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十章『初めの事件』

 初めの事件は週末に入る前の金曜日に起きた。

 週明けから夏休みに入るため、終業式も無事終わり教室に戻ってきた直後。

「ねぇ、渚くん。聞いたよ聞いたよー?」

「聞いたって何を?」

 まどかが俺の机に手をつきながら水を得た魚のごとく活き活きとした様子で聞いてくる。

「この前、うちの生徒がショッピングモールで買い物してたんだけどさ。そこに小学生ぐらいの二人の幼じーー女の子と一緒に渚くんが穹戯専門店に入っていくのを見たって言ってたんだけど、実際のところどうなの?」

「なっ……!?」

 思わず言葉に詰まる。

 まさか、うちの生徒に見られていたなんて思ってもいなかった。

 よく考えてみればあの容姿の少女を二人も連れていれば目を引くのは当たり前だ。

 偶に周りからちらちら視線を向けられていたことは薄々感じてはいたが、ここに来てそこまで考えが至っていなかったことに後悔する。

「いや、そのだな……」

 どう答えるべきか迷っているとーー

「なーに、話してんのぉ?」

 そこに今一番来て欲しくない奴が電撃参戦。

 まどかは岬に顔を近づけると、

「あっ、岬。それがね、うちの生徒がこの前ショッピングモールで小学生を連れた渚くんを見たらしくて」

 近所にいる世間話大好きおばさんみたいにこそこそと耳打ちする。

 岬が意外そうな視線を向けた。

「あれ? 渚って、穹戯やめたんじゃなかったっけ?」

「そうだったんだけどな……」

「もしかして、その小学生に教えて下さいって頼まれたの?」

「似てるけど、ちょっと違うと言うか……」

 曖昧な返答しか返ってこない俺に岬は疑わしげに目を細める。

「もしかして、渚ってロリコン?」

「……いや、違うから!」

 話がややこしい方向に逸れそうになったので俺は諦めて大体の事情を二人に説明する。

「なるほど、それでコーチを頼まれる事になったと」

 まどかがうんうんと頷いている。

「分かってくれたか」

「そうだね、つまり……」

 同じく頷いていた岬がいっそ感心するように頷きながら冷ややかな視線を俺の方を見つめてくる。

「渚は小さければなんでもいいんだ? 誰でもいいんだ? やっぱロリコンじゃん」

 おい待て。なんでそうなる? お前、俺の話をちゃんと聞いてたか? 聞いてたならそんな感想一ミリだってないはずだが?

「だってねぇ?」

 困ったようなまどかが岬と視線を交わす。

「私たちの誘いは断っておいて、小学生の面倒は見るんでしょ?」

「だから、それとこれとは事情が違うというか……」

「まあ、それは分かってるんだけどねぇ。でも納得は出来ないって言うか……」

「なら、こうしない!?」

 まどかは何か良いことを思いついたように手を叩いてみせたが、嫌な予感しかしない。

「毎年夏休みにうちの部で合宿に行くんだけどさ。その合宿にその子たちも参加させるってのはどうかな?」

「おい、高校生の練習に小学生を参加させるのはやばいだろ」

 高校生と小学生では第一、中学生と小学生以前に身体の作りが大きく異なる。同じ練習メニューでは体力がついてきたとはいえ到底こなせるわけがない。

「もちろん同じメニューをそのままやらせるわけにはいかないよ。そこは渚くんのコーチとしての力の見せ所ってわけ」

「つまり、俺に小学生に合った練習メニューを組めというわけか」

「ビンゴ!」

 まどかはパチンと指を鳴らして俺の顔を指差す。

「だが、それならお前らが受けるメリットがない」

「そこは、渚が私たちの指導を余った時間にしてくれるってことでいいんじゃない?」

「それでいいのか? 時間はあまり取れないと思うが」

「いいのいいの。それに今回の合宿はちょーっと事情が違うんだよねえ」

「?」

 何か含んだような言い方だ。

「おい、それってどういうーー」

「そこは秋月先生に聞くのがいいんじゃないかな」

 俺の言葉を遮ってまどかが露骨に視線を逸らす。

「……分かったよ」

 俺はため息を吐く。

 多分この件についても秋月先生が大きく関わっているということだけは確かだった。

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