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EgoiStars:RⅡ‐3379‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3379年 <帝国標準日時 8月16日>
22/48

第16話『Love is blind』

【神栄教民主共和国 衛星ザルディアン 礼拝堂】


≪AM10:00≫


 そこはまるで劇場のようであり闘技場のようにも見える場所だった。半球体状の観覧席の中央には円形のステージがあり、観覧席にはザルディアン星の住民や駐留するザイアン隊の隊士達が並んでいる。その誰もがステージから目を逸らすことなく()()を今か今かと待ちわびていた。

 やがて上方から一つ時の光が差し込むと同時に、その中から一人の人物が姿を現した。その人物を目にした群衆の群れは誰一人声を発することなく、ただ黙って両膝を付き手を組んで首を垂れていく。数万人の崇拝を一身に受けるその男はステージ中央に立つと両手を広げながら口を開いた。


「今……久しく女神メーアの子たちに会えた事をボクは何よりも嬉しく思っとる。せやからどうか顔を上げて君たちの顔をしっかりと見せてくれへんやろうか?」


ステージに立つ男……神栄教教皇コウサ=タレーケンシ・ルネモルンがそう告げると、群衆は一人、また一人と頭を上げていく。やがて彼等の顔が見回せるようになってからコウサはニコリと微笑み、後頭部に彫られた蓮の花をペチペチと叩いた。


「こうやってザルディアンに来たんも久しぶりや。今日はここに来た理由は二つある。一つはみんなの顔を見たかったから。もう一つは話しておきたいことがあるからや。……今、このザルディアンには神栄教にとっての異端者がおる。分かるな? 神通力持ちや」


その言葉にある者は表情を曇らせ、またある者は戸惑った表情を浮かべる。そんな彼等の表情を見つめながらもコウサは微笑みを絶やす事は無かった。彼は両手を大きく広げて天を仰ぎながら話を続けた。


「女神メーアを滅ぼした神通力……それは神栄教にとっては悪魔の力や……せやけどな。僕はそれが事実だとして、どうして神通力持ちを責めるんやろうかと考えるんや。みんなが嫌うんは神通力持ちや無いセイマグル・ヴァレンタイン前法王の事もあるんやなかろうか? でもみんなも知っとる筈や。神栄教の精神は全てを受け入れる事にある。その全てっちゅうんは神通力持ちも当てはまるんとちゃうやろうか? もしかしたら前法王様は命を賭してその事を最後に僕に……いや、僕らに教えてくれたんやなかろうか?」


コウサが口にした名前にそれまで静寂に包まれていた観客席の一部にどよめきが走った。神通力を持つ異端者でありながら、それを隠して神栄教法王の座に就いていた狼藉者。セイマグル・ヴァレンタインの名は、一部神栄教信者にとって忌むべき名前として知られていたのだ。


「異端者を受け入れる? 女神メーアを殺した眷属やで?」


「しかし猊下が仰るならそれこそが心理とちゃうんか?」


群衆は投げかけられた問いを押し付け合うように視線を交わし合っている。若干のざわめきが広がる中、再び観客席に静寂をもたらしたのは意外な人物だった。


 観客席から一人のスコルヴィー星人の少女が飛び出してきた。あまりにも急な展開に群衆は再び戸惑いを見せるが、コウサは一人少女を受け入れるように微笑みかける。すると少女はコウサに駆け寄り、少し恥ずかしそうに手遊びをしながら何かを呟いた。


「何や? 言うてみぃ」


コウサはそう言って少女に目線を合わせるように屈み込むと、少女は緊張からくる恐怖心のせいか、その目を肌同様に真っ赤にしながらコウサの耳元で囁き始めた。

 不安気な少女は教皇に抱きつくように耳元で何かを囁いている。その光景は暫くの間続いた。やがて少女の言葉を受け取ったコウサは微笑んだまま少女の頭に手を置くと再び立ち上がった。


「みんなは女神メーアがどんな方やったか知っとるやろうか? ……この神栄教の寺院に残された文献によると、女神メーアは気は優しいけど自信が無うてあんまり目立つお方ではなかったそうや。せやけど知の賢者パネロ・デセンブル、武の賢者ザイアン・ユリウス、心の賢者シエル・セプテンベルに励まされ勇気を知った。そこから彼女の女神への道が始まったんや」


優しい口調でそう告げるコウサは再び少女に視線を送ると、少女の肩を抱いて群衆に向けて誇らしげに胸を張った。


「今、この子はまさに女神メーアと同じ道を進んでくれた。勇気を持ってボクに問いかけてくれたんや。サリュー……君がボクに聞いた質問をみんなにしてもええか?」


コウサは耳打ちされた時に聞いた名を呼びながら少女に微笑むと、彼女は赤い顔を益々紅潮させながら小さく頷く。サリューの承諾を得たコウサは再び声を高らかに口を開いた。


「サリューはレオンドラ星に住んどる時にひどい差別を受けたそうや。奴隷として迫害されとったスコルヴィー星への差別は今もそこはかとなく根付いとる。彼女の家族は軌跡先導法で弾かれて、惑星にも降りることはでけへんかった……生まれた星と軌跡先導法における差別で彼女たちの心は擦り切れとった。……彼女のお母はんはそれで苦労がたたって体を壊して亡くなったそうや……せやけど彼女はボクにこう聞いてきた。『私はママにもっと何か出来ることがあったんやなかろうか? ママは幸せやったんやろうか?』と……」


コウサはそう告げると目尻の涙を拭い再び両手を大きく広げる。そして言葉に力を込めて再び声を上げた。


「みんなにも聞きたい。死後も案じてくれる優しい娘を持って……お母はんは不幸やったやろうか?」


その問いに静寂の観客席は心が震えるような声が上がった。


「違う!」


「この小さな手でサリューがお母はんのためにやってきたことは足りんかったやろか?」


「違う!!」


「サリューはこれからもそんな後悔を背負って生きてかなあかんのやろか?」


「違う!!!!」


コウサの言葉を否定する観客の声は徐々に高まっていき、気付けばステージが震えるほどのうねりを上げていく。その響き渡る声にコウサはニコリと微笑むと、再びサリューを抱き寄せた。


「これが答えやで。お母はんは幸せやったんや……」


コウサの言葉にサリューは両手で顔を覆い涙を流した。

 美しい光景に群衆はホッとしたような温かい気持ちに溢れていた。その事を感じ取っていたコウサは両手を上げながら宣言した。


「女神メーアは……神栄教は全てを受け入れる勇気を持っとる! みんなもその気持だけは忘れんとってや」


彼の言葉に群衆は歓声を上げる。そしてコウサはサリューの手を引くとステージを後にしていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【神栄教民主共和国 衛星ザルディアン 礼拝堂 ステージ裏】


≪AM10:30≫


 大歓声のステージから戻ってきたコウサを見てメルティは優しく微笑む。そして彼が手を引いていたスコルヴィー星人の少女に歩み寄った。


「よぉやってくれたなぁ。百点満点や」


「はい。あの、これで、その」


「安心しぃ。お母さんはエエ病院に移したる」


「ありがとうございます!」


深々と頭を下げる少女にメルティは笑みを返すが、コウサは興味なさげにスタスタと廊下を歩いていった。

 少女の対応もそこそこにしてコウサを追ったメルティは彼の横に付くと優しく微笑んだ。


「お見事なもんでした。これで信者の異端者への偏見も少し減りますやろ」


メルティの言葉にコウサは足を止めることなく、正面を見据えたまま答えた。


「異端者への偏見をスコルヴィー星人への偏見にすげ替えたくらいで意識が変わるとは思えへんけどな」


「そうかもしれまへん。せやけど猊下も少しは効果があると思って道化を演じてくだはったんとちゃいますん?」


「異端者を受け入れるんはボクも反対せぇへん。せやけどキミが異端者を受け入れる理由とボクが受け入れる理由には齟齬があるやろ」


冷たい物言いのコウサにメルティはうっとりとした視線を向けた。三千年もの長きにわたって否定していた存在を受け入れるには時間がかかるのは目に見えている。だからこそ、メルティは多少荒療治でも、コウサに軽蔑されても、異端者を受け入れなければならないと思っていたのだ。


「流石は猊下でんなぁ……ウチの考えなんぞお見通しですか?」


「キミのやり方は昔のボクにそっくりや。それと同時にもう一つ分かるようになったこともある。ボクを止めようとしとったガーネット・フロー枢機卿の気持ちがな」


急に出てきた名前に先程までうっとりとしていたメルティの表情が僅かに歪む。そんなメルティを尻目にコウサは、辿り着いた控室で待機していた子供たちに声をかけた。


「シャオロン、リョクレイ。ザルディアンでの仕事は終わりや。すぐにジュラヴァナに降りるから着いてき」


コウサはそう言って休憩と言わんばかりに宙に浮かぶ椅子に腰を下ろす。すると双子の一人であるシャオロンが一歩前に出て膝をついた。


「教皇猊下、一つお願いがございます」


「ここでは父ちゃんでエエ」


堅物のシャオロンにコウサは父親らしい笑みを見せるが、シャオロンは剃り上げた頭を輝かせながら表情を歪ませることなく背筋を正した。


「では父上、お願いがあります。此度このザルディアンで新兵器の起動実験があると聞いとります。将来、ザイアン隊への入隊を希望する身として、見学していきたいんですが……」


「あぁ、俺も是非参加したいね。親父殿やお袋といるよりも叔父さんの仕事を手伝うほうが面白そうだ」


シャオロンの嘆願に同調するように問題児でもあるもう一人の息子、リョクレイが軽い態度で口を挟む。

 二人の顔を一瞥してからコウサは再び笑顔を作るとゆっくり頷いた。


「ええで。しっかり勉強してき」


「ありがとうございます!」


ようやく笑顔を作って頭を下げるシャオロンとは対象的にリョクレイはこちらの方を見向きもせず、早速この場から出ていこうと荷物をまとめ始めている。そんなリョクレイに対してコウサは冷たく言い放った。


「何しとる。ここに残るんはシャオロンだけや」


「は? な、何で!?」


怒りと戸惑いが入り交じる表情を浮かべるリョクレイに対して、コウサは父親の威厳を見せつけるかのように立ち上がり彼を見下ろした。


「当たり前やろ。シャオロンはやる事をやっとる。せやけどお前はどうや? 自分が思うように生きるんは構わへん。せやけど最近のお前は好き放題やり過ぎや。しばらくお母ちゃんのところで反省しい」


「知るか! 俺はここで!」


「俺はここで何や? 言うてみい」


コウサは一歩前に躍り出る。するとリョクレイは明らかに恐怖心を滲ませた表情で後退りしながら壁にもたれかかった。

 まだまだ子供のリョクレイなどコウサからすればその風格だけで圧倒することが出来た。それは決して越えられない親子の壁に近いものも含まれていたのかもしれない。


「話は終わりや。シャオロン、起動実験までは時間があるさかい。それまでは好きにするとエエ」


「はっ! 父上の名に泥を塗らぬ振る舞いを心がけます」


凛々しく応えるシャオロンにコウサは複雑な笑みを返す。そしてメルティに目をやると先程までの神妙な表情に切り替えた。


「ジュラヴァナに降りる。少し疲れたわ」


「はい。ですがその前に猊下にも起動前の新型を一度御覧いただきたいのですが……」


メルティの言葉にコウサはウンザリとした表情を浮かべてため息をつく。そして諦めたように立ち上がった。


「分かった。ほなさっさと行こか」


メルティの前を横切りコウサは今入ってきた控室を早くも退室していった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 コウサを見送ったシャオロンは頭を上げると、自らも控室からザイアン隊の控室に移動するため、荷物をまとめ始めた。

 これから起動実験を行う新兵器がBEであるということはメルティより聞かされていた。この神栄教に神通力持ちの異端者がいることは引っかかったが、それでもこの神栄教を守るためには毒をも食らう必要がある。そして事態はそれほど深刻なのだとシャオロンなりの理解を示していた。


「シャオロン」


背後からかけられた兄か弟かわからない存在にシャオロンは振り返ることなく言葉だけを返した。


「父上はお前に一緒にジュラヴァナに降りるよう命じたはずだ。さっさと行け」


「分かってる。でも一個頼みがあるんだよ」


頼みという珍しい言葉にシャオロンは振り返る。リョクレイは今まで見せたことのない少し弱々しい表情を浮かべていた。


「実は……人と会う約束をしてる。彼女に行けなくなったことを伝えてほしい」


「……彼女?」


その言葉とリョクレイの表情を見てシャオロンはすべてを察した。その()()なる存在こそがリョクレイを不真面目に誘う存在であると察したのだ。


「……いいだろう。待ち合わせ場所はどこだ?」


シャオロンはあっさりと了承する。それは普段から考えれば明らかに怪しい言動なのだが、リョクレイも切羽詰まっているのかその事に気付く余裕はなかった。


「(お前に繋がる不浄の道を断ち切る。全ては父上と母上の……ひいては神栄教、世界のためだ)」


シャオロンは心の中で総つぶやきながら珍しく感謝するリョクレイから待ち合わせ場所のデータを受け取った。

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