第1章 第五話:アメリカからの来訪者
留学生が日本を訪れる2日前の朝、博康が浩紀に写真を撮らせてほしいと言ってきた。
「何でも俺たちが留学生を迎えに行った際にすぐにわかるように、俺たち兄弟の写真を送ってほしいらしいんだ」
「そういうことなら構わないよ。一応髪とか整えてからでいいかな?」
「それはもちろん構わないよ。準備できたら言ってくれ」
「わかったよ。そういえば留学生の名前はなんて言うの?」
「電話で父さんは留学生に何度か会ったらしいんだけど、留学生のことを『ケイ』って呼んでるみたいだよ」
「そうなんだね。ちょっと準備してくるよ」
洗面所に向かいながら留学生のことを考える浩紀であった。
(ケイ君って名前の人なんだね。仲良くできるといいな……)
こうして浩紀と博康の写真がアメリカへメールで送られたのであった。
ーーー
留学生がやってくる当日、浩紀と博康は車で成田まで迎えに行くことにする。
今回は用事のあった薫は抜きにして、掃除を手伝ってくれた杏奈もついてくることになった。
車は大きな渋滞に合うこともなくスムーズに成田空港の駐車場へ到着することが出来た。
「まだ一時間以上あるし、二人でお店でも見てくるといい。俺は喫茶店で時間をつぶしてるからさ」
博康が二人に提案した。
「ならそうさせてもらうよ。アンもいいかな?」
「うん。私はそれで構わないよ」
「決まったみたいだな。浩紀、1時間後に南口のS1ゲートの前で待ち合わせにしよう。ちなみに俺はスタバにいるから何かあったら来るといい」
こうして浩紀と杏奈は博康と別行動をとることが決まったのであった。
移動しながら杏奈が浩紀に尋ねた。
「ヒロ、留学生の人の名前はなんて言うの?」
「ケイ君っていうらしいよ」
「ケイ君っていう男の子なんだね(男の子でよかった)。仲良くなれるといいね」
「そうだね。でも、アンとあんまり仲良くなられちゃうと俺がやきもち焼いちゃうからほどほどにね」
そう言って指でポリポリと鼻の頭をかく浩紀。
「もう、ヒロったら……。どんな人が来たって、私の一番はヒロだよ」
そう言ってはにかむ杏奈であった。
浩紀と杏奈は最初に5階のフードコートへやってきた。そこで飲み物を購入し、展望デッキへと移動する。
滑走路に飛行機が「ゴーー」と大きな音を立てて降りてくるところであった。
「ヒロ、見て。飛行機があんな近くに見えるよ。それに開放的でとても気持ちいいね」
「ホントだね。今到着した飛行機はどこから来たのかな?」
「みんな別の国からやって来てるんだよね。私もいつか海外に旅行に行ってみたいな……。ヒロ、その時は一緒に行ってくれる?」
「僕でよかったら喜んでお供させていただきます」
そう言って浩紀は執事の様に恭しく礼をして見せた。
それを見た杏奈はクスクスと笑ってから浩紀に微笑んだ。
「ヒロと一緒ならきっと楽しいだろうな。ヒロはどこの国に行きたい?」
「両親のいるアメリカも行ってみたいし、ヨーロッパやインドネシアのバリ島なんかにも行ってみたいかな」
「ヒロは欲張りなんだから。でもいつか二人で全部一緒に行ってみようね!」
「うん、約束だね」
そう言うとお互いに手を握り合い、杏奈は浩紀の肩にコテッと頭を預け、寄り添ったまま飛び立つ飛行機を眺めていた。
ーーー
時間になり待ち合わせ場所へやってきた二人。
博康はすでに待ち合わせ場所へ来ており、電光掲示板を見上げていた。
「兄さん、お待たせ」
「来たか。展望デッキには行ったか?」
「うん。とても開放的でよかったよ」
「二人とも有意義な時間を過ごせたみたいでよかったよ。ちなみに留学生は予定通りこのゲートから出てくるみたいだ。浩紀、これを持っておいてくれるか」
そう言うと浩紀にラミネートされた紙を渡した。そこには大きく『Katie』と書かれていた。
(ケイティ?少しだけ女性ぽい名前だな。でも日本にもアキ君とかどちらにもとれる名前の人はいるし、きっとそういうことなんだろうな)
電光掲示板の表示が到着済みになってからしばらくすると徐々に乗客がゲートから出てき始めた。
1人のアメリカ人女性が大きなスーツケースをガラガラと引きながら出てくるのが見えた。
(たぶん高校生か大学生ぐらいだよね……。女性の一人旅かな?)
その容姿は金髪碧眼でスタイルも良く、理想のアメリカ人女性といった感じであった。
浩紀が遠目にその女性を見ていると、隣にいた杏奈が浩紀の腕をぎゅっとつねった。
「痛っ」
「ヒロ、見過ぎ!私以外の女性をそんなに見ちゃダメなんだからね……」
「ゴメンよ、アン。女性の一人旅なんてすごいなって思ってつい……。でも、これからは気を付けるよ。その代わりアンのことを今まで以上に見させてもらうからよろしくね」
「それなら許してあげるわ」
杏奈はそう言いながら顔を赤く染めていた。
先ほど浩紀が見ていた女性はこちらにゆっくり歩きながら、きょろきょろと周りを見て人を探しているようであった。
どうしても気になった浩紀がその女性を再度見たとき、ちょうどその女性も浩紀の方を向き目が合った。
そしてその女性は笑顔になると浩紀に向かって、手を振りながら猛ダッシュで突っ込んできたのであった。
(え、なに、なに?あの人なんでこっちに突っ込んでくるんだ?)
焦る浩紀を尻目にその女性は浩紀の目の前に来ると、一気に浩紀の首に手をまわしぎゅっと抱きついたのであった。
「ヘイ、あなたが浩紀ね」
浩紀は突然抱きつかれたことと、名前を呼ばれたことに驚いていた。
「だ、誰?」
「私はケイティです。今日からよろしくね!」
抱き着いたまま挨拶をするケイティ。
「ヒロ、ずいぶんとかわいらしいケイ君ね」
氷のような視線を向ける杏奈の言葉に背中が凍り付く浩紀であった。
「っていうか、いい加減あなた、ヒロから離れなさいよ!」
そう言って浩紀からケイティをはがそうとする杏奈であった。
杏奈によってケイティが離れた浩紀は、深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、博康に尋ねる。
「兄さん、ケイ君じゃなかったの?」
「ケイさんは女の子だって言ってなかったっけ?」
「兄さん!」
「まあいいじゃないか。可愛い女の子が来てくれたんだからさ」
「そういう問題じゃないでしょ……」
浩紀があきれているとケイティが不安そうに浩紀を見つめた。
「浩紀は私が気に入らない?」
「そんなことないよ。うん。大丈夫だから、これからよろしくね」
そう言って慌てて作り笑いを浮かべる浩紀であった。
「よかったです。それで浩紀、彼女は誰ですか?」
そう言って杏奈を指さすケイティ。
「彼女は俺の幼馴染の杏奈だよ。……俺の恋人でもあるけど……」
それを聞いたケイティは今度は杏奈に抱きついた。
「ちょっと離れなさいよ!」
ケイティをはがそうともがく杏奈に、彼女が話しかけた。
「あなたが杏奈ね。浩紀のお母さんから聞いてるよ。浩紀の最も大切な女の子だって。将来、浩紀のお嫁さんになって、私の娘になる予定だから仲良くしてあげてって」
「ヒロの最も大切な女の子……。ヒロのお嫁さん……♡。ヒロの親公認……」
その言葉にうっとりする杏奈。
「し、仕方ないわね。特別に今日のことは許してあげるわ。後これからよろしくね」
こうして一波乱あった出会いであったが、無事に丸く収まったのであった。
一行は博康の運転する車で桐谷家へと向かうのであった。
この時、浩紀も杏奈も気が付いていなかった。
これから浩紀が一つ屋根の下でケイティという魅惑のボディを持った金髪碧眼の美女と1年間共に過ごすのだということを……。
第1章第5話をお読みいただきありがとうございます。
今回はケイティのお迎えの場面を書かせていただきました。
ちなみにこのケイティの名前ですが、私のアメリカ人の従弟の娘の名前を拝借させて頂きました。
なので本人(まだ13歳だったはず)と同じく魅力的な女性として書いていくつもりです。
今回、杏奈の感情の乱高下を見て頂けたでしょうか?杏奈というキャラは浩紀のことになると、とってもチョロ可愛いうえ、ポンコツにもなるんです(笑)。そこを感じて頂けたら嬉しいです。
今後、ケイティがどんな波乱を呼んでくるのかお楽しみに。
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明日も1話投稿する予定ですので、よろしくお願いします。




