気ではなく、どこか清々しい連帯感が生まれていた。
「……行こう、沙織。あんまり遅いと、あのバカ(浩紀)が心配して探しに来ちゃうわよ」
「あ、それもいいかも! 浩紀君に心配される私……エモくない?」
「……やっぱりあんた、嫌い」
賑やかなパークの喧騒の中、二人の少女の笑い声が、青空に溶けていった
第2章 第11話をお読みいただきありがとうございます。
今回、投稿準備が間に合いましたので10時に投稿させていただきました。
GW最後の日のお供にどうぞ!(ちなみに私は今日から仕事です(-_-;))
今回は杏奈と沙織の関係が変わる転換期の話でした。
今まで沙織は杏奈にとって「外から来る外敵」のような存在でしたが、今回、杏奈が沙織を認めたことで「ライバル兼友人」のような特別な関係に。
それにしても、今回の沙織はカッコよかった!
真っ直ぐな想いをぶつける姿は、男女問わず惹きつけられてしまいますよね。
今後、この二人にプラスして薫を含めた三人がどのように絡み合っていくのか、ぜひ楽しみにしていてください。
この物語の続きが気になるという方、沙織の宣戦布告にやられてしまったという方、ぜひ【ブックマーク】や【評価(下の☆☆☆☆☆をポチッとな!)】で応援をいただけると、執筆の大きなエネルギーになります!ちなみに作者が仕事でかわいそうだと思ってくれる方は評価ボタンを押して励ましてください(笑)
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※今夜の19時にも投稿する予定です。




