第2章 第六話:テニス部への入部
始業式の次の日の朝。桐谷家の玄関には浩紀とケイティを迎えに来た杏奈と薫がいた。
浩紀が学校へ行く準備をして玄関へ向かう。
「アン、それに薫ちゃん、おはよう」
「ヒロ、おはよう」
「浩紀お兄ちゃん、おはようございます」
浩紀たちが挨拶をしていると、そこへケイティが駆け込んできた。
「杏奈、薫、Good morning!」
「おはよう、ケイ。朝からあわただしいわね」
少し呆れ気味にいう杏奈。
「まだ時間に余裕はありますから、そんなにあわてる必要はないですけどね」
薫が冷静に指摘するのであった。
4人は一緒に最寄りの駅へと歩き出した。
「そういえばケイ、あなた今日から部活動始まるけど、確かテニス部に入部するのよね?」
「はい、そのつもりです。みんなと一緒に部活するです」
そう言いながら、エアー素振りをするケイティであった。
「あなたラケットは持ってるの?」
「こっちで買おうと思ってます。今度一緒に買いに行くのを手伝ってほしいです」
「なら今度のお休みにでも一緒に見に行きましょうよ!午前中から行って、ついでに色々とお店を見て回りたいわ」
そう言うと杏奈は浩紀を見た。
「その日ヒロはどうする?」
「午前中は予備校があるから、その帰りにお昼ご飯を食べがてら合流する感じでどうかな?」
「わかったわ。ならお昼にいつものフードコートで待ち合わせでいいかな?」
「うん、大丈夫だよ」
そう言うと、今度は浩紀は薫の方を向いた。
「薫ちゃんは明日はどうする?」
「お兄ちゃんは私が一緒の方が嬉しいですか?」
薫が上目遣いに浩紀の目を見つめ、浩紀はそんな薫にドキマギさせられる。
「え、……ま、まぁその方が……にぎやかになって楽しいんじゃないかな……」
薫から逆に質問をされ、しどろもどろに答える浩紀であった。
「それなら喜んで参加します。ケイさん、明日はよろしくお願いしますね」
そう言って満面の笑みを浮かべる薫であった。
「ヒロ、あんまり薫に甘い顔をすると、またまとわりつかれるわよ……」
杏奈が浩紀に注意を促した。
「あはははは……」
乾いた笑いをする浩紀であった。
(薫ちゃんに言われるとなんかかわいそうに思えて拒否できないんだよな……)
「ケイ、とりあえず今日は私の予備を貸してあげるわ」
「杏奈ありがとう!」
そう言って杏奈に抱き着くケイティを、杏奈は必死に「離れなさい!」と言って引き剥がそうとするのであった。
そんな二人を浩紀は楽しそうに見ていると、
「ヒロ見てないで、助けてよ!」
そう言って助けを求める杏奈。浩紀は苦笑いしながら二人の間に割って入ると、杏奈の肩を抱き寄せ、ケイティのシャツの襟首を掴んで、まるで大型犬をあしらうように引き離した。
「はいはい、二人とも朝から元気だね。そろそろ駅に向かわないと、電車来ちゃうよ」
こうして4人は一路駅へと向かうのであった。
登校中、ケイティは終始上機嫌にスキップをしたりしていた。
ーーー
放課後。浩紀、杏奈、ケイティの三人はテニスコート前にやって来ていた。
テニスのユニホームを着ている浩紀と杏奈に対して、ケイティは学校のジャージを着用していた。
三人がコートに入ると、先に練習していた部員たちの間にざわついた空気が流れる。
ここで女子テニス部主将である杏奈が部員たちを集めた。
「みんなちょっと集まって。……今日から新しくテニス部に入るケイティさんよ。留学生だけど日本語も上手だから沢山話しかけて、仲良くしてあげてね」
杏奈はそう言った後にケイティに自己紹介をさせる。
「ケイティです。今日からよろしくお願いします。アメリカでもテニスやってました。よかったらケイって呼んでください」
ケイの自己紹介が終わると部員たちが拍手をして迎え入れたのであった。
ーーー
基礎練習が終わり、試合形式での練習が始まろうとしていた。
ここで杏奈がケイティに声をかけた。
「ケイ、よかったら私と1セットマッチで試合してみない?みんなケイの実力を知りたいと思ってるでしょうから」
「OK、杏奈。私負けないね!」
「あら、私だってこの部の主将として負けるわけにはいかないわ。勝負よ、ケイ」
部員たちが見守る中始まった杏奈とケイティの試合は、フルゲームまでもつれ込む。
ここでケイティが杏奈に賭けを持ちかけた。
「杏奈、この試合に勝った方が今夜、浩紀にマッサージしてもらうのはどうですか?」
「ケイ、あんた何言ってるのよ!ヒロは私のなのよ!」
賭けを拒否する杏奈にケイティがさらなる挑発を行う。
「浩紀、杏奈は私に勝てないって思ってるみたいですよ。だから、杏奈は勝負から逃げようとしてるんですよ」
「ちょっと、誰もそんなこと言ってないでしょ!そこまで言うならいいわ。私がきっちり勝ってヒロの愛とマッサージをしっかり死守するんだから!」
(どちらが勝っても俺が今夜マッサージすることは確定なんだね……)
そう心で思う浩紀であった。
試合はデュースにまでもつれ込む。先にマッチポイントを掴んだのはケイであった。
「杏奈、これで私が浩紀のマッサージをゲットするね!覚悟はいい?」
そう言うとケイティはサーブを打つ姿勢に入る。高い打点から振り下ろされるラケットの中央できれいにボールを捕らえ、理想的なコースへと一直線に進んでいった。
(まずい!これは届いてもうまく打ち返せない……)
杏奈が諦めかけたとき、彼女の耳に浩紀の声援が聞こえてきた。
「アン、諦めるな!アンならちゃんと打ち返せる」
その声援で力がみなぎってくるのを感じた杏奈は、強く地面をけると、ボールの進むコース上に回り込みフォアハンドできれいに打ち返したのであった。
打ち返されたボールは鋭くストーレートコースに進み、見事にライン際へと突き刺さった。
これでデュースに戻した杏奈は勢いに乗り、試合に勝ったのであった。
「やったー!私の勝ちよ!ヒロの愛とマッサージのご褒美は死守したわ!」
「今日は負けました!でも次は必ず勝って、浩紀のマッサージをゲットします!」
「受けて立つわ、ケイ!でもヒロの全ては私の物だから、絶対に負けないけどね!」
そう言ってガッチリと熱い握手を交わす杏奈とケイティであった。
それを見ていた薫。
(まるで3流のスポコンアニメを見せられてるみたいです。でも、……お兄ちゃんのマッサージは羨ましいです)
そう心の中でつぶやいて、表情には出さずにうらやましがる薫であった。
そんな薫に気が付いた浩紀。
「もしかして薫ちゃんもマッサージやってほしかった?それなら今度一緒にやってあげようか?」
そういう浩紀に薫が嬉しそうに返事をしようとすると、杏奈とケイティが割り込んできた。
「絶対ダメです!浩紀は薫に甘すぎます!」
「そうよ。ヒロのマッサージを受けていいのは試合の勝者だけなんだからね!もちろん恋人の私はいつでも受けていいんだけどね」
そう言って浩紀の腕に二人で両サイドから抱き着いて薫をけん制するのであった。
そんな光景を少し離れた場所で見ていた太田が呟く。
「やれやれ、結局浩紀の周りは騒がしいまんまだな。……まあ、浩紀自身楽しそうだからいいけどな」
こうしてケイティのテニス部での一日目が終了したのであった。
その夜、浩紀の部屋でマッサージを受けた杏奈の声が、途中から甲高く、せつない声になったかどうかは浩紀と杏奈にしかわからない。
第2章第6話をお読みいただきありがとうございます。
今回はケイがテニス部に入部したお話を書かせていただきました。
浩紀をかけた試合では、浩紀の声援のおかげで無事杏奈が勝利を収めることが出来ました。
その夜二人がマッサージだけで済んだのかどうかは皆様のご想像にお任せいたします(笑)。
お願い:ブックマークと評価☆で、ヒロの愛とマッサージを死守した杏奈を讃えてあげてください!




