第1章 第二話:沙織と映画デート、杏奈は迷探偵(前編)
水族館へ行った日の夜、沙織からラインが入った。
沙織:明日とか時間あるかな?よかったら浩紀が見たいって言ってた映画のチケットもらったから一緒に見に行かない?
浩紀:明日は特に予定はないけど、杏奈に確認してもいいか?
沙織:杏奈には一応私の方から許可はもらってあるけど、一応浩紀からも確認しておいて
浩紀:後で確認しておくよ
沙織:明日は朝10時にいつもの駅の改札口出たところでいいかしら?
浩紀:それで構わないよ
沙織:それじゃ、明日楽しみにしてるわね
浩紀:また明日な
浩紀はラインを閉じると杏奈に電話をかけた
杏奈は3コール鳴る前に電話に出た。
「もしもし杏奈、今の時間大丈夫かな?」
『大丈夫だよ。もしかして沙織のこと?』
「そうそう。杏奈の許可もらってるって言っていたけど、大丈夫かい?」
『ホントは嫌だけど、沙織には借りがあるから……。それにヒロが沙織と出かけても、私が本当に嫌がることはしないって信じてるから』
「ありがとう。明日は沙織と友達として遊んでくるよ。だから後日恋人として一緒に出掛けようね!」
『うん、楽しみにしてる。沙織によろしくね』
「了解。明日帰ってきたらまた電話するね」
浩紀は電話を切ると、明日出かける準備を済ませて眠りにつくのであった。
ーーー
沙織とのデート当日。今日も綺麗に空は晴れていた。
浩紀は待ち合わせ場所に10分前に到着した。
すると、すでに沙織は待ち合わせ場所に来ていた。
沙織の服装はデニム生地のショートパンツに、白地のプリントTシャツ、その上に短めのデニムジャケットを羽織った服装で、沙織のスタイルの良さをさらに引き出し、通り過ぎる男性たちの目を集めていた。
「沙織、もう来てたんだね。待たせっちゃったかな?」
「私が勝手に早く来ただけだから気にしないで。それより今日の私の服装はお気に召しまして?」
沙織はそう言いながらくるっと浩紀の目の前で一回転して見せた。
「沙織をさらに魅力的に見せてくれる服装だね。俺に杏奈がいなかったら惚れてたかもな」
そう言って笑う浩紀に対して沙織が微笑みながら言った。
「実際に惚れてくれてもいいのよ。それにしても今日は私とのデートなんだから、他の女の名前を出すのは禁止ね!」
そう言うと浩紀の腕に自分の腕を絡めて、映画館へと浩紀を誘導する沙織であった。
ーーー
少し時間をさかのぼり、浩紀が家を出る前の河合家のリビング。
杏奈は落ち着かないでいた。それを見とがめた薫が尋ねる。
「お姉ちゃん、どうかしたの?そんなにそわそわして……」
杏奈は事の成り行きをすべて薫に話した。
それを聞いた薫は杏奈に提案する。
「そんなに気になるなら二人でお兄ちゃんたちの後をつけちゃおうよ!」
「そんなのヒロと沙織を疑ってるみたいで悪いし……」
「そんなこと言ってると沙織さんにお兄ちゃんとられちゃうかもよ?」
「ヒロは私が嫌がることはしないって約束してくれたし。それに沙織とは友達として遊んで来るって言っていたし……」
踏ん切りのつかない杏奈を見た薫が杏奈をさらにあおる。
「お姉ちゃん、『セッ〇スフレンド』もお友達なんだよ。もしかしたら映画を見た後にその雰囲気にのせられてホテル街に二人で行っちゃっうかもよ?それにこれはお兄ちゃんたちがお姉ちゃんを裏切らないことを証明するための行動でもあるんだからさ!」
「二人の無実を証明するための行動……。そ、そうよね。これは二人のためなのよね。急いで準備するわね」
「お姉ちゃんは目立つんだから、極力目立たない格好に着替えてね」
「わかったわ!」
自分の部屋へ駆けあがっていく杏奈を見送る薫。
(こんな面白そうなこと、逃す手はないよね)
杏奈が着替えに行ってから5分後。
ジーンズにグレイのパーカー、そしてキャップをかぶり、その上にパーカーのフードをかぶったいでたちの杏奈が下りてきた。
「これでどうかな?」
「まだちょっと足りないかな」
そう言うと薫は杏奈にマスクとサングラスを手渡す。
「え、これもつけるの?」
「お姉ちゃんはお兄ちゃんの愛の深さを甘く見てるよ。しっかり隠しておかないとすぐにお兄ちゃんはお姉ちゃんだって気が付いちゃうから。それぐらいお兄ちゃんのお姉ちゃんへの愛は深いんだよ!」
「ヒロの私に対する愛が深い……。そうよね。しっかり隠さないと」
デレっとした顔をしながらマスクとサングラスをつける杏奈。
こうしてはたから見れば完全な不審人物が出来上がったのであった。
それとは対照に薫はゆるふわニットにフレアスカートとニーハイという完全な美少女風コーデに、肩にかけられたショルダーには、昨日浩紀からお土産でもらったペンギンのぬいぐるみがちゃっかり付けられていた。
「薫、なんであんたはいつも通りの格好なの?おかしくない?」
もっともな疑問をぶつける杏奈に薫は当たり前のように答えた。
「それはそうだよ。お兄ちゃんのレーダーが反応するのはお姉っちゃんに対してだけだから。悔しいけどお姉ちゃんはお兄ちゃんに愛されてるから特別なんだよ」
「私だけが特別に愛されてる……。それなら仕方ないわよね!」
(やっぱお姉ちゃんって浩紀さんのことになるとかなりチョロいうえに、ポンコツになるよね)
「そろそろお兄ちゃんも出かけるだろうから、いつでも出発できるようにしておいてね」
ーーー
浩紀が家を出たのを確認し、その後ろを尾行していく二人。
いつもならこの二人が歩けばすれ違う男性がつい目を向けてしまうが、今回はちがっていた。
薫の横に不審人物と化した杏奈がいるせいで、逆にすれ違う人が目線をそらしたり、小さな子供が「変な人がいる」と指さして、母親に注意されたりしていた。
しかし当の本人は、浩紀の後を気付かれずに尾行することに夢中で周りの様子に全く気が付いていなかった。
浩紀が沙織との待ち合わせ場所に到着して会話をしているのを遠巻きに見ていた二人。
ふいに沙織が浩紀の腕に自分の腕を絡めたのを見て、杏奈が動揺する。
「ちょっとなんで腕組んでるのよ」
声を低くして薫に文句を言う杏奈。
「そんなこと私に言われても知らないよ。それにデートなんだからそれぐらいは普通でしょ。そんなんじゃ最後まで持たないよ」
「そ、そうね。これぐらいは我慢しないと……」
「ほら、ボケっとしてるとお兄ちゃんたちを見失っちゃうよ」
薫に背中を押される形で杏奈も二人の後を歩きだす。
こうして始まった浩紀と沙織のデートとそれを尾行する二人。
この4人の掛け合いがこの後どのようになるのかまだ誰にも予測はつかなかった。
ただ、薫だけは面白くなる予感を強く感じていた。
第1章第2話をお読みいただきありがとうございます。
まず最初にご報告をさせて頂きます。昨日「じゆうに文庫小説大賞」の1次選考結果発表が出されており、確認したところ当作品がリストに載っておりました。応援ありがとうございました。
今回は沙織が以前、杏奈たちに作った借りの権利を使って浩紀と映画を見に行く話を書きました。
ただそれだけだとちょっと物足りないので、ここで薫にそそのかされた名探偵もとい迷探偵の杏奈にご出動願ったわけです。
次の話ではどんなドタバタ劇が繰り広げられるのかどうぞお楽しみに!
皆様からの応援(ブックマーク&【評価★★★★★】)をお待ちしております。皆様の応援が杏奈を覚醒させ、迷探偵から名探偵へと変化させるかもしれません(笑)。
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