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【本編終了】『幼馴染の境界線 ―僕の祈りと、君の憧れ―』  作者: サッサン
第8章:絆の証明

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第8章 第七話:放課後デート、心寄り添って……

「……本当に、二人きりで良かったの?」


校門を抜けてしばらく歩いたところで、杏奈が少し不安そうに浩紀の顔を覗き込んだ。


「ああ。最近、三人で帰るのが当たり前になってたけど……やっぱり、アンと二人だけで話したいことがたくさんあったから」


浩紀がそう言って繋いだ手に力を込めると、杏奈はぱあっと花が咲いたような笑顔になり、「私も!」と弾んだ声で答えた。


二人が向かったのは、駅の裏手にある小さなレトロなカフェだった。

放課後の喧騒から離れたその場所には、穏やかなジャズが流れ、焙煎されたコーヒーの香りが満ちている。


「わあ、ここ、ずっと気になってたんだ!」


窓際の席に座り、運ばれてきた温かいココアを一口飲んで、杏奈がふぅと幸せそうに息を吐く。


「ヒロ、今日はなんだかいつもより優しいね」


「そうかな」


「うん。……なんだか、久しぶりに『私のヒロ』を独り占めできてる気がする」


杏奈の屈託のない言葉が、浩紀の胸をチクリと刺した。


(独り占め……。俺、アンを不安にさせてたんだな)


薫と一緒にいる時に感じていた、あの奇妙な「安らぎ」。

それを「アンの前では出せない自分を救ってくれるもの」だと思い込もうとしていた。

けれど、今こうして目の前で自分だけを見つめて笑う杏奈を見ていると、自分の欺瞞が浮き彫りになっていく。


「アン。俺さ……」


浩紀は、ココアから立ち上る湯気を見つめながら、ポツリと漏らした。


「……最近、少し格好つけすぎてたかもしれない。生徒会長として、アンの彼氏として、完璧でいなきゃって、勝手に自分を追い込んでた」


「ヒロ?」


「アンは魅力的だから、隣に立つには、誰からも文句を言われない『伝説の男』の弟で、完璧な王子様でいなきゃいけない……そう思わないと、怖かったんだ。でも、それが少しだけ、苦しくなる時があって」


ずっと誰にも言えなかった、薫にさえ「甘え」としてしか出せなかった本音。

それを口にした瞬間、カフェの静寂が浩紀を包み込む。

嫌われるかもしれない。情けないと思われるかもしれない。

そんな恐怖で指先が震えた。

しかし、杏奈は浩紀の震える手を、テーブルの上からそっと両手で包み込んだ。


「ヒロ……。あのね、私は『完璧な生徒会長』と付き合ってるわけじゃないんだよ?」


「え……」


「私が好きなのは、一緒に泥だらけになってテニスをしたヒロ。私のために一生懸命怒ったり笑ったりしてくれるヒロ。……ありのままのヒロも大好きだから、そんなに頑張りすぎなくていいんだよ?」


その言葉を聞いた途端、浩紀の心臓が大きく跳ねた。


「……っ」


浩紀は微笑みを浮かべようとしたが、視界が急激に滲んでいった。


「ヒロ……? どうしたの、急に泣いたりして……」


驚いて顔を覗き込む杏奈に、浩紀は涙を拭いもせず、震える声で胸の内をさらけ出した。


「……ごめん。俺、アンに幻滅されるのが怖くて、いつも気を張っていたのかも。アンにとっての理想の俺でいなきゃ、嫌われちゃうんじゃないかって……ずっと、怖かったんだ」


浩紀の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

それは「完璧な王子様」という仮面が剥がれ落ち、一人の少年としての素顔が露わになった瞬間だった。


「だから……今のアンの言葉を聞いて、すべてが許されたような気がして……。アンの前でも、弱音を吐いていいんだって思えたら、なんだか、止まらなくなっちゃって」


「ヒロ……」


杏奈は優しく目を細めると、浩紀の隣に移動して、泣きじゃくる浩紀を包み込むように抱きしめた。


「バカだなぁ、ヒロは。私がそんなことで幻滅するわけないじゃない。どんなにカッコ悪くても、弱くても、ヒロはヒロだよ。世界で一番、私の大切な人なんだから」


杏奈の温もりと、その絶対的な肯定。

薫が与えてくれた「お姉ちゃんには見せられない姿を許容する夜」など、もう必要なかった。

杏奈の愛は、浩紀が恐れていた「光」ではなく、彼の弱さまでを包み込む、温かく穏やかな海だったのだ。


「……アン、ありがとう。大好きだよ。本当に……」


「私も。私も大好きだよ、ヒロ」


幸せそうに笑う杏奈を、浩紀は壊さないように、けれど力強く抱きしめ返した。

もう、迷わない。もう、薫に逃げたりしない。

この温かさだけを、一生守り抜いていく。

夕闇が二人を包み込み、街灯がポツポツと灯り始める。

遠くで鳴る電車の音さえも、今の二人には祝福の鐘のように心地よく響いていた。

ただただ、穏やかで満たされた、二人だけの放課後が過ぎていく。


第8章第7話をお読みいただきありがとうございます。


今回のお話では浩紀が自分の弱さを杏奈に正直に話すことにより、杏奈がそんな浩紀を認めて、癒す工程を書いてみました。この二人の間を割くことは誰にもできないんじゃないかと思えてきますよね。

次話以降で二人の間に薫がどのような手を打ってくるのか……。明日以降をお楽しみに。


心を一つにできた浩紀と杏奈を祝福してくれる方は、ぜひブックマークと評価☆で応援してあげてください!応援すると作者が喜んで、その喜びが二人に還元されるかもしれません(笑)


明日も19時15分ごろに投稿する予定ですのでよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
   浩紀くん、やっと本音を吐露できたんですね! 私も泣いちゃいました(´;ω;`)
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