第1章 第三話:沙織と映画デート、杏奈は迷探偵(後編)
沙織と浩紀は映画館に入るとチケットの引換券を利用してチケットを入手した。
二人は周りに人のいなさそうな後ろ寄りの真ん中の席を選んだ。
今回見る映画は青春恋愛映画で「愛情と友情の間」という題名だ。主人公の高校生が幼馴染の恋人と高校で仲良くなった女友達との間で揺れ動く心を描いた人気作品である。
二人は飲み物とポップコーンを持ってシアタールームへと入っていった。
「浩紀はこの映画の結末は知ってるの?」
「知らないよ。あえて情報が入ってこないようにしていたから。沙織は?」
「実は私も浩紀と同じなのよ。やっぱり私たち相性抜群にいいんじゃない?」
そう言って沙織は浩紀にぐっと体を寄せた。
「それなら最高の会長・副会長コンビってことだな」
そう言って浩紀が笑っていた。
「どうせなら恋人が良かったんだけどな」
沙織は上目遣いに浩紀の顔を見つめた。
「俺には杏奈がいるから……」
「まぁ、今は仕方ないから許してあげるわ。ほら席に座ろ」
その光景の一部始終を2列ほど後ろの席から見ていた杏奈は、鬼のような形相で沙織を睨んでいた。
「なにが相性抜群よ!何が恋人が良かったよ!ヒロの恋人は私なんだからね」
浩紀たちに聞こえないように小声で文句を言っている杏奈の横で、薫がキャラメル味のポップコーンの甘いにおいを漂わせ、サクサクとリズミカルに食べながら呆れていた。
ーーー
映画は、主人公と幼馴染の女の子との間で些細なすれ違いから険悪になってしまい、そのできた隙間に女友達が入り込んでくる展開であった。
杏奈はいつの間にか映画に集中しており、幼馴染の恋人に感情移入して、映画を見ていた。そして、主人公と険悪になると悲壮な顔をして「駄目!そんな些細なことで離れちゃダメだって!」心の中で叫んでいた。
終盤にお互いの大切さに気が付いた主人公と幼馴染は、主人公が女友達の告白を断り、幼馴染の恋人の元へ走っていき抱きしめて愛を再確認するシーンで終幕となった。
その時、杏奈の目からは大粒の涙がとめどなくあふれていた。
「よがったぁー。ほんとによがったよ」
ヒロインと自分を重ねていた杏奈は自分の事のように喜び、ぼろぼろと流れ落ちる涙で顔を濡らしながら感動していた。
その隣で薫は「ちゅーっ」とドリンクを飲みながら冷めた目で杏奈の様子を見ていた。
映画が終わり浩紀たちが席を立ち外へ向かって歩き出すのを見て、二人もあわてて後を追ったのであった。
ーーー
浩紀と沙織は映画館のロビーに着くとお互いにお手洗いへ行くことにした。
ここで薫が杏奈にお手洗いに行ってくるといって沙織の後を追った。
女子トイレで沙織に追いついた薫は声をかける。
「沙織さん、デート楽しんでますか?」
唐突に声をかけられびっくりした顔で振り返る沙織であった。
「薫じゃない。なんでここにいるの?」
「実はお姉ちゃんが二人のこと気になっちゃって仕方なさそうだったんで、こっそり尾行させてもらってたんですよ」
それを聞いた沙織は呆れた顔をした。
「あなたたち暇なのね。別に杏奈が心配するようなことしたりしないのに」
「これもきっと恋する乙女心ってやつですよ。一応知らないふりしておいてくださいね」
「あんた、楽しんでるわね」
あきれ顔で言う沙織に対して薫は最高の笑顔を見せる。
「めっちゃ楽しいです。ポンコツなお姉ちゃんってなかなか見られないですから。そろそろいかないと怪しまれるんで先に行きますね」
そう言って杏奈の元へと薫は戻っていった。
ーーー
トイレから戻ってきた浩紀が沙織を待っていると、ふと怪しい人影を見つける。
(キャップにパーカーのフードかぶって、さらにマスクにサングラスって怪しさ満点なんだが……
)
そんな怪しい人物を見ながら、でもどこか懐かしいような、慣れ親しんだような感覚を受けてしまう浩紀であった。
杏奈は浩紀に見られていることに気が付き、焦りながらそそくさと浩紀の視線の入らないように通路の方へ移動していった。
焦りながら移動する杏奈は浩紀の注意をより引いていたが、それは沙織が戻ってきたことで中断された。
「浩紀、どうかしたの?」
「さっきあそこに凄い怪しい感じの人がいたんだけどさ。でもどこかに懐かしいような変な感じだったんだよね」
(ははーん、きっと杏奈ね。相当挙動不審だったんでしょうね)
「まあ、中にはそんな人もいるわよ。それよりこの後お昼食べに行きましょ」
「それならこの近くにおいしそうなパスタのお店があったんだけどどうかな?沙織の好みに合うんじゃないかなって思って調べておいたんだけど」
「浩紀ってほんと天然の女たらしよね。そんなことされたらますます好きになっちゃうじゃない……。罰としてお昼は浩紀のおごりだからね!」
顔を少し赤くしながら嬉しそうにする沙織であった。
「仕方ないな。日頃から沙織には助けてもらってるしここで一つ恩を返しておくかな」
そう言って浩紀は沙織に笑い返した。
(ほんとずるい……。やっぱり私は浩紀が好き)
「ほらエスコートして、執事様」
沙織が右手を浩紀の前にすっと差し出す。
「喜んで、お嬢様」
浩紀が文化祭の時の執事のようなスマートさで沙織の手を取り、二人でお店の方へと歩いて行った。
ーーー
そんな二人を見ていた杏奈と薫。
杏奈は悔しそうに地団駄を踏んでいた。
「私だってあんな風にエスコートされたことないのに!次のデートでは絶対にやってもらうんだからね!」
「はいはい。それより二人ともいっちゃいますよ」
慌てて後を追う杏奈であった。
ーーー
浩紀と沙織はパスタを堪能した後、仲良く腕を組んでウィンドショッピングをしていた。
お互いに気兼ねなく楽しそうにしている二人を見るたびに「キィー」っと悔しがる杏奈。
午後三時を過ぎ、二人は駅へと向かって歩き出した。
駅の改札に着くと沙織が浩紀の顔を見つめてお礼を言った。
「浩紀、今日はホントに楽しかったわ。後で杏奈にもお礼言っておかないとね」
「そうだね。それに俺も沙織と遊べて楽しかったよ。もしかしたらこういう未来だってあったのかもしれないなってちょっとだけ思っちゃったよ。もちろん杏奈が一番だけどね」
そう言って笑う浩紀であった。
その言葉を聞いた沙織は少しうつむくと、小声でつぶやいた。
「浩紀、あんたが悪いんだからね……」
「え、なんて言ったの、沙織?」
沙織の顔を覗きこもうと姿勢を低くしたタイミングで、沙織が顔を上げ、浩紀の右頬にチュッとキスをした。
(ほんとは唇にしたかったけど、さすがに杏奈の見ている前で唇にはできないよね……)
一瞬の出来事に固まる浩紀。そんな浩紀に向かって沙織が満面の笑み見せる。
「これは今日のお礼だから。ありがたくもらっときなさい」
「そ、そうか。それならありがたく……」
そう言って見つめ合う二人。
そこへ一人の人物が猛ダッシュで突っ込んできた。
「ちょっと―!沙織、なにしてくれてるのよ!」
そこに現れたのはマスクとサングラスを外した杏奈であった。
「さっきの怪しい人はやっぱり杏奈だったのか」
「ヒロ、気づいてたの?」
「さっき映画館のロビーで見たときに、あんな怪しい格好なのにどこか懐かしさというか、安心感を覚えたんだよ。それでもしかしたら、さっきの人はアンだったんじゃないかなって」
さっきの怒りもどこへやら、杏奈はヒロの愛を感じデレデレな顔になってしまう。
「それとさっき買ったんだけど、これアンに合うんじゃないかなって思って。もらってくれるかい?」
そう言って綺麗な青い花が刺繍されているハンカチを、お店の袋から取り出して杏奈に渡した。
「ヒロ、ありがとう。ほんとに嬉しい……」
いい雰囲気になる二人。
そこへ沙織が割り込んでくる。
「ちょっと杏奈。今日は私が浩紀を独占する日なんだから最後まで出てきちゃダメでしょ!」
「だって沙織がヒロに……キ、キスしたりするから……」
申し訳なさそうに小さくなる杏奈。
「仕方ないから許してあげるわよ。そのかわり、せっかく4人集まったんだからこの後お茶ぐらい付き合いなさいよね」
そう言って薫も合流しファミレスへと向かう4人であった。
「それにしても杏奈、あんたその格好はないんじゃない……」
「だって薫がこの格好がいいって……」
薫は横を向き、「スーーー、スー…」と鳴らない口笛を吹いていた。
「薫、あんた騙したわね!」
「まさかここまで真に受けるなんて思ってなかったから。ゴメンね、お姉ちゃん」
悪びれもせずに言う薫であった。
「ほら行くわよ、みんな!」
そう言って沙織は三人の背中を押して歩きだすのであった。
(ほんとは今日のデートを最後に浩紀をあきらめるつもりだったけど、それは卒業までお預けね)
「杏奈、やっぱり浩紀は最高の男ね。気を抜いてると私が取っちゃうからね」
沙織の宣戦布告を聞いた杏奈が沙織の方を向く。
「受けて立つわ、沙織。ヒロは絶対に誰にも渡さないんだからね」
こうして沙織と浩紀のデートは終了したのであった。
そして沙織は浩紀への思いを強くするのと同時に、この4人で楽しく過ごす時間を少しでも長く感じていたいとも思うのであった。
第1章第3話をお読みいただき、ありがとうございます。
今回、あれも書きたい、これも書きたいとやっていたら、気が付いたら3000文字を超えていました(-_-;)。長くなってしまいすいません。
今回、沙織は浩紀とのデートを最後の思い出にして、浩紀への想いを諦めるつもりでしたが、浩紀君が色々やってしまったせいで、卒業まで持ち越しとなりました(笑)。
今後の展開がどうなるのかこうご期待!
皆様からの応援(ブックマーク&【評価★★★★★】)をお待ちしております。応援して作者を喜ばせてあげてください(笑)
明日も1話投稿予定ですので、よろしくお願いします。




