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【本編終了】『幼馴染の境界線 ―僕の祈りと、君の憧れ―』  作者: サッサン
第1章「軽井沢の迷宮」

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第十四話:湯煙の告白、そして日常への帰還【加筆&修正】(26年5月29日)

軽井沢の別荘を後にした一行は、そのまま帰路につくのではなく、信州の鎌倉と呼ばれる上田の別所温泉へと足を延ばした。

旅の疲れを癒やすための寄り道だったが、男湯と女湯、それぞれでこの旅の総括とも言える本音トークが炸裂することになる。


ーーー


立ちのぼる湯煙の中、女子だけの空間は、外の爽やかな空気とは裏腹に密度の高い熱を帯びていた。


「ねえ、ぶっちゃけ……今回のメンバーで、誰が一番タイプ?」


沙織が湯船に肩まで浸かりながら、いたずらっぽく切り出した。


「私はもう、浩紀君一択かな。あの優しさと、たまに見せる頼りがいがあるところ、本当に最高」


沙織が宣言するように言うと、隣で薫が静かに、けれど強く反論した。


「浩紀お兄ちゃんは、優しいだけじゃありません。自分のことを後回しにできる、本当に強い人なんです。……誰よりも私が分かってます」


湯煙の向こう側で、二人の視線が真っ向からぶつかり合った。

そんなバチバチとした空気に、太田の彼女である敦子は少し困ったように笑った。


「私は太田くんが一番です。……でも、博康さんはやっぱり、住む世界が違う王子様って感じですよね」


「そうね。博康君は完璧すぎて、隣にいると背筋が伸びちゃうかも」


香澄がさらりと答える。すると、ずっと黙っていた杏奈に沙織の視線が向けられた。


「杏奈ちゃんは? やっぱり博康さん?」


「……え? あ、うん。そうね。博康お兄ちゃんは、私の憧れだから」


答えながら、杏奈は無意識に自分の首元に手をやった。けれど、そこにあるはずの三日月の輝きは今、脱衣所のカゴの中だ。指先に触れる自分の肌の冷たさに、彼女は言いようのない心細さを感じていた。


「でも私は杏奈さんには浩紀さんがほんとにお似合いだと思うんですけど……」

敦子が悪気なく言った。


「ずっと一緒だったからそう見えるだけよ」

と答えた杏奈の顔は、温泉のせいか少し赤くなっているように見えた。


ーーー


一方の男湯では、太田が広い湯船で手足を伸ばしながら、浩紀を冷やかしていた。


「で、結局どうなんだよ、浩紀。畑中に猛アタックされて、薫ちゃんからも懐かれて……。お前、どっちか選ぶつもりあるのか?」


「……勘弁してくれよ。二人とも大事な友達と、大事な妹みたいなもんだから」


浩紀が顔をタオルで覆いながら答えると、太田はニヤリと笑った。


「妹、ねぇ。お前、杏奈のことはどう思ってんだよ? 結局、博康先輩と香澄先輩がどうなろうと、お前は杏奈のためのやせ我慢を続けるつもりか?」


その問いに、少し離れた場所にいた博康が、静かに耳を傾けていた。

浩紀は天井を見上げ、ぽつりと呟く。


「……アンが笑ってれば、それでいいんだよ。俺は」


浩紀が吐き出したその言葉は、湯煙の中に溶けて消えた。

少し離れたところで、博康がふっと目元を和らげる。


「……いい答えだな、浩紀。お前のその『生真面目なまでの純粋さ』は、時にどんな正論よりも強い」


香澄を一途に想い続けている博康だからこそ言える、重みのある言葉。

兄からの、同じ「一途な男」としての賞賛に、浩紀は慌ててタオルで顔を隠した。


ーーー


夕方、車は地元へと戻ってきた。駅前で太田と敦子を降ろし、次に沙織が降りる。


「浩紀君、また学校でね! 絶対、連絡するから!」


沙織はそう言って、浩紀のスマホに「I LOVE YOU」と書かれた沙織に似た可愛い女の子のスタンプを送信して去っていった。

その後、桐谷家の前に車が到着し、ようやく2泊3日の起伏にとんだ旅が終わった。

河合家の荷物を下ろし、杏奈が「……じゃあ、おやすみなさい」と家に入ろうとしたその時、車から降りた浩紀が、彼女を呼び止めた。


「アン」


振り返る杏奈。

街灯に照らされた浩紀は、少し疲れたような、けれど穏やかな表情をしていた。


「今年もアンと一緒に行けて、楽しかったよ。……じゃあな」


そう短く告げると、浩紀は自分の家へと入っていった。

いつもの、何気ない挨拶。

けれど、「今年も」という言葉には、二人が積み重ねてきた時間と、これからも続くであろう関係への願いが込められているように感じられた。


杏奈は、浩紀が消えた扉をしばらく見つめていた。


「……なによ、かっこつけちゃって」


小さく毒づいたものの、胸の奥が、温泉の熱とは違う、もっと優しくて柔らかな温度で満たされていくのを、杏奈は確かに感じていた。

そして無意識のうちに、服の上からそこにある三日月をそっと抑えていた。


軽井沢の夏は終わった。

けれど、手のひらに伝わる三日月の確かな重みと、心地よい胸の鼓動は、これからの日常を大きく変えていく予感に満ちていた。

第1章・軽井沢編を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

今回のお話で、無事に軽井沢での夏休みが幕を閉じました。


温泉での本音トーク、いかがでしたでしょうか?

書いてる間、私も彼らと一緒に温泉に入ってのんびりしたい……と切実に思ってしまいました(笑)。


軽井沢を経て、彼らの関係はこれから学校という日常に戻り、さらに加速していきます。


少しでも「この先の修羅場(?)が気になる!」と思ってくださった方、

あるいは「浩紀、頑張れ!」と一瞬でも思ってくださった方、

ぜひ【ブックマーク】や【下の☆☆☆☆☆をポチッとな!】で応援していただけると、執筆の大きなパワーになります!


毎日19時ごろに更新していく予定ですので、明日からの新展開もお見逃しなく!


次なる舞台は……「修学旅行」。

軽井沢で結ばれたあの「危うい同盟」や、アンが手にした「月のネックレス」。

それらが、学校最大のイベントでどんな嵐を巻き起こすのか。


浩紀の胃に穴が開く前に、ぜひ見届けてあげてください(笑)。

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― 新着の感想 ―
幼馴染という近すぎる距離が、安心できる一方で、恋心を伝えにくくする壁にもなっているのが印象的でした。杏奈のために自分の想いを押し殺す浩紀が切なくて、そんな彼に沙織や薫が惹かれ、それぞれの想いがすれ違っ…
杏奈ちゃん、早く気付いてー!とヤキモキしながら読ませていただきました! 浩紀くんからの愛情もさることながら、どこの居場所が一番大切なのか、早く気付いてー!という気持ちでした!
憧れと好きはちょっと違う…のに気がついているはずでしょー!と思わずお節介したくなっちゃいますね(笑)ジレジレで良いです◎
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