第2章 第三話:放課後のショッピングモールと、静かなる火花【加筆&修正】(26年6月1日)
修学旅行を明日に控え、準備のため部活が休みとなった放課後、浩紀、太田、杏奈、そして沙織の四人は、制服姿のまま駅前のショッピングモールにやってきていた。
この四人がまとまって歩いていると、華やかな容姿が自然と周りの注目を集めてしまっていた。
日頃から人に見られることには慣れている面々ではあったが、今日はひときわ目立っていた。
「なんかいつも以上に見られてないか、俺達」
太田が周りを見ながら浩紀に話した。
「特にアンと畑中さんの影響だろうな。二人は気にしてないみたいだし、俺達も気にしないようにしよう」
浩紀が苦笑しながら答えると、杏奈は男同士で話す二人を振り返った。
「……ヒロ、何コソコソ話してるの? 早く行かないと、遅くなるわよ」
「わかったよ。……ほら、太田、行くぞ」
そういうと、浩紀たちは前を歩く杏奈と沙織に小走りで追いついた。その時の女子2人に雰囲気は決して悪くないように見受けられた。しかし、これはまさに嵐の前の静けさであった。
「しおりに書いてある持ち物、意外と家にないもの多いな。携帯用の雨具とか、トラベル用の洗面セットとかさ」
太田がリストを片手に首を振る。高校の部活仲間としてつるんでいる太田だが、こうした生活雑貨の買い物に女子が加わると、途端に華やいだ空気感になるのが新鮮だった。
「全部このショッピングモールで揃うわよ。まずは雑貨屋から行きましょう」
杏奈が先導し、四人は賑やかなモール内を歩き出した。
ひと通りの日用品を買い終えた後、一行は食料品売り場にあるお菓子コーナーへと向かった。修学旅行の醍醐味である「おやつ選び」だ。
「お、これ懐かしいな。アン、これ好きだったよな? 昔よく食べてたろ」
浩紀が棚から大袋のスナック菓子を手に取って笑いかける。
「よく覚えてるわね。じゃあ、それもカゴに入れておいて。……あ、そういえばヒロは、どこか旅行に行くときはいつもこれ買ってたじゃない」
杏奈が指差したのは、少し渋めの梅昆布のおやつだった。
「あはは、子供のころから 無意識に手に取っちゃうんだよな」
そんな二人のやり取りを、太田が少し離れたところから感心したように眺めていた。
「へぇ……お前ら、本当にお互いのことよく分かってんだな。俺と浩紀は中学の時はテニスコートでしか顔合わせてなかったから、そういうプライベートな癖は知らねーわ」
太田が笑いながら言うと、杏奈は手に取った梅昆布の小箱を浩紀のカゴに放り込みながら、茶化すように言い返した。
「私たちは物心つく前からずっと一緒だったからね。……太田君だって、花山さんとならこんな感じなんじゃないの?」
「え、俺と敦子? ……まぁ、あいつも俺が何選んでも『またそれ?』って笑うけどさ。でも、お前らみたいな『長い歴史』はまだねーよ」
太田が照れくさそうに鼻の頭を掻く。
「俺と敦子が初めて出会ったのは小5の時に隣りにあいつんちが引っ越してきてあらだしな。」
杏奈は「ふふ、それならそうかもね」と満足げに目を細め、チラッと沙織を見て牽制した。
その横顔には、自分たちだけが持つ「積み重ねた時間」への絶対的な自信が滲んでいた。
その様子を黙って見ていた沙織は、胸の奥がチリりと焼けるような感覚を覚えた。
自分が入り込めない「過去」という名の聖域。
(……歴史なんてない。でも、これから作っていけばいいんだから……)
沙織はすぐにその感情を笑顔の下に隠し、素早く棚から二種類のお菓子を手に取った。
「ねえ、浩紀君!」
沙織は軽やかな足取りで浩紀の元へ駆け寄り、杏奈のすぐ隣にぴたりと並んだ。
「お菓子、二つで迷っちゃって。浩紀君はどっちが好き? こっちの濃厚チーズ味と、こっちの爽やかレモン味」
沙織は二つの袋を浩紀の目の前に差し出し、いたずらっぽく上目遣いで覗き込む。
右(さわやかレモン味)には、過去の記憶を共有し、長年の空気感で隣に立つ杏奈。
左(濃厚チーズ味)には、今この瞬間から新しい歴史を作ろうとして、眩しい笑顔を向ける沙織。
「……えっ?」
一瞬、浩紀は固まった。
二人の女子に挟まれ、物理的にも視線的にも逃げ場がない。
(これって……お菓子を選ぶ以外の意味はないよね……。というかそうであってくれ)
隣に立つ杏奈の視線が、わずかに、けれど確実に冷たくなったのを肌で感じた。
「……あー、そうだな。俺は、こっちのチーズ味の方がいいかな。……たぶん」
浩紀はあえて沙織の意図に気づかないフリをして、震える声で実際の好みのお菓子を冷や汗を流しながら選んだ。
「OK、決まり! じゃあ、これ持っていくね」
沙織は満足げに微笑み、カゴにお菓子を放り込んだ。
そして、ちらりと杏奈の方を見て、勝ち誇るわけでもなく、けれど「私の方を選んでくれたわよ」と無言で告げるような視線を送った。
「……いいセンスね、畑中さん。ヒロは昔から、濃いめのチーズ味が好きだから」
杏奈はそう言って、「ヒロのことなら私は何でも知ってるのよ」とどこか突き放すような、けれど少しだけ相手の攻勢を認めたような複雑な笑みを浮かべた。
二人の視線が空中で静かに交差する。
「……なんだか知らねえけど、今の浩紀は針のむしろだな」
太田だけが、場を支配する「静かなる火花」に浩紀が冷や汗を流す中、一人、(触らぬ神に祟りなし)とばかりに避難するかように特用チョコをカゴに入れていた。
第2章第3話をお読みいただきありがとうございます。
ゴールデンウィークですね! 皆様いかがお過ごしでしょうか。連休初日、私も午前中がお休みでしたので特別に1話お届けさせていただきます。お休みの合間にお楽しみいただければ幸いです!なお、いつも通り19時にも投稿する予定ですのでよろしくお願いします。
本来、修学旅行の準備のためにショッピングモールへやってきた状況なら、楽しいはずなのに……。
浩紀君は二人に挟まれて板挟み状態でしたね。
浩紀、強く生きるんだぞ!
少しでも先が気になると思ってくれた方、「浩紀、強く生きろ!」と励ましたい方(笑)、ぜひ【ブックマーク】や【評価(下の☆☆☆☆☆をポチッとな!)】で応援してくれると嬉しいです!
すでに完結まで書き終えていますので、毎日(19時予定)張り切って投稿していきます。




