第六章 06 もう少し森の奥へ
06 もう少し森の奥へ
腹ごしらえをすませ、トイレにも行ってすっきりした。これで森の奥に進む準備は万全だ。
私は森の外周から、少しずつ内側へと入っていった。
辺りを見回しながら、樹木と海藻の中を泳ぐ。やがて茂みの先に、魔物の気配を感じた。
「あれは……」
私はナイフを抜き、構える。そこにいたのはハリーギョでもザーコウオでもなかった。
「ハリセンボン? でも違う……」
その魚は、全身からとげをはやしていた。ハリセンボンに似ているが、あの魚は目も体も丸っこく、愛嬌があった。目の前の魚は、冷たい目をし、私に対する憎悪だけを膨らませていた。
「凶魚の一種、ハリャマーだな」
「はりゃまー? ありゃまあみたいな……。ん……? はりやま……針山ってこと? 裁縫の? この世界にも針山ってあるの?」
「町にはさまざまな布製品が売られているだろう。それはつまり、裁縫をしてそれらを作った人魚達がいることを意味する。当然、針山ぐらいある……、いや、ネーミングなど気にするな」
ノアタムがごちゃごちゃ言っている間に、ハリャマーはこちらに向かってきた。
私はその突進をよけ、ナイフで反撃した。
ハリャマーの攻撃も、ハリーギョやザーコウオと同じく、全身で突進してくるタイプのようだ。とげとげした体がぶつかると痛そうだが、全体的に丸っこい魚のため、動きは素早くない。私はハリャマーの動きをよく見て攻撃をよけ、ナイフで反撃するのを繰り返した。
やがて、私は無傷でハリャマーを倒すことに成功した。ハリャマーだったものが光になって私の蓄光石に吸い込まれていく。
「やった、倒せた!」
私は辺りを見回し、他に魔物がいないか確かめてから、戦闘態勢を解いた。蓄光石を見るが、輝きはまだ銅の色だった。
「まだこんなもんか。でも針が多い分、ハリーギョよりは高そうだよね」
「さっきよりは森の内側に来ているからな。魔物も少しは強くなっているだろう」
「よし、もうちょっとこの辺で魔物を探すぞ」
私は辺りを警戒しながら森の中を泳いでいった。
やがて、ハリャマーとハリーギョの二匹と遭遇した。一対二なのでハリャマーの体当たりをかわしきれず、ダメージを受けた。だが、ひっかき傷程度の痛みだ。私はさっきハリーギョ二匹を倒したときと同じように、落ち着いて二匹を倒し、それから回復魔法を掛けた。
昼食は食べたが、おやつの砂糖ギーム焼きは残してある。休憩してそれを食べ、私はまた魔物を探した。
その辺りには、ハリャマー、ハリーギョ、ザーコウオが出た。久しぶりの魔物狩りだし、これ以上森に深く入って大怪我をするのは避けたかったので、無茶はしなかった。
「蓄光石も銀色になったし、そろそろ町に帰ろうかな。明日も魔物狩りするし」
オーレの町の祭りは五月からだ。まだ一ヶ月以上ある。ホクトの町を拠点にしばらく魔物狩りをしても充分間に合う。
「いつまで戦うかはシンが自由に判断すれば良い。お前は魔物狩り屋なのだからな」
「じゃ、今日はこの辺にして、町に帰って、鑑定屋に寄ろう」
私は森の外側に向けて泳ぎだした。そこまで深入りはしていないので、すぐに木々の茂みから抜ける。平原を照らす日光はまだ赤くなかった。だが空を見上げれば、太陽はかなり西に傾いてきている。もうすぐ夕方だ。
私は町に向けて泳いだ。少し離れたところに、魚の群れがいた。サンマのように細い魚が、集団で泳いでいる。
「あ、あれ! 昼にあんたが言ってたよね。この辺には細い魚が多いから、魔物がハリーギョみたいな細い姿になるんだろうって」
「そうだな。ホクトの町の人魚達には、あの魚がなじみ深いのだろう」
「あの魚、夕飯とかに出てくるかな?」
「どうだろうな。食用には不向きな魚かもしれん。食用になるとしても、町の人魚の毎日の食事となると、かなりの量だ。あの程度の群れでは取り尽くしてしまう。個人が少量を捕まえて自宅で調理するならともかく、旅の魔物狩り屋向けの飲食店では、養殖の魚を大量に仕入れているのではないかな」
「そっかあ。確かにね」
そんな話をしながら、私はホクトの町に戻った。




