第六章 15 夜の森でそれから
15 夜の森でそれから
「よくやったな」
地面に落ちたペンライトを拾う私に、ノアタムが近づいてくる。
「暗くてもザーコウオ一匹だもん、負ける気はしなかったよ。体当たりもそこまで痛くないしね」
「だが、敵が複数だったらどうする? 倒すのに手間取り、攻撃を受け続ければ、蓄積したダメージが命取りになるぞ」
「確かにねえ……。それに今はペンライトを落とすだけで済んだけど、これ壊されたらやばいよね。森から出られなくなっちゃう。とりあえず、トイレのとこまで行こうかな」
森の中は完全に夜になっていた。だが、私は森の外周近くまで来ていた。少し先に木々の茂みの途切れ目と、箱形の建物があるのが見える。私はそこを目指して泳いだ。
木々の茂みの外は、平原が広がっている。
上空には星はないが、月は光っている。今日は十七日。十五日が満月なので、まだかなり円に近い。
平原の先には、小さな光が集まっているのも見える。ホクトの町の明かりだ。
「ここまで来れば一安心っと。とりあえず回復魔法掛けとくか」
ザーコウオの体当たりは大した痛みではないが、ダメージはダメージだ。治すに越したことはない。
「傷よ……癒えよ」
私の体から打撲の痛みが消えていった。
「そうして自身の怪我を癒やすのも慣れてきたな。最初は大騒ぎしていたものだが」
「あのときは流血沙汰だったしさー」
ノアタムに言われ、私は思い出す。この世界に来て二日目、タヴィデの町の近くの林で、キヴァーヲに噛まれて大騒ぎしたことを。そして、通りすがりの魔物狩り屋に回復してもらったことを。
「そういえば、この町にも魔物狩り屋はいるはずだけど、森では見かけないね」
宿屋や食堂で、それらしい服装の人々は見かける。だが、森の中で出会ったことはなかった。
「ホクトの町は西にも東にも森があるからな。森もタヴィデ近くの林より大きい。シンと行動範囲が重ならなかったのだろう」
「そっか。まあ、他の人がいるとあんたと話せないし、会えなくてもいいけど。
……じゃ、後一匹ぐらい魔物を倒して帰ろうかな」
私はトイレの周りで魔物を探した。ペンライトはさっきのように腰にはさんだが、さっきと違って森の外にいるので、木陰が少ない。魔物の気配に注意していれば、いきなり攻撃を受けることはないだろう。
そう思って魔物を探したが、魔物の気配は感じられなかった。
「出て欲しいときに限って出てこないなあ……」
「常に都合良く魔物と遭遇できるとは限らん。むしろ、魔物は人魚を襲って暴れ回りたいのだから、シンにとって有利な場所は、魔物の出にくい場所なのだ」
「そうだけどー、ザーコウオぐらいは出たりするじゃん」
森の外周ではそんなに魔物と遭遇しないから、いつも森の奥へ行くのだ。それはわかっているが、町に帰る前にもう一匹ぐらい倒したい。
私はしばらくトイレの周りを泳いだが、魔物は現れなかった。
「ここで粘ってても駄目かなあ。とりあえず、エンフィ水の値段分は回収できたよね」
私は胸元の蓄光石を取り出して眺める。輝きは銀色だが、5,000テニエルを越えないと金色にならないのだから、さすがにそこまで稼ぐのは難しいだろう。
エンフィ水を飲んでから、ハリャマーとザーコウオを倒した。二匹で約110テニエルだから、エンフィ水の100テニエルよりは多い。
「ここで魔物が出なくても、町までの帰路で魔物と遭遇する可能性もあるぞ」
「あ、そうなの? じゃあ余力のあるうちに帰るか」
私はホクトの町に向けて泳ぎだした。




