第六章 05 ノアタムアのリサイクルの仕組み
05 ノアタムアのリサイクルの仕組み
森の奥に進む前に、昼食を取ることにした。木の根元に座り、エビのはさみパンと瓶詰めのジュースを空にする。
はさみパンの包み紙や、空き瓶、コルクの栓は持ち帰る。町の飲食店に、『回収箱(瓶)』『回収箱(栓)』や、『燃えるゴミ』の箱があるからだ。
「こういうゴミ、全然ポイ捨てされてるとこ見ないねえ」
私は包み紙を腰のポーチにしまいながらノアタムに言った。ノアタムは食事の必要はないので、私が食べ終わるまで、いつも横で三脚魚の姿勢で立っている。
「包み紙は落ちたとしてもいずれ分解されていくし、瓶や栓は、再利用を行っている施設に持ち込めば少しは金になるからな」
「ああ、リサイクルの仕組みがノアタムアにはあるって言ってたよね」
「うむ。どの町にもゴミ処理施設がある。
最初に公衆トイレの説明をしたときに少し話をしたな。トイレの汚水は、『分離浄の魔法』でヘドロと浄化された水に分ける。『ヘドロ浄化の魔法』でヘドロを消し去る、と」
「うん、トイレの中にある、最後に手を拭う消毒液も、『ヘドロ浄化の魔法』を薄めた奴なんだよね。清潔でいいよね」
「そう、あの消毒液は『希薄ヘドロ浄化液』と言う。わずかな汚れや悪臭を浄化する精霊のアイテムだ。
ゴミ処理施設では、燃えるゴミを集めて火の魔法を使い、ヘドロ状になった燃えかすを『ヘドロ浄化の魔法』で浄化する。
瓶や栓は『希薄ヘドロ浄化液』で洗浄し、再利用できるようにする」
「ただの水洗いじゃなくて、精霊の力で汚れを浄化してあるの、いいよね。口を付けて飲むんだし」
今度は空き瓶をポーチにしまいながら私は言った。
「あっでも、瓶が割れちゃったらどうするの? 水中だから手が滑ってもゆっくり落ちていくけど、落とす以外にも割れる原因ってあるでしょ」
「割れた瓶はガラス加工の施設に持ち込めば、新たなガラスとして利用可能だ。
便宜上、『ガラス』と日本語訳しているノアタムアのガラスは、ガーラの砂とラスの砂が原料だ。この二つを超高温で溶かし固めるとガラスができる。割れたガラスも超高温で溶かせばまた加工できる」
「へえ、便利だねえ。……あれ? でも、ほんとのガラスもそうなんだっけ?」
「『ほんと』が『シンの記憶にある日本のガラス』という意味ならば、そうだ。ガラスの原料は珪砂などの砂だし、瓶は洗ってリサイクルしたり、割れた瓶を溶かして新たなガラスにしたりする」
「そっか、日本もすごかったんだ」
「そうだな。
ノアタムアの話に戻るが、ゴミ処理の施設は各町に無ければ不便だ。だが、ガラス加工の施設や、洗浄済みの空き瓶に新たに中身を詰める施設はどの町にもあるとは限らん。
だからゴミ処理の施設は、空き瓶や栓、割れたガラスの回収も行う。それらをまとめて該当施設に持ち込むために。
それに、ゴミ処理の施設も、その町の住人ならばともかく、旅の魔物狩り屋が町ごとに探すのは面倒だ。
だから飲食店が回収箱を設置しているのだ。各人がバラバラに持っていた空き瓶を店という定点に集中させ、各店がそれをゴミ処理施設に送り出す。各町のゴミ処理施設が、それを再利用する施設に送り出す」
「なるほど。よくできてるねえ。……あっでも、さっき瓶や栓はお金になるって言ったよね。それっていくらぐらい? 日本でも、空き瓶とか買い取ってくれるとこはあったと思うけど……」
「ノアタムアの買い取り価格も、シンがイメージする日本のそれと変わらん。何個で1テニエル、ぐらいだ」
「やっぱそんなもんだよねえ。じゃあお店に回収してもらった方が、ゴミ出しの手間が省けるからいいよね。空き瓶の代金は片付けてもらうお礼ってことで」
「魔物狩り屋はそう考えるだろうな。だから空き瓶を飲食店に持ち込む。それで飲食店の収入が上がれば、食材やサービスが向上して自分達も潤うからな。
だが町の住人ならば、ゴミ処理施設の場所はわかる。空き瓶や栓を集めてそこへ行くのが面倒でない者もいる。だから空き瓶が落ちていたとしても誰かが拾うのだ」
「森の入口に公衆トイレがあるぐらいだし、町の人もこの辺までなら来られそうだもんね。
それに地上と違って、空き瓶の中身がこぼれて乾燥してベタベタ、ってことにはならないもんね。海水である程度は洗われるし、飲んだ後にポーチにしまっても、ポーチが汚れるってことがないもの」
「そうだな。そして森の奥は、向かう魔物狩り屋が少ないから、ゴミを落とす確率も少ないのだ」
「だからゴミが落ちてるのを見かけないのかあ。
……よーし、じゃあ、あんまり人が行かない森の奥に、これから行くか。っと、その前にトイレ」
食事を終えた私は立ち上がり、一度森の入口まで戻って、公衆トイレを使った。




