第2章 第二十話:浩紀の活躍と甘い時間
体育祭は大きな問題もなく、予定通り進んでいた。
ちなみに浩紀の学校の体育祭では赤と白に分かれるのではなく、クラスごとの対抗戦であった。
浩紀のクラスは現在2位につけていた。
これから行われる競技は『男子:4×100mリレー』の決勝が行われようとしていた。
浩紀のクラスもこれに残っており、浩紀と太田に加え、陸上部の短距離の選手とサッカー部の選手の4人でチームを組んでいた。
決勝戦に残った8チームがスタートラインに着き、スタートの空砲がならされるのを待っていた。
浩紀たちのチームの第一走者はサッカー部の選手であった。
ここで「位置について」という声がかけられ、続いて「パン」という乾いた音が運動場に鳴り響くと、第一走者の選手たちが一斉に走り出した。
周りで見ている生徒たちから大きな歓声が沸き上がっていた。
第一走者が二番目の陸上部の選手にバトンを渡したのが全体の5番目であった。
ここで陸上部の意地で2人を抜き、3番手で次の走者である太田へとバトンが渡る。
太田は「ウォォォー」と声を出しながら二番手に追いつき、横に並んだ状態でアンカーの浩紀にバトンを渡す。
「浩紀、あとは任せた!」
そう言うと太田は地面に大の字で寝転がったのだった。
バトンを受け取った浩紀は一気に加速し2位を争っていた選手を一気に引き離し、ゴール手前20m辺りで一位の選手に追いついた。
ここで周りの生徒たちから会長コールが巻き起こる。
そんな中でも浩紀は杏奈の「ヒロ、いけー!」という言葉をしっかりと聞き分け、その言葉をエネルギーに変えて一気に抜き去り、そのまま1位でゴールを決めたのだった。
一位を決め喜び合う4人。その後、自分たちのクラスの席に戻った浩紀は杏奈とハイタッチをして喜び合った。
「ヒロ、凄くかっこよかったよ。ヒロを応援する声が凄かったけど、私の応援は聞こえた?」
「うん。アンの声はよく聞こえていたよ。きっとアンの応援が聞こえて力がみなぎるのを感じたよ。きっと、アンの応援が俺を勝たせてくれたんだよ」
浩紀は杏奈に嬉しそうに微笑みかけたのであった。
「ヒロ、ズルいよ。そんな風に言われたら嬉しくってどうしたらいいかわからなくなっちゃうじゃない」
顔を赤くしながらもじもじする杏奈を見て、どうしようもなく愛おしく感じる浩紀。
浩紀は杏奈の手を引いて歩き出した。
「ヒロ、どこへ行くの?」
困惑する杏奈が尋ねる。
「あんなに可愛い顔をするアンが悪いんだからね」
そう言って浩紀は杏奈を人気のない部室棟の裏へ連れてきた。
浩紀は杏奈の方を向くと杏奈を両手でギュッと抱きしめたのだった。
抱きしめられた杏奈は一瞬ビックリしたものの、落ち着きを取り戻すと「仕方ないなぁ」と優しくつぶやくと、ギュッと抱きしめ返したのだった。
30秒ほどハグした後、ゆっくりと離れた二人。
「アン、この後の借り物競走応援してるから頑張ってね」
「ヒロが応援してくれるなら100人力だよ。薫をぎゃふんって言わせてあげるんだから!見ててね、ヒロ」
その後、浩紀と杏奈は手をつないで席へと戻っていった。
浩紀たちがクラスへ戻ると、手をつないで帰ってきた二人を見とがめた沙織がからかってきた。
「ちょっと二人とも、そんなに仲良く手なんか繋いじゃって、どこで一体何してたのよ?」
「ちょっとこの後の借り物競走で薫に勝てるように元気をもらっていただけよ。別にちょっとハグしただけで、変なことなんてしてないんだからね……」
「ほほう……。ハグとな。なら私も次やる競技の前に浩紀にハグしてもらおっと」
「絶対ダメ!いつも言ってるでしょ!ヒロは私のヒロなんだからね!」
「はいはい。わかってるって。そういえば借り物競走だけど、今回のお題は私が考えたやつだから楽しみにしておいてね」
不敵な笑みを浮かべる沙織であった。
ここで放送が流れる。
『借り物競走に出られる選手は選手待機場所に集まってください。繰り返します。……』
「ヒロ、私呼ばれたみたいだから行ってくるね」
杏奈は気合を入れて待機場所へと向かうのであった。
杏奈が待機場所へ行くとすでに薫がやって来ていた。
「お姉ちゃん、勝負の直前までお兄ちゃんといちゃついてる何て随分余裕ですね。でも余裕を見せていられるのも今のうちですよ。今日私が勝って、今度のデートでお兄ちゃんの心も体も篭絡してみせますから、覚悟しておいてくださいね」
そう言って薫は不敵な笑みを浮かべるのであった。
それに対して杏奈は、
「絶対に負けないんだからね!それにヒロは薫に篭絡なんてされないって信じてるから」
と強気で返すのだった。
遠くでその光景を見ていた浩紀は、二人の頭上に虎と竜が対峙しているような錯覚を覚えたのだった。
こうして、今まさに杏奈と薫の姉妹による川中島の合戦ならぬ、借り物競走での戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。




