第六章 14 夜の森
14 夜の森
夜の森は昼の姿とは異なっていた。木々や海藻の間を出入りするのも、昼に見かける魚とは違っていた。夜行性の魚が動き出したのだろう。私の明かりに照らされると、夜行性の魚はびっくりしたように物陰に隠れる。
「森の外側はこっちで合ってるはず……」
私はつぶやきながらゆっくり泳ぐ。生えている植物の形は変わらないのに、辺りが暗くなっただけで、別の森に来たみたいだ。
それでも、ここ数日で何度も通った西の森だ。ペンライトの明かりもある。私は前方に、公衆トイレらしき建物を確認した。
「よし、もうちょっとだ」
私は安心した。迷わずにここまで来られた。あとは、何匹か魔物を倒したら町に帰るだけだ。
そう思っていたとき、私は脇腹に衝撃を感じた。
「あいてっ!」
そちらを見ると、私の腹に体当たりしたザーコウオが泳ぎ去るところだった。
「油断しているからだ。辺りが暗いのだから、昼間以上に周りに気をつけておらねば」
近くでノアタムの声がする。
「わかってるよ!」
私はノアタムを見ずに返事をし、ナイフを抜く。ザーコウオの姿を目で追うが、暗闇に紛れて見えなくなってしまった。
「どこ行った……」
私はナイフを構えたまま辺りを見回す。ペンライトの光は私の周辺を照らしてはいるが、夜の森はそれ以上に闇が多い。
やがて、木陰からザーコウオが飛び出してきた。今度はその突進を避けることができた。だが、昼間よりは反応が遅れたため、私の反撃はザーコウオに当たらなかった。
「ペンライト程度じゃ辺りがそんなに見えない……。
……あれ? でも、私は光ってるからザーコウオから丸見えじゃん!? 私だけが不利じゃあ!?」
「ようやくそれに気づいたか」
近くでノアタムの声がする。
「夜の魔物狩りは難易度が高いものなのだ」
少し離れたところに、ペンライトの明かりに照らされたノアタムの顔が見えた。魚なのに溜息でもついていそうな顔だ。
「ああもう、身に染みてわかったよ! でも、所詮はザーコウオだもんね! 暗くたってそれぐらい倒せる……」
そこまで言ったところで、私は背中にザーコウオの突進を受けた。のけぞった拍子に、ウエストにはさんでいたペンライトが落ちた。
「ほら、油断しているから……」
ノアタムの声が聞こえるが、ノアタムに反応するよりザーコウオに反撃する方が先だ。私はナイフを振り下ろすが、また空振りだった。
私の体から離れたペンライトは、ゆっくりと地面に落ちた。そこから森の中を淡く照らす。
「いっそこの方がいいかも……。これで見つけやすさは同じになったもんね!」
私はナイフを構え、ザーコウオを探す。光源が私から離れたので、条件は同じになったはずだ。
そう思い、ナイフを構えながら辺りを見回したが、また背後から体当たりを受けた。私はすぐに反撃するが、ナイフはザーコウオをわずかにかすめただけだった。
確かに明るさの点では境遇が同じになったが、私の方が的が大きいので、攻撃を受けやすいのだろう。
……でも、相手の方が小さいんだから、ナイフさえ当たればすぐに倒せる!
私は神経を研ぎ澄まし、ザーコウオの気配を探った。
ペンライトのわずかな光に照らされた、夜の森。夜行性の魚達は我々の戦闘で身を潜めているのだろう、姿が見えない。木々の枝や海藻だけが静かに揺れている。
目で探すだけじゃない。魔物が出るときの、ざわっとした感じ。あれを探すんだ。
油断して泳いでいると気づかないが、注意して泳いでいると感じる、あの気配。
魔物の気配は、植物や普通の魚とは違う。人魚に対する敵意のかたまり。それを、一番近くにいる私にぶつけてくる……。
「そこだっ!」
ザーコウオが突進してくる。だが私もそれに気づいている。ザーコウオの体当たりよりも早く、私はナイフを振り下ろした。
ザーコウオは真っ二つに切り裂かれ、光となって私の蓄光石に吸い込まれていった。
「やったあ!」




