第六章 02 近くの森の様子
02 近くの森の様子
三月十四日、朝。
私は宿を出て、早くからやっている店で50テニエルの朝食セットを食べた。パン、トリポイの卵と魚肉の炒め物、海藻サラダ。料理はほぐしたツナ入りのスクランブルエッグに似ていた。
休憩がてら、弁当を買う。エビのはさみパン(メーコ)と瓶詰めのジュース。合計70テニエル。おやつに砂糖ギーム焼き(クッキー)、30テニエル。
弁当を腰のポーチに入れて、町の外に向かう。腰にはもちろん、ナイフも下がっている。町の中でもいつも身につけてはいたが、これを使うのは久しぶりだ。
首から下げた蓄光石は、何の光も放っていない。ツウギの町に向かう直前、タヴィデの町で換金して黒くなったままだ。だが、今日これから魔物を倒せば、黒い石にまた光が溜まるはずだ。
昨日、町に入る前に、町の西にも東にも森があるのを確認した。どちらに行ってもいいが、私はまず東側に向かった。
町を出るころには、もう森が見えている。平坦な海底をしばらく泳ぐと、木々と海藻のゆらぐ場所に着いた。
「町から結構近いんだね」
「そうだな。この距離なら、どこかに公衆トイレも設置されているだろう」
「トイレ! いいね、魔物を探しながらそれも探しとこう」
人魚にとっての小用は、人間にとってのおならのような物だとノアタムは言った。だから小用はその辺でしろと。だが私は断固拒否したい。
前にタヴィデの町の近くの林で魔物狩りをしたときも、公衆トイレがあった。
人魚も、大はトイレで排泄する。魔物のいる場所で無防備になりたくないという需要があるから、森などにも公衆トイレがある。町の誰かが有料の公衆トイレを設置し、料金を回収したり清掃を行ったりするのだという。あのときは一回20テニエルだった。
町から来て手入れするなら、森の奥でなく森と平野の境目にあるだろうと、私は森の周辺を泳いでみる。すぐにそれは見つかった。扉の付いた箱形の建物、一回20テニエル。前と同じだ。
「ここにあるなら安心っと。じゃ、あとは魔物を探すか」
私は森の外周から少しだけ中に入った。
ノアタムの作った、深海に生える樹木。地上の木のように固い幹が伸び、緑の葉を茂らせている。地面の近くには、低木のように海藻の茂みが揺らいでいる。その隙間を魚達が出入りしている。
タヴィデ近くにあった林より、木々の茂みが深い。林でなく森、という雰囲気だ。まずは奥には進まず、外周に沿って森の内側を回る。
辺りに注意を払いながら泳いでいくと、やがて、ざわっとした気配を感じだ。
「あっ、いた!」
木の陰に、一匹の魚がいる。サンマのように細長い体で、私の様子をうかがっている。
「凶魚の一種、ハリーギョだな。強さはザーコウオとそれほど変わらんだろう」
「針っぽいからハリーギョか……まあネーミングはいいや」
私はナイフを構える。と同時に、ハリーギョが突進してきた。
「おっと!」
ハリーギョは針のようにとがった口で私にぶつかろうとしてきた。あれに刺されたら痛そうだ。
私はとっさに身をかわし、ナイフで反撃する。しかしハリーギョも私のナイフをかわす。
ハリーギョは体制を立て直し、また私に突進してくる。
「こいつめ!」
私もまたハリーギョをかわし、ナイフを振り下ろす。今度は命中した。
一撃では致命傷にならないが、ハリーギョの動きは遅くなった。敵の攻撃をよけやすくなり、私の攻撃は当てやすくなる。私はハリーギョの突進を避けながら、何度もナイフを振り下ろした。
やがて、ハリーギョの体は溶けるように光になった。それが私の首に掛けた蓄光石に吸い込まれていく。
「やったあ!」
私は右手にナイフを持ったまま、左手で服の下から蓄光石を取り出す。石は銅の輝きを放っていた。
「弱かったから光はそれほどでもないけど、もっと倒せばいいんだもんね」
そう言いながらノアタムを振り返ったとき、また魔物の気配がした。




