第2章 第九話:真夜中の作戦会議(報告編)
旅館の消灯時間を過ぎ、周囲が静まり返った午前一時。
女子部屋の布団の中で、沙織はスマートフォンの画面の明かりを頼りに、素早い手つきでフリック入力を行っていた。
送信先は、学校で待つ「同盟相手」――河合薫だ。
ーーー
沙織: 『薫ちゃん、寝てる? 大変だよ、新幹線から波乱万丈! 浩紀君に「あーん」したんだけど、わざと指までくわえてあげた(笑) 杏奈ちゃんの顔、般若みたいで怖かったよ〜。』
沙織: 『あと清水寺! 舞台の上で「怖い」って言ったら、浩紀君、私の手をぎゅって握ってくれたの。やっぱり浩紀君って優しいよね。これ、もう脈アリってことでいいかな?』
沙織: 『さっきも浩紀君の部屋に突撃してお菓子パーティーしてきたよ。杏奈ちゃんは来なかったけど、おかげで独占状態! 今日の収穫、写真送るね。』
ーーー
沙織から次々と送られてくるメッセージ。
自宅の自室、暗闇の中でそれを受け取っていた薫は、冷淡な無表情で画面をスクロールしていた。
しかし、最後に送られてきた一枚の画像で、その表情が劇的に崩壊した。
それは、新幹線の車内、午後の柔らかな日差しを浴びながら、窓際に頭を預けて眠る浩紀の隠し撮り写真だった。
口元が少しだけ緩み、普段の「文武両道な優等生」の鎧を脱ぎ捨てた、無防備であどけない寝顔。
「……っ、ふふ……」
薫の口から、今まで見たことも聞いたこともないような甘い吐息が漏れた。
そして、浩紀の横を姉から奪い取った姿を妄想し、さらにはそうなった際の悲しげな姉の表情を想像すると、より蕩けるような顔をした。
スクショを撮り、画像を最大まで拡大して、画面越しにその頬をなぞる。
先ほどまで沙織の報告に抱いていた嫉妬や苛立ちは、この一枚の「破壊力」の前に霧散していた。
「……やっぱり、お兄ちゃんは最高。この顔、絶対に誰にもわたさないんだから……」
学校でのクールな後輩キャラも、河合家のしっかり者の末っ子という顔も、今の彼女には微塵も残っていない。
瞳は熱っぽく潤み、口角はだらしなく上がりきっている。
もし今、姉の杏奈やクラスメイトがこの顔を見たら、悲鳴を上げて逃げ出すかもしれないほどの、狂おしいほどに「デレデレ」な表情であった。
「お兄ちゃん……今頃、変な虫(沙織)に邪魔されずに寝られてるかな……」
薫はそのまま、スマホを胸に抱きしめるようにしてベッドに転がった。
姉の杏奈が京都の月光の下で浩紀と手を握り、揺れ動いていることなど、知る由もない。
ーーー
薫(返信): 『沙織さん、報告ありがとうございます。指の件は……まぁ、作戦のうちですね。引き続き監視と、**「お兄ちゃんの単体写真」**の確保をお願いします。特に寝顔は必須です。』
ーーー
送信ボタンを押し、再び浩紀の寝顔を見つめる薫。
彼女の修学旅行は、まだ始まってもいないはずなのに、心はすでに京都の旅館へと飛んでいた。
送られてきたメールを見た沙織は、旅館の布団の中で小さく舌を出した。
(ふふっ、薫ちゃん。写真は送ってあげるけど、本物の指の感触は私だけだもの……)
沙織は勝利の余韻に浸りながら、今度は自分が浩紀の寝顔を思い出して、顔を火照らせるのだった。
一方、その頃の浩紀は、夢の中で「般若のような顔をした杏奈」と「指を離さない沙織」に交互に追いかけ回され、うなされていた。
第2章 第9話を読んでいただき、ありがとうございます!
今回は薫と沙織の間で組まれた「同盟」のスマホのやり取りに視点を当ててみました。
指を含んだり、手を握ったりしたとマウントをとる沙織に対し、冷静に対処(?)する薫。
特に妄想した際に見せた薫のあの表情は……お姉ちゃんには絶対に見せられませんね(笑)。
今後、この二人の「共犯関係」がどのように物語をかき乱していくのか、ぜひ注目してください!
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