第1章 第四話:嵐の予感
沙織との映画から戻ってきた浩紀に、家にいた博康が声をかける。
「浩紀、ちょっといいか?」
「どうしたの兄さん?」
博康は食堂のテーブルに移動すると、浩紀と自分の分のコーヒーを淹れてそれぞれの前に置いた。
「ありがとう兄さん。それで話って?」
「実は、さっきアメリカの父さんたちから電話があってな、急な話なんだが今度一年間アメリカ人の留学生をうちで預かってほしいってことなんだよ」
急な話に驚く浩紀。
博康の話によると、その留学生の親とうちの両親が仕事上の付き合いがあり頼まれたそうだ。
「それはまた急な話だね。でも部屋自体は余っているし僕は別段構わないよ」
「そうか。高校は浩紀たちと同じ永徳高校の3年生だから、浩紀に結構負担をかけると思うけど平気か?」
「うん。大丈夫だと思うよ。学校ではアンや太田や沙織なんかにも手伝ってもらえるだろうしね」
浩紀の言葉を聞いて安心する博康。
「なら後で父さんたちにはそう伝えておくよ。浩紀の隣の使ってない部屋を明日にでも大掃除しておかないとな」
「OK!なら明日は一日留学生を迎え入れるための準備だね」
こうして一緒にアメリカ人留学生と同居することが決まったのであった。
しかしこの時浩紀は重要なことを確認し忘れていた。
それは留学生の性別である。
浩紀は男だけの家に来るのだから当然男性が来ると考えていたのであった。
浩紀は夜、ラインで杏奈に留学生の話をしていた。
その結果、杏奈と薫がお手伝いに来てくれることになったのであった。
ーーー
翌日の朝、朝食を終えた浩紀と博康はジャージに着替えて空き部屋の掃除に取り掛かった。
最初に物置代わりに置かれていた段ボールなどを外に出し、部屋の中をすっきりさせることから始める。
あらかた荷物を出し終わったころへ、杏奈と薫がお手伝いにやってきた。
面子が全員揃ったところで、博康がそれぞれの担当を決めていく。
「それじゃあ、掃除機を杏奈ちゃん。薫ちゃんは杏奈ちゃんが掃除機をかけたところをモップで水拭きしてくれるかい?それが終わったら最後に二人でからぶきしてもらえるかな」
「はい。いいですよ」
杏奈が軽快に返事をし、薫も「わかりました」と答えた。
「浩紀、俺たちはベッドと布団なんかの家具を買いに行こう。杏奈ちゃんたちにここを任せちゃう感じになるけどいいかな?」
「はい大丈夫ですよ。任せてください!」
杏奈がくいっと肘を曲げて力こぶを作る真似をしながら答えた。
ーーー
二人は博康の運転する車で大衆向けの家具屋さんまでやって来ていた。
「ベッド以外にも、勉強ができる机と教科書を入れておく本棚があった方がいいよな。タンスは備え付けのクローゼットがあるからいいとして、後はゴミ箱とかの小物もだな」
「それなら俺は本棚と机を見てくるよ。兄さんはベッドと布団をよろしくね」
二手に分かれて買い物を行った。
(とりあえず何色が好みかわからないから、ブラウンなんかの無難なものでいいかな)
ベッドも机も本棚もすべて無難な色の物を選び、どれも組み立て式の物にして、車で運ぶのにかさばらないようにした。
買い物自体は20分ほどで終了し、後部座席をフラットにし、そこへ買った家具を入れていく。
二人が自宅へ戻ると埃っぽかった部屋が、見違えるほどきれいに生まれ変わっていた。
「凄い綺麗になってるじゃないか。さすがはアンと薫ちゃんだね。これなら今すぐにでも奥さんとしてやっていけそうだね」
浩紀がそう言うと杏奈は嬉しそうに微笑みながら浩紀を見つめた。
「それならちゃんとヒロの奥さんにしてね」
「アン、もちろんだよ」
今にも抱きしめ合いそうな雰囲気の二人であったが、薫の「ゴホン」というワザとらしい咳払いで現実に戻される。
「お兄ちゃんに褒められたのはお姉ちゃんだけじゃないんですけど……。浩紀お兄ちゃん、本当に薫もいいお嫁さんになれると思いますか?」
ウルウルと潤んだ瞳で浩紀を見つめる薫。
「も、もちろんだよ。俺が保証するよ」
「嬉しいです。貰い手がなかったらお兄ちゃんにもらってもらおうかな……」
薫のその言葉に鋭く反応する杏奈。
「駄目よ!ヒロは私のヒロなんだから、薫にも上げないんだからね!」
そんなやり取りを見ていた博康が楽しそうに浩紀に話しかけた。
「浩紀、お前モテモテじゃないか。これはまだまだ浩紀争奪戦は続きそうだな」
そう言って楽しそうに笑っていた。
「ちょっと、博康お兄ちゃん。全然笑い事じゃないんだからね!」
杏奈の叫びと、他の3人の笑い声が桐谷家に楽し気に響いていた。
第1章第4話をお読みいただきありがとうございます。
今回は前回座談会で少し示唆した留学生の話を入れてみました。
まだ留学生本人は出てきていませんが、今後、浩紀が留学生に対面したときにどんな反応を示すのか想像するだけで楽しくなります(笑)。
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