第六章 03 戦闘の経験
03 戦闘の経験
「あ、またいる!」
別の木陰に、細長い体のハリーギョが、今度は二匹。
「よおし、負けるもんか!」
私はまたナイフをかまえ、戦闘態勢に入る。一対二とはいえ、相手は魚なのだから勝てるはずだ。タヴィデ近くの林で実証済みだ。
ハリーギョ二匹は私に狙いを定め、突進してくる。
私は二匹をまとめてかわし、近くにいた一匹をナイフで切る。ナイフは命中したが敵はまだ動きを止めない。その間に、もう一匹がまた私を狙ってくる。
「いてっ!」
ハリーギョの口が私の腕をかすめた。口はとがっているが、牙ほど鋭くないので、腕に刺さりはしなかった。とがった木の枝でひっかいたような痛みが走った。
「このっ!」
私はナイフを振り回す。だが今回はかわされた。そして一匹に気を取られていると、もう一匹が私を狙ってくる。
……落ち着け、相手をよく見るんだ。
私は呼吸を整え、敵から少し距離を取った。
このぐらいの傷なら我慢しつつ戦える。早く倒して回復魔法を掛ければいいんだ。
離れたところにいる私に、ハリーギョ二匹はまた狙いを定め、突進してくる。
動きをよく見て突進をかわし、一匹に反撃する。
それを繰り返すうちに、私はハリーギョとの戦い方のコツをつかんできた。
ハリーギョは動きが直線的なので、突進をギリギリまで引きつけてかわせばいい。そしてナイフで反撃するのだ。
とがった口でつつかれるとザーコウオより痛いが、動きが単純なため、ザーコウオより倒しやすいかも知れない。
私は回避と反撃を繰り返し、ハリーギョ二匹を倒した。二匹は光になって私の蓄光石に吸い込まれていく。
「やったー!」
私は周りを見回す。もう魔物の気配は無いようだ。それを確認してから、ナイフを鞘に収める。
「じゃ、まずはこの傷を……」
左の二の腕に、ひっかき傷がある。血はもう止まりかけで、今は傷周辺の海水をわずかに赤く染めているだけだ。
右の手のひらを傷にかざし、気合いを込める。
「傷よ……癒えよ」
傷が小さいので、回復魔法の集中を邪魔するほどの痛みではない。私は自分の回復魔法で傷を治した。
「ふう、ちょっと休憩っと」
私は近くの木の根元に向かい、木に体を預ける。腰のポーチから砂糖ギーム焼きの袋を取り出し、少し食べる。小麦クッキーのような味が口に広がる。
「よくやったな。連続で三匹を倒すとは」
ノアタムも私の隣に泳いできて、長いひれを使い、三脚魚の姿勢で海底に立った。
「魚の魔物とはタヴィデの町のそばで何度も戦ったもん。私は『この世界でずっと一人旅をしてきた設定』だけど、タヴィデの町のそばで魔物と戦ったのは本当だからね。そのときの経験があるから倒しやすかったよ。まさに『経験値を積んだ』って感じ」
「設定が現実味を帯びてきたのだな」
ノアタムは満足そうな顔でうなずいた。
「三匹倒したけど、色はまだ同じかあ」
私は首から下げた蓄光石を見る。蓄光石は、魔物を倒して溜まった光が500テニエル未満なら銅色、500テニエル以上5,000テニエル未満なら銀色、それ以上になったら金色に輝く。
「ハリーギョってそんなに高くないんだね」
私は銅の色に光る蓄光石をタンクトップの内側にしまった。こうしておけば落とすリスクが減るからだ。
「全体は針みたいだけど、つつかれてもキヴァーヲの牙より痛くなかったし。強さで言ったらザーコウオと同じぐらい?」
「そうだな。だから値段も同じぐらいだろう」
「まだ銅の色だもんね。
……あれ? でもさあ、値段が同じなら、なんでザーコウオにならないの? だって魔物って、精霊のストレスが形になるんでしょ? たくさんのストレスが強い魔物になって、強い魔物は値段が高い、ってのはわかるけど、同じ値段のストレスは同じ魔物になればいいじゃない?」
「その疑問はもっともだな。よし、それについて説明してやろう」




