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目覚めたら異世界で人魚だった  作者: 御餅屋ハコ
目覚めたら異世界で人魚だった 第五章
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第五章 15 町の様々な店

15 町の様々な店


 しばらく泳ぐと、『調理器具なら当店へ・充熱の精霊、残氷の精霊います』の看板があった。

「充熱って、あれだよね、IHヒーターみたいな、『てっかまき』ってやつ」

 日本語訳で『撤火薪』と書く。火を撤廃し、熱だけで調理する精霊の道具だ。以前ノアタムに説明された。

「光池みたいに、『熱池』に『充熱の魔法』を使ってもらうんだよね」

 私はさっき買った光池をポーチの上から触る。

「そうだ」

「『残氷の魔法』って、魚車屋で聞いた、冷蔵庫、いや、『冷蔵箱』の……」

「うむ。『残氷の魔法』がかかった容器の内側ならば、人魚が氷の魔法を放っても氷は消えず、その中に残る。そういう『冷蔵箱』や『冷蔵袋』で魚を鮮度を保ったまま運搬するのを、魚車屋で見たな」

「光池は、使えば光のエネルギーが無くなるってのはわかるけど、『残氷の魔法』も、そんなに頻繁にエネルギーが切れちゃうの?」

「頻繁ではないが、塗装が剥がれるようなもので、効果は少しずつ薄れてくる。だから定期的に精霊に『残氷の魔法』をかけ直してもらうのだ」

「ふうん。でも、熱池や光池よりは長持ちしそうだね」

「確かにな。だが、運搬に使われる箱や袋の数はなかなかの物だ。それに、飲食店や個人宅の台所でもよく使われている。小型の冷蔵袋を持っている者も多い。一人で釣りに行くからその分だけ氷が欲しいとか、いつでも氷嚢を作れるように準備しておく、などの理由でな。

 だから町全体で考えれば、残氷の精霊を必要とする者は毎日のように現れるだろう」

「なるほど。でも私は氷の魔法は使えないから冷蔵袋とか持っててもしょうがないよね。ご飯もお店で食べるし。でも精霊がどんなかは気になるな……」

「店を覗くぐらいはしてもいいだろう」

「そうだね」

 私はその調理器具の店に向かった。

「そういえば、『カッパ巻き』も精霊が作ったアイテムなんだよねえ」

 日本語訳で『乾葉薪』と書く。葉っぱ一枚に着火すると、一定時間燃えるアイテムだ。これも『撤火薪』と同じときに説明された。

「あと、マッチもあるんだよね。その辺は使い捨てなんだよね」

「うむ。精霊が力を込めて作り、魔法の使えない人魚でも魔法と同等の効果が得られるようにしたアイテムだ。使えば無くなる」

「そういうアイテムも、町の中の店で作ってるの?」

「ここのように大きい町は土地の値段も高いから、小売店ばかりだろう。

 『乾葉薪』やマッチなど、使い捨てのアイテムは大量に作らないと商売にならん。在庫を保管する場所も必要になる。小さな町の外れに工場を構えているのが一般的だろうな」

「なるほどねえ」

 そう話しているうちに、私は調理器具の店の前に泳ぎ着いた。

 店は三階建てで、鍋やヤカンなど、調理器具が所狭しと並んでいる。

 店の奥には、さっき見たピイカと同じぐらいの大きさの精霊が二人いた。それぞれ、赤く熱をイメージしたような服と、白く氷っぽいデザインの服を着ている。下半身はもちろん人魚だが、上半身は、もしかしたら少年かも知れなかった。

 店員に「いらっしゃいませ」と声を掛けられたが、何も買う予定のない私は、曖昧にうなずいて早々と店を出た。

 お腹が空いてきたので、おいしそうな店で昼食を取った。海藻サラダ、レフォンソとブータッポの炒め物、焼きギームで80テニエル。

 それからまた町を泳ぎ、服屋の並ぶ一角を見つけた。

 服屋は日本にある姿とあまり違いは無かった。普段着やおしゃれ着、下着などが種類別に並べられ、客が自由に手に取って選ぶ。

 ただ、どの店も女物ばかりを扱っているように見えた。人魚の世界なのでもちろんズボンは売られていない。だが上半身用の服も、胸の膨らみを考慮した作りだったり、華やかな装飾が施されたりしていた。女の方が数が多いからだろう。

 綺麗な服は魅力的だったが、魔物と戦えば汚れるし、リュックに入れて持ち運ぶのもかさばる。今の服がくたびれたら買い替えることにし、私は服屋を離れた。

 またしばらく泳ぐと、『髪染屋・ソメイア』『髪切のみも歓迎します』という看板を見つけた。

「あっあれ、あんたが言ってた、高いお店だ」

 精霊の力を込めた染料を髪に染み込ませ、魔法を使う際に助力を得るというやつだ。

「この町は大きいから髪染屋があるようだな」

「ヘアカットもやってるんだね。カットだけなら安そうな感じ。……まあ、私にはまだ必要ないけど」

 私は自分の髪に触れた。黒のショートヘアなので今のところ邪魔にはならない。

「精霊だけちょっと見てみたいなー」

 私は『髪染屋・ソメイア』に近づいていく。看板には美しい髪の人魚の絵が描かれていた。壁には大きなガラス窓があり、店内を見せる作りになっている。日本にあるおしゃれな美容院のようだ。

「小さい町にはこういう店はないんだ?」

「髪を切るだけの、『髪切屋』ならばあるかもしれんがな。精霊の染料は高いから、大きな町でないと経営が難しいのだろう」

 ノアタムと話しながら私はガラス窓の中を覗いた。

 美容院のように、ゆったりと座れる椅子がいくつも並んでいる。一人、客らしき人魚が椅子に座っていた。その長い髪を櫛でとかしているのが、店の人魚だろう。美容師のような、動きやすそうだがおしゃれな姿をしている。

 その隣の半透明な存在が、精霊だろう。大きさは人魚と同じで、髪が長く、美しい姿で微笑んでいる。

「あ、ここは小型じゃなく、人魚サイズなんだ」

「髪を染める色によって効果が変わるからな。複数の魔法を扱う精霊だから、人魚と同じサイズなのだ」

 そのとき、店内の他の店員らしき人魚が窓の外の私に気づいた。店内に誘われかけたが、私は首を振って窓から離れた。私には覗くだけで十分な店だ。

 欲しかった物も買い終えた。私はのんびりと宿に戻った。

 それから夕飯を食べた。魚のすり身の団子のスープ、トリポイと海草のパスタ、四角焼き砂糖ギームを食べた。180テニエル。

 明日はこの町を発つ。私は目覚ましをセットし、眠りについた。

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