第五章 13 道具屋ピイカ
13 道具屋ピイカ
その店には、丈夫そうな鞄が何種類も並んでいた。それからロープや寝袋、テントらしき物など。ぱっと見、キャンプ用品店のような品揃えだ。ランプのコーナーもある。ランタンのように取っ手でぶら下げるタイプ、懐中電灯のような棒タイプなど、様々だった。
店の奥には店主らしき中年の女性がおり、店主が見渡すのにちょうどいい広さの店だった。
客はおらず、店主と目が合ったので、私はノアタムとはしゃべらないことにした。
「いらっしゃい」
「あ、こんにちは」
店主に言われ、私は答えた。
「何かお探しかね」
「あっそのう……懐中電灯などを」
店主はゆっくり泳ぎだし、ランプのコーナーに向かった。
「一人旅? まだ魔物狩り屋を始めたばっかりかね? 暗い洞窟には強い魔物が多いよ。森なんかも、ベテランだと強い魔物を狙って夜までテントで張り込んで、ってこともするけど、一人旅で無茶するのはおすすめできないなあ」
「あ……そうですよね。でも一応、小さい明かりぐらい持っててもいいかと思って」
確かに、自分にはそういう魔物退治はハードルが高そうだ。だが、ランプ一つぐらい持っていても損はないだろう。
「じゃ、この辺の奴はどうだね? 持ち歩いても荷物にならないだろう」
店主は棚の一角を示した。そこにはペンライトのような小型の懐中電灯が並んでいた。
「あ、いいですねこれ。すぐに使えるんですか?」
私がそう言うと、背後から、店主とは違う声が聞こえてきた。
「もっちろん! あいがきちんと光池に充光の魔法を使ってるもん!」
振り返ると、そこには、声の主がいた。
「ああ、ピイカ」
店主がその名を呼ぶ。
この店の名前の由来になっている、充光の精霊だろう。大きさは三十センチぐらいで、人形のように小さい。光をイメージしているのか黄色っぽい服装で、閃光のようなギザギザの装飾を付けている。スカートから覗くのはもちろん人魚の尻尾だ。精霊なので半透明だが、動くと服の装飾が光を反射するかのようにピカピカ光って見える。
「そこのペンライトが欲しいの? あいがちゃんと力を込めてあるから大丈夫だよ。試してみてもいいよ!」
「そうだよ、使ってみな」
店主がそう言って私にペンライトを一つ手渡す。
「あっじゃあ、お言葉に甘えて……」
小型の精霊もいるんだ、という驚きは顔に出さないようにして、私は会話を続けた。
どうやって使うのかわからなかったが、勘で動かしてみた。
それは十五センチぐらいの棒状の品物で、先端がガラスのように透明になっている。ガラス部分の根元に輪がはまっており、それを右に回すとガラス内が光った。光は輪を右へ大きく回すと強くなり、左に回すと消えた。
棒の中央には切れ目があった。こっちは何だろうと思い、ぞうきんを絞るようにひねってみた。すると棒が二つに分かれ、中に入っている物が落ちそうになった。
中に入っていたのは、指一本分ぐらいの大きさの、黒い石でできた棒だった。
「あっ、光池を落とさないで」
ピイカが言う。これが光池か、と私は思う。単三乾電池よりやや大きい。
だが全体的な構造は、日本にある、乾電池で光るペンライトと似ているようだ。
私はペンライトを元の形に戻した。
「いろんなサイズのペンライトがあるから、気に入ったのを選ぶといいよ」
店主もそう促した。
私は言われるまま、棚に並んだペンライトを次々に手に取った。基本構造は同じで、あとは大きさや外見の多少の違いのようだ。だが、最初に渡された物が、一番シンプルで使いやすそうに思った。
「この十五セ……いえ、十五フィンクの大きさのペンライト一つ、お願いします」
センチと言いかけ、ノアタムアでは一センチを一フィンクと呼ぶのだとノアタムに言われた事を思い出し、私は言い直した。『ペンライト』は、店主もピイカも使っているから使っていい単語のはずだ。
「予備の光池はどうするね? 旅してると、しばらく町によれないときもあるだろう」
「この光池一本で、どのぐらい光が持ちますか?」
「光を弱くして使えば昼も夜も付けっぱなしで二日ぐらい、光を最大にすると一晩ってとこだね。大きいランプは光池も大きいから光がもっと持つけど、ペンライトは小さい光池しか使えないからね」
「なるほど……。ペンライトはおいくらで、光池一本はおいくらなんですか?」
さっきの薬屋と違い、店の品にはあまり値段が書かれていなかった。
「そのサイズの光池一本だと100テニエル、ペンライトだけだと300テニエル。もう一本光池を買うなら、合わせて500テニエルだけど、新人さんだし、おまけして450テニエルでいいよ」
こうして会話しながら価格が決まるので、品物にあまり値札がついていないのかな、と思った。
「じゃ、光池二本とペンライト、お願いします」
せっかく値引きしてくれたのだし、予備の光池も一本買うことにした。
「毎度あり。袋も付けるね」
店主は巾着袋を取り出し、光池の入ったペンライトと予備の光池を一本入れた。
「あっそうだ、あれもいるかね? 魔物よけキャンディ」
財布を取り出しかけた私は、店主の言葉に手を止めた。
「えっ……」
「五個で100テニエル。これも一緒に買うならちょっと安くするけど」
店主は小瓶を取り出した。瓶には日本語訳された『魔物よけキャンディ』のラベルが貼られており、中に飴が五つ入っているのが見える。
「あっじゃあ、一瓶お願いします」
「ん、だったら全部で、そうね、530テニエルでいいよ」
私は財布を取り出し、代金を払った。ノアタムに目をやるが、もちろん私の肩でじっとしているだけだ。
「いっぱい買ってくれてありがとー!」
「またこの辺に来たらよろしくね」
ピイカと店主に見送られ、私は道具屋ピイカを後にした。




