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『幼馴染の境界線 ―僕の祈りと、君の憧れ―』  作者: サッサン
第2章:波乱の修学旅行編
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第2章 第二話:月のネックレスと、お初天神の予感

「畑中さん。ずいぶんと熱心ね」


背後から降ってきた冷ややかな、けれど聞き慣れた声に、浩紀の肩がビクッと跳ねた。


「げっ……アン!?」


浩紀が椅子を鳴らして振り返ると、そこにはいつの間に現れたのか、学校から配布されたばかりの厚い『修学旅行ガイドブック』を小脇に抱え、不敵な笑みを浮かべる杏奈が立っていた。


「うわっ、びっくりした! お前、いつからそこにいたんだよ?」


太田が目を丸くして身を乗り出す。テニス部の部室でもよく顔を合わせる仲だが、まさか隣のクラスからこのタイミングで乗り込んでくるとは思っていなかった。


「さっきからよ。あんたたちの声が廊下まで聞こえてたんだから」


「杏奈ちゃん!? びっくりした……自分のクラスにいるものだと思ってたから」


沙織も驚いて見せたが、その瞳の奥には一瞬で警戒の色が混じった。


「どうしてって、班を決める時間でしょ? 浩紀と太田君のところに来るのは当然じゃない。……それで? 畑中さんが私たちの班に入りたいって?」


杏奈は手に持っていたガイドブックを浩紀の机に『ドン!』と置き、沙織を射抜くような視線を向けた。


「ええ。私、今回の旅行ですごくみんなと仲良くなれたと思ってるから。……浩紀君はどう思う?」


沙織が上目遣いで浩紀に矛先を戻すと、板挟みになった浩紀は冷や汗をかきながら答えた。


「……あー、まぁ。俺は、他の二人がいいなら別に構わないよ」


「俺も、一緒に軽井沢に行った仲だしな! 賑やかでいいんじゃねーか? 杏奈もいいだろ?」


太田が屈託のない笑顔で同意を求める。テニス部では女子部員と男子部員の仲も良く、また、「河合」だと妹の薫と混同するため、部員たちは自然と彼女を「杏奈」と呼んでいる。その呼び方の自然さが、沙織には少しだけ癪に障った。


「……そうね。四人目は適当に決めるつもりだったし、いいわよ。よろしく、畑中さん」


「ありがとう、杏奈ちゃん!」


沙織は満面の笑みで、杏奈の手を握らんばかりに身を乗り出した。


「ねえ、杏奈ちゃん。私たちもう班の仲間なんだし、よかったら私のことも『沙織』って呼んでよ。その方が仲良くなれる気がするし!」


クラスの男子たちが「おお、女子同士の友情か?」と期待の眼差しを向ける中、杏奈はフッと口角を上げただけで、その提案を鮮やかに受け流した。


「わかったわ。」


「畑中さん」


「……えっ?」


沙織の笑顔が、一瞬だけピキリと固まる。


「ふふ、これからはよろしくね、畑中さん」


「……ええ、よろしく。杏奈ちゃん」


一見すると和やかな光景だが、太田は「うわ、怖っ……」と小声で呟きながら、浩紀の袖を引いた。

浩紀もまた、杏奈の徹底した「距離感」に冷や汗が止まらない。


■ 恋の御利益、それぞれの思惑

班が決まるなり、四人は早速杏奈が持ってきたガイドブックを広けて行き先を話し合い始めた。


「京都は金閣寺とか清水寺は外せないよな。大阪はどうする?」


太田の問いに、杏奈が少し顔を赤らめて、ガイドブックの付箋がびっしりと貼ってあるページを指差した。


「……私、大阪で行きたいところがあるんだけど。お初天神(露天神社)」


「お初天神? なんでまた渋いところを……」


不思議そうに首を傾げる太田に、杏奈は視線を逸らした。


その右手は、無意識のうちに胸元の三日月をそっと覆うように抑えている。

手のひらから伝わる金属のわずかな冷たさと、そこに込められた浩紀の優しさと暖かさから勇気を分けてもらうように。


まだ自分では、この温もりが必要な本当の理由に気づいていない。

ただ、「お兄ちゃん(博康)との仲をお願いするんだ」という自己暗示を支えるための、縋るようなその仕草。


杏奈はそのまま、蚊の鳴くような声で言った。


「……恋愛成就で有名な神社だからよ。悪い?」


その瞬間、沙織の瞳がキラリと輝いた。


(恋愛成就……! 杏奈ちゃん、やっぱり博康さんとのことをお願いするつもりね)


「それ、めっちゃいいじゃん! 私も行きたい! 恋愛パワースポット、大事だよね!」


沙織が身を乗り出して賛成する。彼女が願うのは、もちろん浩紀との縁だ。


「おいおい、俺すでに彼女いるんですけど……。俺が行って何をお願いしろってんだよ」


太田が真っ当な正論を吐くが、盛り上がる女子二人の前では、その声は完全に無視された。


「決まりね。大阪では絶対にお初天神に行くわよ」


「うん、楽しみだね、杏奈ちゃん!」


手を取り合うように笑い合う二人。だが、杏奈の胸元で揺れる「月のネックレス」と、沙織の胸に秘めた「同盟」の誓いが同じ場所で交差した時、一体どんな波乱が起きるのか。


浩紀はただ一人、これから始まる三泊四日の旅に、言いようのない胸騒ぎを感じていた。

第2章第2話をお読みいただきありがとうございます。


今回はやっぱり杏奈が沙織に言い放った「畑中さん」ですよね。

もうこれは気の強いキャラがやるラブコメの王道……のはずなのですが、作者も書いていて少し背筋が凍りました(笑)。


修学旅行の班がこの4名に決まりましたが、今後どのような展開になるのか、さらにはここに薫がどんな風にかかわってくるのか、ぜひ楽しみにしてください。


この物語の展開が気になる方、杏奈に「〇〇さん」と(冷ややかに)呼ばれたい強者の方、ぜひ【ブックマーク】や【評価(下の☆☆☆☆☆をポチッとな!)】で応援してくれると、作者の食卓にオカズが一品増えます!


すでに完結まで書き終えていますので、毎日19時に張り切って投稿していきます。


明日の更新もお楽しみに!

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