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EgoiStars:RⅡ‐3379‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3379年 <帝国標準日時 8月15日>
14/48

第8話『三者三様』

毎週土曜日AM10:00に最新話を公開中

【星間連合帝国 惑星カルキノス ライオット・インダストリー社本社ビル 社長室】


≪PM20:38≫


 カルキノス星の夏はそれほど気温は上がることはなく、本来であれば比較的過ごしやすい星だったらしい。しかし工業惑星として発展したこの星の大気は汚染され、今では目まぐるしい程に平均気温が上昇している。しかし、この星に暮らす人にとって季節による環境の変化はそれほど意味をなさなかった。長年に渡って星の大気を汚染し続けた結果、遂にカルキノス星の屋外は人の住めない場所になり、現在は全ての住民が屋内に作られた都市で生活しているからだ。

 大気のない衛星や小惑星のように屋内に作られた街の中は、行き届いた空調によって過ごしやすい環境になっていた。そんな中でもカルキノスの象徴とも言える超高層ビルを本社とするライオット・インダストリー社の社内は最高の環境下と言えるだろう。しかし、その社長室は万人が満足する環境とは言い難かった。


「ふぃ~……(ジャネット君が嗅ぎつけてるか……まぁア(・)イ(・)ツ(・)に伝わるなら好都合かな……)」


冷房の効きすぎた極寒とも言える室内で、ライオット・インダストリー社代表取締役社長タクミ・マウントはランニングシャツで少し汗ばみながら息をつく。

 ウエストは2mを超えるであろう肥満体のタクミは、大きな身体を窮屈そうに動かしながら社長席に座り直すと、隣に立つライオットインダストリー社の技術顧問を務めるジョージュ・べべに対して少し申し訳無さそうに告げた。


「まるでヴェーエス星の冬山みたいだね」


夏場とは思えない厚着で立ち尽くすジョージュにそう告げてタクミは苦笑すると、その苦笑に合わせて彼の身体にまとわりつく贅肉がブルブルと揺れた。

 額の汗を拭うタクミとは対象的にジョージュは寒さに堪えるように身体を揺らし、両手に息を吐きかけ、頭頂部の耳をせわしなく動かしながら微笑んでみせてきた。


「はぁーっ……22年前が懐かしいですよ。あの頃は本物のヴェーエス星でBEを開発してたわけですからね」


レオンドラ訛りの殆どない彼が言葉を発すると同時に白い息が舞い上がる。そんな彼を気の毒に思いながらタクミは頭をポリポリと掻いた。


「君とは体感温度が少し違うみたいで申し訳ないよ。妻も娘もこの気温で半裸状態なんどけどね」


「構いませんよ。何より、社長直々の仕事依頼ですからね」


そう言って笑うジョージュにタクミは再び額の汗を拭って微笑んだ。


「頼んだよ。僕よりも君に提出してもらったほうが好印象なんだ」


「そうですか? たかだか技術顧問と社長では比べるまでもない権威の差があると思いますが?」


ジョージュは自嘲気味に苦笑するがタクミは小さく頭を振った。


「権威の話じゃないんだ。血統で社長にのし上がった人間ではなく、BEを生み出した人間が進化した現在のBE設計図を説明する。所謂演出というやつだよ」


「そのやり口、御母上だけでなくホーゲン中佐にそっくりですね」


ジョージュの言葉にタクミは思わず本音の笑みを浮かべる。それは彼にとって最大級の賛辞の他ならなかったからだ。

 時計の針が帝国標準時八時二十分を指したところでタクミは社長席の卓上にあるスイッチを押すと卓上に備わるセンサーが彼の身体をスキャンしていく。スキャンが完了すると同時に彼の眼前には二人のホログラムが浮かび上がった。


「どうもどうも」


完璧に作り上げた営業スマイルでタクミはそう告げると続け様に言葉を連ねた。


「トーマス・ティリオン丞相にメルティ・ルネモルン枢機卿。ご無沙汰しております。そしてお忙しいところ申し訳ございません」


目の前に浮かぶ二つのホログラム……世界最大の宗教、神栄教の枢機卿と帝国に反旗を翻す認否国家、フマーオス公国の宰相はタクミの笑みを無表情で受け止めていた。

 フマーオス公国丞相であるトーマスは早々に怪訝な表情を浮かべると開口一番に苦言を呈してきた。


『マウント社長。帝国は我が国と神栄教が繋がっているのではないかと疑っている。その状況下であまり簡単に呼び出すのは控えていただきたい』


「あれ? もう気付かれているんですか?」


タクミはトボけたようにそう尋ねると、メルティ・ルネモルン枢機卿が答えた。


『フマーオス公国からこちらへ発つ船が襲撃されたんどす。襲撃してきた一団に帝国国旗のようなもんはありまへんが、そないな事するんは帝国の差し金やと考えるのが普通とおましまへんか?』


「んー確かにそうですね。ですが帝国軍が動いたという連絡は受けていませんよ? あ! もしかしたら最近できた民間軍事組織が動いたのかもしれませんねぇ」


『民間組織程度の部隊が我が艦隊九割を壊滅させたというのか……』


タクミの推測……いや、すでに掴んでいた情報を開示されてトーマスは一層に怪訝な表情を浮かべる。そこにあるのは自国の国力を甘く見られていることに対する憤りも見え隠れしているが、タクミは柔和な笑みを崩すことなく頷いた。


「民間だろうと国家だろうと規模は関係ありませんよ。大事なのはそこにいる人材と、それを動かすトップですからね。皇宰戦争が良い例じゃないですか」


タクミがそう告げると、その言葉に訂正を求めるようにメルティが声を上げた。


『皇宰戦争で皇帝はんが勝利できたんは、ウチら神栄教とクリオス星、そしてあのローズマリー共和国を味方に引き入れた事が要因どす。その皇帝派が小規模やったと仰りはるんですか?』


揚げ足取りとも言える反論にもタクミは嫌な顔を見せない。どんな状況でも商(・)談(・)相(・)手(・)に自身の心情を読ませるのは得策ではないからである。


「いやぁ。私が申し上げているのは始まりの時点ですよ。皇帝派は元々皇帝と八賢者の九人で始まったんですからね」


『世間話はもういいでしょう。そろそろお話を進めていただきたい。我が国に有益な情報をもたらすとのことでしたが?』


不毛な会話を終わらせるようにトーマスがそう告げるとタクミは「そうですね」と頷いてみせ、メルティの方に身体を向けた。


「ルネモルン枢機卿。私がお話したかったのは主に貴女なんですよ。この度、我がライオット・インダストリー社で開発された新型BE、エネルゲイアの試作運用を神栄教のザイアン隊にお願いしたく思っていましてね」


『……何と?』


メルティは怪訝な表情を一層厳しくする。タクミは表情を変えることなく微笑んだままチラリとトーマスに視線を投げると、彼は戸惑った表情を浮かべていた。


『マウント社長、それは内密にし我軍に提供してくれるよう依頼していたはずだが?』


トーマスは苦情のような言葉を告げるが、その表情は険しいと言うよりも明らかに多くの疑問を感じているように戸惑いを見せている。そして続けざまに言葉を並べ始めた。


『何より、BEの着用と操作には神痛力持ち……即ち神栄教で毛嫌いされている異端者でなればならないという条件がある。神栄教の総本山であるジュラヴァナ星にそのような人物がいる筈はないだろう?』


彼の最初の疑問にタクミは微笑んでいると、メルティは割って入るように重い口を開いてきた。


『……何を知っとりますん?』


その牽制とも直球とも取れる問に対してもタクミは表情を崩さない。そしてワザとらしくウッカリしたような表情を浮かべて口を開いた。


「あぁ! 確かにそうでしたねぇ! 女神メーアを滅ぼしたという神痛力を持つ人間がジュラヴァナにいるはずないか。まぁ枢機卿。でもこの通りすでにアイゴティヤ星の支社から送られてるんですよ。もう止めようもないんで、エネルゲイアはそのまま守り神として飾っておいてください。テストはこちらで行いますから。それが済み次第、すぐに量産体制に入ると思うんですけどね」


『そちらで量産体制に入るものを事前にくださる……そちらさんに何の特がありますん?』


トボケながらそう告げるタクミの言葉は支離滅裂にしか聞こえないだろう。当然それは彼自身が最も理解している。しかし彼はもっともらしい口調で口実を並べた。


「私は政治屋じゃありません。商人ですからね。多少なりとも神様に対して繁盛をお願いしたいんですよ。何より天下の神栄教に認知されてるとなればウチとしても大きな宣伝になるじゃあないですか」


『社長、だがBEという第一級の戦闘兵器を他惑星に送るなど……帝国側にしれたら大事になるのでは?』


トーマスの牽制にもタクミは笑みを絶やさなかった。


「何故です? 神栄教民主共和国と名乗っていますが立場は帝国の属国です。何よりコウサ=タレーケンシ・ルネモルン猊下とダンジョウ=クロウ・ガウネリン皇帝陛下は共に皇宰戦を戦い抜いた盟友じゃないですか。その盟友の星に新型を守り神としてお送りする。何かおかしいですか?」


『皇帝だけではない。あの鉄(・)の(・)処(・)女(・)がそのようなこと許すと?』


トーマスの問い詰めにタクミは更に微笑む。


「エリーゼ・ラフォーレ宰相ですか。彼女は何か言ってくるかもしれませんね。ですが陛下は必ず僕を守ってくれます。何せ僕と陛下は幼少期から続く無二の親友ですから。そして彼がそういう人物であると僕が誰よりも知っていますからね」


タクミは自信有り気に微笑む。その紛れもない事実であるカードを真正面から切られると何も言い返すことは出来ないだろう。トーマスは一先ずそちらは納得したのか、もう一つの疑問を投げかけてきた。


『まぁいいでしょう。どの道、その件は我が国には関係のないことですしね。それで? 我が国への有益な情報というのを聞かせてもらいたい』


帝国内の問題に首を突っ込むのは得策ではないと踏んだのだろう。トーマスはそう言ってあっさりと引き下がると、タクミは変わらない笑みを彼に向け続けた。


「まぁお待ち下さい。まだ枢機卿へのお話は終わっていません。この契約の中に丞相へのメリットがあるんですからね」


タクミはそう前置きすると未だ怪訝な表情を浮かべるメルティに向かって話を続けた。


「ルネモルン枢機卿。試作と宣伝はこちらが神栄教にお願いする立場です。つまり依頼する以上、神栄教さんには見返りをお渡ししないといけません。そこで彼に来てもらっています」


タクミはそう言って満を持して隣に立っていたジョージュの姿を二人に送ると、メルティとトーマスは益々疑惑の表情を曇らせた。


「はじめまして。ライオット・インダストリー社技術顧問ジョージュ・ペペです」


体を震わせながら頭を下げるジョージュを見てメルティはすぐさまタクミの方に視線を戻してきた。


『ジョージュ……ペペ……? 確か最初期のBE開発に携わった人物と聞いとります』


『そうか……貴方があの時ヴェーエスにいたというBE開発者か』


メルティに続いて思い出したようにそう告げるトーマスの言葉にジョージュは首を傾げると思い出したように頷いた。


「ああ! ホーゲン中佐が最初のBEのテストを行っていた時の話ですね。そうです。大変だったんでっすよ。今は亡き“宰相派の悪魔”ことクヌカ・バーンズ中尉に襲撃されましてね。と言ってもホーゲン中佐と旧知だったそうで見逃してもらえましたけど」


『昔話は結構、そんな貴方が何を?』


話が長くなりそうだと察したのかトーマスは一気に距離を開けるような言葉を告げると、ジョージュホログラム越しながらその空気を察したのか自重した。


「失礼しました。社長に言われまして……ゴホン」


ジョージュはそこで一つ咳払いを入れる。そしてタクミの方に目配せとも言える視線を投げかけてきた。その視線に気付いたタクミは彼が自身の目論見に気付いていることを察し、始めて表情を変えそうになる。……が、ジョージュは気にせず話し始めた。


「見返りとしてご用意したのはこちらの新型BEエネルゲイアの設計図です。ご使用の際は整備等に活用できましょう。そしてこちらの設計図ですが、お渡ししてからはどのようにでも活用されても構いません」


『ど(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)で(・)も(・)?』


眉を顰めるメルティにジョージュは大きく頷いた。


「ええ、お渡しする以上、こちらは神栄教ザイアン隊の物です。お好きなようにご活用ください」


彼の言葉にメルティは視線を移す。その先にいたのはタクミではなくトーマスの方だった。

 静寂が広がる中、タクミは小さく手を叩いてから口を開いた。


「さ、お話は以上です。どうですティリオン丞相。有益なお話だったでしょう?」


タクミはそう言ってトーマスに微笑みかける。トーマスは怪訝な表情を浮かべたまま、大きな瞳を細めている。そして決断したように微笑みながら頷いた。


『感謝します。我が君もきっとお喜びになるでしょう』


「それは良かった。枢機卿、ではエネルゲイアはお好きにご活用を」


タクミは変わらない柔和な笑みでそう告げるが、メルティは厳しい表情のまま彼を見つめ返していた。


『……分かりまへんな……社長はんがどないしてこんな事をするのか』


「全ては我社のためです。そこには国も何もありませんよ」


タクミは自信有り気にそう告げる。「これで今回の議題は終わりだな」タクミはそう思い少し油断したのを後悔した。

 言いたいことを終えたタクミだったが、トーマスが話を終わらせなかった。彼は徐にタクミに向かって薄い笑みを浮かべながらある提案をしてきたのだ。


『マウント社長。実に有意義なお話だが、施されてばかりでは我が国の名が折れる。そこで一つこちらからも提供したいものがある。そちらを是非御社に協力していただきたいのだが』


「ほう? 何でしょう?」


タクミは努めて笑顔で振り返る。するとホログラムのとして浮かび上がるトーマスは手を動かし、タクミに向かってあるデータを投げてきた。

 タクミはデータを受け取ると、そのフォルダを卓上に浮かび上がらせる。そしてプレゼントを前にした子供を演じるような笑みで尋ねた。


「こちらは?」


『まずは中を見ていただきたい』


タクミは言われるがままフォルダを開くと、中に収まっていたデータが卓上に幾層も広がっていく。そしてそのデータの内容を確認した瞬間、タクミは初めて表情を歪めて眉間にシワを寄せた。


「……これは……」


『さすがマウント社長。ひと目見て何かご理解いただけたようですね。BEサイズに縮小した長距離兵器……超電磁砲(レールガン)の小型化理論の実証図です』


トーマスの言葉にタクミは小さく息を呑んだ。

 ライオット・インダストリー社は帝国最高の技術を持つ超巨大企業である。その彼らを持ってしても、レールガンの小型化計画は頓挫していた。それを技術力で劣るはずのフマーオス星が見せてくる……そしてそれだけではない。それだけの技術力をこうも簡単に明らかにすることは更なるカードを持っているのではないかという不安をタクミに与えたのだ。


「(何より……フマーオス人がこんな技術を開発できる訳がない……となればフマーオスにはかなり優秀な人材がいることになる……まさか……)」


タクミの脳裏に栗色のお下げの童女の姿が浮かび上がる。先ほどと一転して険しい表情を浮かべるタクミとは対象的にトーマスは薄い笑みを保ったままタクミを見下ろしていた。

1月29日(土)AM10:00


第9話『疑惑と再会』


更新予定

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