第2章 第二十一話:借り物競走
借り物競走に参加する杏奈と薫はグランドの中央部分に座り、自分たちの出番を待っていた。
全24クラスの代表24人を半分ずつに分けた12人。
現在その1組目のトップがゴールしようとしていた。
トップで入った選手は手に先生の持っていたメガフォンを持ってのゴールであった。
杏奈が1組目の選手たちが持つ借り物を見ていた。
(沙織が書いたって言っていたからどんな難題かと思ったけど、いたって普通の借り物よね。警戒しちゃって損したわ)
そのそばでは薫が警戒をしていた。
(沙織さんのやることですから、1組目はいたって普通のものにして、私とお姉ちゃんの出る2組目に本命の借り物を準備している可能性が高いです。そして、その借り物は十中八九『浩紀さん』のはずです)
薫はすでに借り物の指令書の中身を予想していたのだった。
1組目が全員ゴールし、二組目がスタートラインに立つように指示された。
薫と杏奈は隣同士で陣取ると、お互いに警戒をするのであった。
ここで空砲のピストルを持った生徒がやってきて、銃口を空へと向けた。
「それでは位置について、よーい」
その直後に天高く空砲の音が「パン」と一度だけ鳴り響いた。
選手は一斉に走り出した。
一番最初に借り物を書かれている紙を取ったのは杏奈であった。
そしてそのすぐ後に2番手で薫が続いた。
杏奈が紙を開いて中身を確認する。
「中身は『大好きな人』って、沙織の奴何書いてんのよ」
杏奈は口で文句を言いながら自分のクラスへと走っていった。
クラスの待機場所にいる浩紀を見つけた杏奈。
「ヒロ、ちょっとついてきて!」
杏奈はそう言って浩紀の手を取った。
しかし、同時に浩紀の反対側の手を取る人物がいた。
薫である。
「浩紀お兄ちゃん、私の借り物が浩紀お兄ちゃんなんです。付き合ってください」
「ちょっと薫、ヒロは私が借りるんだから、あんたはそこにいる太田にしなさいよ」
「お姉ちゃんこそ、お兄ちゃんは諦めて太田先輩で手をうったらどうですか」
ここで勝手に名前を出されたうえ、雑な扱いを受ける太田がジト目で二人を見ていた。
(俺の扱いあまりに雑すぎないか……)
ここで仲介するように浩紀が二人に声をかける。
「ちなみに二人の借り物は何なんだい?」
「ヒロ、私は『大好きな人』よ」
「浩紀お兄ちゃん、私は『大切な人』です」
ここで太田が声をかけた。
「もてる男はつらいね。こうなったらこうしちゃえばいいんだよ!」
そう言うと太田は二人と手をつないだままの浩紀の背中を押してグランドへと押し出した。
「そのまんま3人でゴールするしかないだろ!さっさと行ってこい」
「もうこうなったらそれしかないわね。薫一時休戦よ!」
「はぁー。仕方ないですね。お兄ちゃん行きましょ」
こうして手をつないだ三人がゴールを目指して走り出したのであった。
ここで司会の生徒が三人でゴールを目指す浩紀たちを見て中継した。
「おおっと、これはいったいどういう状況だ?桐谷会長を挟んで河合姉妹が手をつないで走っているぞ。解説の『畑中さん』、これはどういう状況だと思いますか?」
司会の生徒に聞かれた沙織が、さも当たり前のことのように答えた。
「これはたまたま同じ人が借り物だったってことなんじゃないですか。会長はモテますからね」
「そういえば借りものの中身を書いたのって畑中さんでしたよね。いったいどんなことを書かれたんですか?」
「それはゴールしてからのお楽しみで!」
司会と沙織がゴール地点へ移動し、選手たちがゴールするのを待っていた。
一番に浩紀を真ん中にした杏奈と薫がゴールした。
司会の生徒がマイクに向かって告げた。
「1着は3年A組の河合杏奈選手と、同着で2年B組の河合薫選手がはいりました!それでは二人のお題をお見せください」
二人が素直に紙を差し出した。
ここで沙織がマイクを受け取ると中身を楽しそうに読み上げた。
「最初に河合杏奈選手の借り物は『大好きな人』でした。その大好きな人の名前をここで発表してもらいましょう!」
急にマイクを向けられる杏奈。
「え、え、……。ここで言わなきゃいけないの?」
「言わないと失格になりますよ。いいんですか?」
「くっ、わかったわよ。言えばいいんでしょ。私の大好きな人は『桐谷浩紀』君です!」
杏奈の愛の告白に会場中が大盛り上がりとなった。
そんな中、杏奈は赤くなって浩紀の背中に隠れるのだった。
「では続いて河合薫さんの借り物は何ですか?」
「私の借り物は『大切な人』です」
「ではその大切な人の名前をどうぞ!」
薫は杏奈と違い堂々としていた。
「私が誰よりも大切に思う人は『浩紀お兄ちゃん』です!」
ここで司会の男が浩紀にマイクを向けた。
「これは二人から求愛をされているみたいですが、会長、今のお気持ちをお聞かせください」
「えーと、こんな魅力的な二人からそういう風に思ってもらえて光栄です……」
浩紀がそう告げると、沙織が周りの生徒たちに呼びかけた。
「1着でゴールしたこの三名に盛大な拍手をお願いします!」
生徒たちが一斉に拍手をするのに混ざって、「会長、美女二人から言い寄られるなんてズルいぞ!」「俺にも愛の手を‼」などのヤジが飛び交っていた。
こうして借り物競走の結果は引き分けとなり、応援合戦へと勝負は持ち越されたのであった。
第2章第21話をお読みいただきありがとうございます。
今回は借り物競走のお話でした。ちなみに2組目のお題は全て「大切な人、大好きな人、憧れの人、結婚したい人,etc」になっていたようです(笑)
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