第十二話:宝石の煌めき、無意識の笑顔
午後。一行が訪れたのは、広大な敷地にハイブランドからセレクトショップまでが並ぶ、軽井沢・プリンスショッピングプラザだった。
「それじゃ、二時間後にここに集合で」
博康の提案で、自由行動が始まった。
博康と香澄は、大人の落ち着きを纏って高級ブランドのエリアへ。
太田と敦子は、手を繋いでスポーツブランドや雑貨店の方へとはしゃぎながら向かっていく。
残されたのは、浩紀、杏奈、沙織、そして薫の四人だ。
ーーー
■ 静かなるアウトレット・バトル
「浩紀君、次はあっちのセレクトショップ見に行こう?」
沙織が当然のように浩紀の腕を引けば、反対側から薫が割って入る。
「浩紀兄ちゃん、私、あそこのサンダルが気になってて。一緒に見てくれますか?」
浩紀は二人の熱い視線と、それぞれの甘い香りに挟まれ、「あ、ああ……」と生返事を繰り返すしかない。
一方の杏奈は、その三人の後ろを少し離れて歩きながら、つまらなそうにショーウィンドウを眺めていた。
(……なによ、三人で楽しそうに。ヒロも断ればいいのに)
そんな中、ふと足を止めたのは、繊細なデザインのアクセサリーショップの前だった。
杏奈の目が、ディスプレイに飾られた一本のネックレスに釘付けになる。
それは、小さな三日月を象ったシルバーのペンダント。
「アン、どうした?」
浩紀が声をかけると、杏奈はハッとして、すぐに視線を逸らした。
「……別に。ただ見てただけよ。さ、早く行くわよ」
そっけなく歩き出す杏奈。
だが、浩紀はその一瞬、彼女の瞳がどれほどそのネックレスを欲しそうに輝いていたかを見逃さなかった。
ーーー
■ 密やかな贈り物
「……ごめん、ちょっとトイレ」
買い物の終盤、浩紀は隙を見て三人の前から姿を消した。
急いで先ほどのショップへ戻り、自らの貯金を叩いてあのネックレスを購入する。
沙織や薫にバレないよう、小さな箱をポケットの奥深くに隠し持った。
別荘へ戻ると、夕食前のひととき、それぞれが自室で休み始めた。浩紀はリビング横のテラスで、一人で涼んでいた杏奈を見つける。
「アン。これ、やるよ」
「えっ……?」
差し出された小さな箱を見て、杏奈は目を丸くした。震える手で蓋を開けると、そこには先ほど彼女が見つめていた、あの月のネックレスがあった。
「これ……さっきの……。いつの間に?」
「お前、ずっと見てただろ。……それにさ」
浩紀は少し照れくさそうに視線を逸らし、記憶の隅にある光景を口にした。
「昔、縁日の時にお前に渡した指輪……覚えてるか? ほら、『お嫁さんになってください』って言った時の。あれも、こんな月の形をしてただろ」
その言葉に、杏奈は息を呑んだ。
彼女が店先でこのネックレスに目を奪われたのは、ただデザインが気に入ったからではなかったのだ。自分でも気づかない心の奥底で、あの日、小さな手で浩紀から受け取った「最初の宝物」と、その時に交わした幼い誓いの面影を追っていた。
「……ありがと、ヒロ。大切にするね」
ふわりと咲いたのは、これまでの強気な彼女からは想像もつかない、少女のように無垢で、慈愛に満ちた笑顔。
学校でも、家でも、博康の前ですら見せたことのない、浩紀だけが引き出した「本当の笑顔」だった。
(……ああ。やっぱり、俺……)
自分の心臓が、耳元でうるさいほど鳴っているのがわかる。
沙織や薫を欺いて、二人きりの時間を作った。最低な男だという自覚はある。
それでも、夕闇に溶けゆく軽井沢の空の下、浩紀は改めて痛感していた。
あの日、三日月の下で誓った「お嫁さんになってください」という言葉は、今も、そしてこれからも、自分の真ん中に居座り続けているのだと。
だが、そんな二人の甘い空気を、テラスのカーテン越しに、静かに見つめる四つの瞳があることには、まだ気づいていなかった。
第12話を読んでいただき、ありがとうございます!
テニスでイライラしていた杏奈が、ヒロのサプライズで最高の笑顔に……!
書いている僕自身、あの笑顔が見られたことが何よりも嬉しいです。
そして、ラストの「4つの瞳」。
鋭い読者様なら、誰の視線かピンときましたよね?
次の話で、その正体とはっきりします……!
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