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EgoiStars:RⅡ‐3379‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3379年 <帝国標準日時 8月15日>
15/48

第9話『疑惑と再会』

毎週土曜日AM10:00に最新話を公開中

【星間連合帝国 衛星ジオルフ 帝国軍駐屯基地】


≪PM22:00≫


 一衛星の駐屯基地は基本的に簡素であるのが普通である。しかし帝国の総本山、帝星ラヴァナロスの最終防衛ラインである衛星ジオルフとなれば、その駐屯基地は例外であり、最新設備が整っていた。

 他衛星の駐屯基地とは比較にならない最新設備が整う基地内を歩きながら、エルディンは顔を顰めていた。駐屯基地に入るや否や「着いて来い」とだけ告げる若い帝国兵の態度もさることながら、案内された部屋が最新鋭の設備が整った基地内では異質とも言えるほどに小さな部屋だったからだ。

 まるで物置を改装したような部屋に通されて顔を顰めるのはエルディンだけでなくメアリーも同様だった。


「うっワ……何こコ。私、閉所恐怖症じゃけン、こがん狭か部屋無理」


「そお? あのクソ暑いガレージよかマシだわ。あ~涼しい」


怪訝な表情を浮かべるエルディンとメアリーとは違い、アークは飄々とした様子で入室していく。そして乱雑に置かれた椅子に腰を下ろして大きく背伸びをし始めた。寝る場所を選ばない彼にとって規模や古さはどうでもいいらしい。

 アークに続いてメアリーも渋々と逝った様子で入室して腰を下ろし、それに続いてリオ、最後にエルディンが部屋の中に入る。入室するやいなやリオはエルディンの前で立ち止まり、案内してきた帝国兵に敬礼して尋ねた。


「案内ご苦労さまです。それで? 任務内容については?」


「ここで待機していろ。質問は受け付けん」


帝国兵は無表情でそう告げると、踵を返し簡素な部屋から出ていこうとする。そのあまりに横柄な態度にエルディンは美しくも悪意に満ちた笑みを作って立ち塞がった。


「な、何だ貴様?」


その美形に圧倒されたのか若い帝国兵は少したじろぐ。しかしすぐさま威厳を取り戻したようにエルディンを睨みつけてきた。


「質問は受け付けん! 黙ってここで待て!」


「その腕章……曹長とお見受けする」


エルディンは薄い笑みを浮かべながら顎で帝国兵の左上腕部を指す。明らかな挑発行為に帝国兵は目を吊り上げながら声を荒げた。


「だからなんだ!」


「そこにいる僕らの監査役リオ・フェスタ嬢は予備少尉と聞いた。階級が上の人間に対して口の聞き方を知らないとは……フッ……帝国兵の品位もたかが知れていると思ってね」


エルディンの言葉に帝国兵は更に目を吊り上げる。そして軽蔑の眼差しでリオに一瞥をくれてから再び声を荒げた。


「貴様……帝国軍を嘲笑するつもりかっ! それ以上は憲兵部に報告する事になるぞ!!」


「嘲笑? 違うな。滑稽を通り越して哀れに思っているだけだ。そして僕はあくまでも君に言っている。背後をチラつかせて脅しのような言葉を使う時点で君の器の小ささを理解出来るよ」


「貴様っ!! 重犯罪歴を持つ下級帝国民の分際でぇっ!」


「ほう。差別俗語を使うとは、やはり品位に欠けるようだ」


エルディンは皮肉と減らず口を止めずに鼻を鳴らす。金属同士が衝突する「ガンッ!」という音が室内に響き渡った。


「ホントじゃネ。いくら事実でも悪意ば込めて言われるとムカつくもんじャ」


音の招待は椅子に腰を下ろすメアリーが義足である右足をテーブル上に乗せたものだった。その仕草と口調に怒りが籠もっているのは誰にでも理解が出来ただろう。しかし、誰よりも怒りを抱いているのはまた別の人物だった。


「……おい。お前、さっき何つった?」


その重い声に帝国兵は振り返ると、まるで口づけをするかのような距離にアークが立っていた。帝国兵は驚きのあまり声にならないような声を上げて後退りするが、アークはその胸ぐらを掴み距離を開けさせなかった。


「き、貴様! 軍に手を、が、ぐぁ……」


帝国兵は絞り出すように声を上げるが、胸ぐらをつかむアークの左(・)腕(・)が徐々に持ち上がっていった。

 宙ぶらりんになりながら両手でアークの腕を掴み呻き声を上げる帝国兵に対して、アークは普段は見せない冷たい目で言葉を連ねた。


「まーいいや。百歩譲って俺をどうこう言うのは許してやるよ。でもな。エル吉とメー子に舐めた口聞いたな。……ムカつくぞオメェ」


足をバタつかせながら声を出すことも出来ない帝国兵の身体から徐々に力が抜けていく。そしてその顔が赤から青に変わっていくと、リオが慌ててアークの右腕を掴んだ。


「ちょっと! それくらいにしときなよ! 死んじゃうでしょ!」


「別にいーでしょ。元々重犯罪歴持ちだし? 一人殺そうが二人殺そうが変わんないわ」


「いやいや! メガ変わるから! それにここでこれ以上騒ぎ起こしたら友達の二人にも迷惑がかかるでしょ!?」


「……あ、そっか」


アークはそう言ってあっさり手を離すと、帝国兵は咳き込みながら地面に倒れ込んだ。


「グハッ! げはっ! ……き゛、き゛さ゛ま゛ら゛……こ゛の゛よ゛う゛な゛ま゛ね゛を゛し゛て゛……!」


目に涙を浮かべながら掠れ切った声を振り絞る帝国兵は、咳き込みながらも何とか声を整えると怒りの言葉を連ねた。


「この件は憲兵部に報告させてもらう! 分かっているだろうな! タダではすまんぞ!」


「だって。やっぱりここで息の根を止めとこうか?」


エルディンとメアリーの方を見ていたアークはそう言って再び左腕を伸ばそうとすると、帝国兵は恐怖心を隠せずに「ひっ!」と情けない声を上げて尻もち状態になる。その様子を見ていたエルディンは仕方なく彼を諌めた。


「もういい」


エルディンの声にアークはピタリと動きを止めると振り返ってきた。


「何? あ、爆死にさせる?」


「そういう話じゃない。これ以上つまらない奴の相手をする方がデメリットが大きいと言ってるんだ。メアリーもそうだろう?」


エルディンがそう言ってメアリーに微笑むと、彼女は横柄に片足をテーブルに載せたままケラケラ笑った。


「キャキャキャ! 一番最初に喧嘩売ったんはエっちょんじゃろがイ。まぁウチはええヨ。アッちょんが充分怒ってくれたけン」


メアリーの言葉にアークは納得したように腕を下ろすと、エルディンは帝国兵を見下ろしながらほくそ笑んだ。


「君も哀れな男だな。僕等への最低限の礼節と上官への敬意を持っていればこのようなことにはならなかったのに」


エルディンはそう言ってリオに視線を投げると、帝国兵は何を思ったのか急に笑い出した。


「……ふ、ふははは! その女に敬意だと!? 知らんのか? その女は士官学校時代に!」


「そこまでだ」


帝国兵の言葉を遮るように小さな重い声が室内に響き渡る。その声は一瞬で室内にあった空気を変え、エルディンだけでなく室内にいた全員が声の先に視線を向けさせた。

 声の主であるエルディン達のボス、カンム・ユリウス・シーベルは長い銀髪を靡かせながら室内に足を踏み入れると、彼の後ろに続いていた多くの勲章を軍服から下げる将校が目を吊り上げた。


「バーネウス曹長! 貴様何をしている!」


「ロ、ロベルト・バーンズ少佐!」


バーネウスと呼ばれた帝国兵は慌てて立ち上がるが、ロベルトと呼ばれる帝国将校はその若々しい姿からは想像できないほどの威厳で彼に詰め寄った。


「この基地の所長であるエイデン大佐より、シャドー・ウルフズの方々は丁重に案内せよと指示があったはずだ!」


「し、しかしこの連中は!」


「貴様の意見など聞いていない! 下がれ! 処分は追って下す!」


バーネウスは悔しそうにエルディン達を睨みつける。そして歯を食いしばりながらも諦めたように少佐の方に向き直ると「失礼しました!」と敬礼をして室内から出ていった。

 ロベルトはカンムの方に向き直ると小さく頭を下げた。


「先輩、申し訳ないです。ああいった連中は厳しく指導しているのですが……」


「気にするな。後の手配を頼む」


「はっ! お任せください!」


ロベルトがそう言って敬礼するとカンムは苦笑を浮かべた。


「私はもう軍属ではない。敬礼はやめろ」


「いえ、自分にとっては先輩は先輩ですので。あぁ、君達もすまなかったな。こんな狭い部屋しか準備できなくて申し訳ないが、よろしく頼む。では先輩、失礼致します」


ロベルトはそう言ってカンムに再び敬礼すると、狭い室内を後にしていった。

 扉が閉ざされるとカンムは小さくため息を付き、四人のもとに歩み寄った。


「この短時間でよくもめ事を起こせるものだ」


その言葉を合図にエルディンを始めとした四人は再び腰を下ろす。するとメアリーは唇を尖らせた。


「そりゃあこれからゲームしよう思っちょったんに呼び出されたらイライラするバイ。今日はイベントでランク上げしやすかったんになァ」


「メアリーほど浅ましい予定ではないが同感だ。美女を置き去りにさせるという愚行を犯させないでほしかったね」


メアリーに続いてエルディンが苦言を呈すとアークもそれに続いた。


「俺も。これからそこのお姉さんと夜の運動会する予定だったのに」


「寝言は寝て言え」


アークの戯言にリオはしっかりとツッコミを入れる。するとカンムは変わらず普段から変わらない無表情のまま部屋の奥に立つとリオの方に視線を向けた。


「全員暇だったようで何よりだ。そしてまさか監視役はお前とはな……」


「うん……その、お久しぶりです」


顔見知りだったらしいカンムに対してリオは敬礼ではなく普通に頭を下げる。そんな彼女にカンムは珍しく小さな笑みを浮かべた。


「私以外は同世代ばかりだ。気兼ねなくやるといい。だが、ハメを外して無様なことになるのは避けるようにな」


どことなく優しい言葉を聞いて不審に思ったのか、メアリーはエルディンとアークの間に入って耳元で囁いてきた。


「(……何ね? エライ優しなイ?)」


「(大方、ボスの好みだったんじゃないか?)」


「(あー……あのおっさんロリコンだもん)」


三人は顔を顰めると、カンムが向き直って視線を投げてきた。


「お前たちの下劣な会話は聞き逃してやる。これから厄介事を任せるわけになるからな」


そう告げながらカンムが無慈悲な笑みを浮かべた。

 この短時間で普段感情をあまり表に出さない男の笑みを二度も見たとなれば、何かが起きるのではとエルディンは思っていた。そして彼にとって大事なのはそれが吉と凶のどちらかということだった。


「お前達四人でジュラヴァナ星の衛星ザルディアンに行ってもらう。仕事内容な神栄教の内部調査だ」


カンムの指示にメアリーは義手でこめかみの角を撫でながら頭頂部の耳を小さくはためかせた。


「内部調査っテ……そがん仕事なら私ば留守番でええじゃロ?」


「特殊なコードを使って事細かに報告をして貰う必要がある。しかも周囲に気付かれんようにな。そのような芸当を他の二人ができると思うか? 何より、この中で生身で一番実力があるのはお前だろう」


カンムの返答にメアリーは「ぐぬ」と言った表情を浮かべると、続いてエルディンが質問した。


「潜入捜査はいい。だが、それならもっと少人数に抑えるべきだと思うが?」


「四人は少数だ。無論、一流の人間がいればその者だけでいいが、お前達はまさか自分を一流と勘違いする無様な人間なのか?」


挑発的な言葉だがエルディンは返す言葉がない。カンムからすればエルディンを含めて全員がまだまだひよっこも同然だという事は彼自身も理解していた。彼は何だかんだで自分の実力を客観視する事は出来ていたのだ。


「行くのはいーけどお給金の方は? もう生活カツカツですよ?」


気怠そうにポケットに両手を突っ込みながらアークがそう告げるとカンムは不敵な笑みを浮かべた。


「安心しろ。半年は食っていける額が貰える。さらに捜査中の全経費も帝国が持つそうだ」


「マジ? 生活用品も買い溜めしといた方が良いんじゃね?」


「確かトイレットペーパーがきれそうじゃったわイ」


「随分と豪勢だな。ということは当然何かウラがあると考えるべきなのか?」


アークとメアリーの算段をよそにエルディンがそう告げるとカンムは頷いた。


「今回の件の最高責任者は将官クラスではない。アーリア=フィーネ・ガウネリン第一皇女殿下だ。我々の成果次第で殿下には皇帝に次ぐ独立執行権が与えられると聞いている。つまり皇族の地位向上を目的とした試験だと思えばいいだろう」


「……成程。大層な金が動くわけだ」


皇族の昇進試験……血統だけで大層な場所にいる人間を嫌うエルディンにとってそれは何物にも代えがたいウンザリとする裏事情だった。そんな彼の思いとは裏腹にカンムは仕事の話を続けた。


「任務の期間は二週間。だが神栄教が帝国に対して明確な反旗を掲げていることが証明できればそれで終わる。詳細は後でデータを送るので確認しておくように。ザルディアンまでの足は帝国軍が用意してくれる。また、新品の帝国軍専用BE(デュナメス)を一着支給してくれるそうだ。今、ミヤビがガレージでBEを組み立てているので、そちらを拾って今夜中に向かえ。以上だ」


「BE二着? ばってン、動かせるんはアッちょんだけじゃロ?」


メアリーが首を傾げるとカンムは顎でメアリーの前に座る少女を指した。


「リオが動かす。リオとアークは万が一のためにも連携などを確認しておけ」


カンムはあっさりそう告げるが、エルディンとメアリーは表情に小さな驚きを隠せずにリオに視線を投げた。


 BEの着用が可能であるというのは即ち神通力持ちであることを証明している。この海陽系において最大の宗教である神栄教内で神通力は女神を滅ぼした力と忌み嫌われているため、彼らは異端者として差別を受けることもあるのだ。事実、軌跡先導法においても神痛力持ちは混血人、犯罪歴程ではないが、一般人と比較してある程度の規制を受けているくらいだった。


「うん。これは運命だな」


驚く二人をよそにアークはケロッとした様子でそう告げると、いつもの調子で下品な笑みを浮かべた。


「俺ね。試してみたいことがあんのよ。BE同士で枕を交わすと」


「そぎゃんこと本人の許可無く言ってもええノ?」


アークのセクハラを遮るメアリーがそう告げるとカンムは少し呆れたように頷いた。


「当然だ。戦場になり得る場所に赴く以上、背中を預ける人間の情報はある程度知っておく必要がある。だが私から開示するのはあくまでも戦略的な必要事項だけだ」


質問したメアリーに回答する形になりながらも、カンムはリオの方を見ながらそう告げる。その言葉を噛みしめるようにリオは黙って頷いていた。

 カンムは表情を変えないまま再び全員を見回すと、仕事の話に戻って再び口を開いた。


「じきに送り届けてくれる戦艦が到着予定だ。必要なものは現地で調達しろ。送ってくれる船は帝国軍第十六船団第八宙艇、ラゴール艦だ」


「……第十六船団……第八宙艇……」


カンムの言葉にリオは復唱とは思えない小さな声で呟く。その様子を見ていたエルディンは益々彼女への不信感を強めた。

 先程の不遜な帝国兵バーネウスが言いそびれ、今しがたカンムが口をつぐんだリオの過去……それは彼らにとって無関係ではないと思えてならなかった。

次回

第10話『fight fire with fire』

2月4日(土)AM10:00

更新予定

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