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幕間『頼み』

 夏休みに向けて職員室では教師が忙しそうに動き回っている。

 夏休みは長期休暇である。それは、学生たちの言い分かもしれないが、教師には夏休みなどいうものは存在しない。

 夏休み中もいつもどおり、いや、単位が危ない生徒に向けて教鞭を取ったり、生徒全体に向けての講習を用意したり、受験を控える者に限っては進路相談などなどそれ以上の激務が待っている。

 なので、皆忙しそうにしているのだが……。


 職員室にある仕切りに遮られた部屋で私、秋月 渦根(あきづきうずね)は携帯を片手に窓枠へ身体を預けながら連絡を取っていた。相手は白鷺高校フライング部の部長。

 私の机にもまだ手が付けられていない書類が山のように積もっているが、まぁいい……。後輩の教師にでもやらせよう。

 と、話が途中だったのを思い出した。意識を電話に戻す。

「ええ、おかげさまでうちも部員が増えまして。名門、白鷺(しらさぎ)高校の胸をお借りしたいと思いまして」

『秋月先生の頼みなら喜んでお受けします。ぜひ、うちの部員にも指導してやって下さい』

 電話越しの相手は私の頼みならと二つ返事で了承してくれた。

「それと、今回は一ノ瀬の生徒だけじゃなく他学校の生徒も合宿に参加させたいと思ってるんだが、大丈夫だろうか」

「……というと、遠方の高校ですか?」

 数秒の沈黙の後、質問が返ってくる。私はその答えに首を振る。

「鳶沢女学園という場所はお前も聞いたことぐらいはあるだろう。そこの子たちも合宿に参加させたいと思っていてな。練習メニューについては大丈夫だから気にしなくて良い。そこでコーチをしている夕凪に組ませまるからな」

『夕凪君が……それは楽しみですね』

 渚の名前を出した瞬間、相手の声に驚きと期待のような色が混じったのを感じる。

 こいつが感情を表に出すのは珍しい。

「では、月末によろしく頼む」

 そう言い残して私は通話を切る。

 ふぅと思わず椅子に身体を預けるとため息を吐いた。

 そのまま、ぼやけた天井を見つめる。

「まったく、世話が焼ける教え子を持つと辛いものだな……」

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