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『幼馴染の境界線 ―僕の祈りと、君の憧れ―』  作者: サッサン
第2章:波乱の修学旅行編

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第2章 第六話:新幹線、カードゲームと梅昆布の攻防【加筆&修正】(26年6月1日)

新幹線が熱海を過ぎる頃、ボックス席の空気はトランプの「ババ抜き」で異様な盛り上がりを見せていた。

彼女の指先が、浩紀の持つ二枚のカードの間を迷うように行き来して、一枚を選んでとった。


「……っ」


杏奈の眉間がわずかに動く。


「杏奈、顔に出すぎ。ババ引いたんだろ」


太田が横から茶化すと、杏奈は「うるさい、わかってるわよ!」と鋭く返した。

案の定、杏奈が引いたカードはジョーカーであった。


「あはは! 杏奈ちゃん、また引いちゃったんだね」


沙織が楽しそうに笑う。

対照的に、浩紀の表情はいつものように微笑んでいるのに、なぜかうまく感情を読み取ることが出来なかった。

浩紀は、この手のゲームに滅法強い。

幼い頃から、杏奈が兄・博康に向ける熱い視線を送るたびに、胸を突く痛み。

それらをすべて「幼馴染の笑顔」という仮面の下に隠し続けてきた浩紀にとって、自分の感情を殺し、相手の微細な動揺を読み取ることなど、息をするよりも簡単であった。


「あ、浩紀君上がり! すごい、一度もジョーカー引かなかったね」


「まあ、なんとなくね」


浩紀は、悔しそうにカードを握りしめる杏奈を横目に、ふっと力を抜いた。


ーーー


ゲームが一段落し、四人は昨日モールで買ったお菓子を広げた。


「浩紀君、はい、あーん!」


唐突に、沙織が濃厚チーズ味のスナックを浩紀の口元へ差し出した。その距離、わずか数センチ。

「……えっ?」 浩紀が固まった瞬間、隣の座席から冷気が立ち上った。


「ちょっと、畑中さん。ヒロ、手が空いてるんだから自分で食べられるでしょ」


杏奈がすかさず割り込むが、沙織は引かない。


「いいじゃん、修学旅行なんだし! 浩紀君、食べないの?」


「いや、えーと……」


浩紀が困惑していると、杏奈が無造作に自分の梅昆布の入った小箱を浩紀の前に突き出した。


「そんなしつこい味のより、こっちの方がいいわよ。……ほら、ヒロ」


「ああ、サンキュ」


浩紀は言われるがまま、指に挟んで箱から梅昆布を出した。

すると、次の瞬間だった。


「……私も。一枚ちょうだい」


杏奈はそう言うと、浩紀が指に挟んで出したその梅昆布を、指先から直接、パクりと食べた。


「……ん、いい塩加減」


杏奈は何食わぬ顔で咀嚼する。

浩紀も、子供の頃から繰り返されてきた日常の延長として、特に照れることもなく「だろ?」と頷いた。


ーーー


その光景を目の当たりにした沙織の瞳が、静かに燃え上がった。


「……ずるい。杏奈ちゃんだけずるい!」


「何がよ」


「私にもそれ、やって! 浩紀君、私にも『あーん』で食べさせて!」


沙織が浩紀の腕を掴み、必死の形相で迫る。


「ええっ!? いや、俺が畑中さんに……?」


「そう! じゃないと不公平だもん!」


「……ヒロ、やりなさいよ。畑中さんがそう言ってるんだから」


杏奈の声が、一段階低くなった。


(これはやったら後で大変なんじゃ……。でも、これやらないと収拾のつけようがないじゃないか……)


杏奈の目はまったく笑っていなかった。

「やれるものならやってみなさい」という無言の圧力が新幹線の空気を凍らせる。通路を挟んだ席にいる生徒たちも息を殺して遠巻きに見守っていた。


「……わ、わかったよ。はい、畑中さん……」


浩紀は震える指先でお菓子を一枚つまみ、沙織の口元へ。


「あーん!」

幸せそうに口を開けた沙織は、お菓子をパクりと食べる……と同時に、わざと浩紀の指先まで、コクりと口に含んだ。指に沙織の下が触れた瞬間、電気が走ったように浩紀の体がビクッと反応した。


「……ん? ……あ、ごめーん! お菓子と間違えちゃった!でも、……とってもおいしかったよ」


沙織はすぐに指を離し、テヘッと小悪魔的な笑顔を浮かべた。

しかし、その瞳の奥は、しっかりと勝利を確信していた。

一方、その光景を真正面から見ていた杏奈は、一瞬にして表情が凍りついた。

次の瞬間、彼女の背後から、業火のような熱気が立ち上る。


「……畑中、沙織さん……?」


杏奈はそう言うと、手元のガイドブックを『みしり……みしり……』と嫌な音を立てて握りしめた。

その握力は、間違いなく女子高校生のそれではない。


(……ヒィィッ! 怖い、マジで怖い……!)


浩紀は恐怖のあまり、太田の方へ避難しようとしたが、太田は薄目を開け、杏奈の手元のガイドブックを見つめながら、静かに呟いた。


「……ガイドブックが、悲鳴上げてるぞ。杏奈、ほどほどにな」


名古屋到着のアナウンスが流れる中、新幹線のボックス席は、誰一人として動けない、恐怖の密室と化していた。


第2章 第六話をお読みいただき、ありがとうございます。

GWの5月3日~5日は私もお休みで時間に余裕があるので、この期間は特別に【10時と19時】の1日2回投稿を行う予定です


可愛い女子に「あーん」をしてもらえるなんて羨ましいはずなのに、これほど修羅場を感じる「あーん」もなかなかないですよね(-_-;)

浩紀君の胃が修学旅行が終わるまでもつようにみんなで祈りましょう!


少しでも「先が気になる!」と思ってくれた方、杏奈の背中に般若のお面が浮かび上がるのが見えた方(笑)、ぜひ【ブックマーク】や【評価(下の☆☆☆☆☆をポチッとな!)】で応援してください。


毎日、19時ごろ(予定)に更新していきますので、明日もお見逃しなく!

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