第五章 08 人魚の食材(その1)
08 人魚の食材(その1)
太陽の傾きは夕方の手前といったところだった。まだ夕飯には早いが、今日はいろいろあって疲れた。私は宿に荷物を置きに戻り、休憩がてら買った本を読むことにした。
宿のベッドに寝転がり、『身近な食べ物ずかん』を広げる。
最初に『わたしたちが普段食べているのはどんな生き物なのかな?』と書かれたページがあり、次に目次があった。『海藻』『海草』『木の実』『魚』『その他』と大きく分けられている。子供用なのでそこまで細かくないようだ。
私は『海藻』のページを開く。まず緑色のワカメのような海藻が描かれ、説明書きがあった。
ドリーミ
緑色の海藻だよ。サラダにしたりスープにしたり、とてもよく食べられているよ。
次のページには、昆布に似た茶色っぽい海藻が描かれていた。
チャーロン
茶色の海藻だよ。厚みがあって歯ごたえがあるよ。刻んでシーズ水の中で加熱するとおいしい出汁が出るよ。
名前は『みどり』や『ちゃいろ』から来てるのかなあ、と思いつつ、私はページをめくる。ノアタムも部屋で休んでいるが答えてはくれまい。
次のページには、赤い、もじゃもじゃっとした海藻が書かれていた。
アモージャ
赤い海藻だよ。ドリーミと一緒に、サラダとしてよく食べられているよ。
『海藻』のページはそこで終わり、コラムが一つはさまれていた。
『海藻と海草の違いは?』
海藻と海草には大きな違いがあります。海藻は花が咲きませんが、海草は花が咲き、実がなります。
海藻は全体が葉っぱだけのような姿ですが、海草は、葉っぱ、茎、根っこ、花、のように、部分ごとに違う形をしています。
だから海草は、実、葉っぱ、根っこなど、いろいろな部分が私達の食卓に登場するのです。
そして、次からは『海草』のページになっていた。
ギーム
白くて丸い実を付けるよ。そのまま食べたり、パンや麺に加工したり、わたしたちの生活に欠かせない植物だよ。
メーコ
ギームに似てるけど、実がちょっとでこぼこしてるよ。ギームと同じく、そのまま食べたり、パンや麺にして食べたりするよ。
ギームが海草のトップに、メーコはその次に書かれていた。主食なので当然だろう。
次のページには、緑の実を付ける植物が描かれていた。
リキュ
緑色の細長い実を付けるよ。生だとサクッとして、加熱すると柔らかくなるよ。
料理屋でよく出てくるのはこれかあ、と私はうなずいた。サラダに入っている薄切りも、スープや炒め物に入っている厚切りも何度も食べた。こうして全体像を見ると、少しキュウリに似ている。
ナシュ
皮は紫で、中は白い実を付けるよ。加熱するとトロッとするよ。
どことなくナスに似た植物が描かれていた。これもよく料理に入っている気がする。
私は更にページをめくる。
レフォンソ
茎と葉っぱを食べるよ。とっても栄養のある海草だよ。
アキャロ
根っこが太く赤くなる海草だよ。根っこにも葉っぱにも栄養がたくさんあるよ。
ディーコン
根っこが太く白くなる海草だよ。味が染み込みやすいので加熱する料理によく使われるよ。
ほうれん草、にんじん、大根に似た植物が描かれていた。
『海草』のページはこれで終わり、次をめくるとコラムだった。
『海草と木の違いは?』
海草よりも体が太く、固くなる植物を木と呼びます。
木の幹は海草の茎と違って食べられませんが、家具などに使われ、私達の生活を便利にしてくれます。
木も花が咲き、実を付けます。木の実には食べられる物がたくさんあります。
そして次から『木の実』のページが始まった。
サーミン
黄色い実だよ。シーズ水の中でつぶすと酸味のあるエキスがシーズ水に移るので果汁がよく飲まれているよ。
みかんの木とみかんの果実のような絵が描かれていた。酸味があるからサーミンなのだろうか。自分がよく飲むオレンジジュースに似た果汁はこれかもしれない。
ピチク
桃色の実だよ。甘く柔らかい味がするよ。サーミンの果汁と混ぜると味がまろやかになるよ。
桃の木と桃の果実に似た絵が描かれていた。
……ん? 『桃色』? この桃っぽい植物は『桃』と呼ばれていないのに?
私はそのページを開いたまましばらく考え込む。だが、トトラが今日、『オレンジ色』と言っていたのを思い出した。
みかんっぽい植物もオレンジという名前ではないのだし、日本語訳として、『桃色』や『オレンジ色』という単語が使われているだけなんだろうな。ピンクとピーチを合わせてピチクかな、と解釈し、私はページをめくった。
モンドーア
実が熟すとドアのようにパカッと割れるよ。中に入っている大きな種を食べるよ。
実を付ける木と、実からアーモンドのような種が飛び出している絵が描かれていた。
ピーラッカ
花が咲いても花びらはすぐに落ちるよ。でも花の真ん中にたくさんの種が残るのでそれを食べるよ。
木にひまわりが咲いているような絵が描かれていた。そして、ひまわりの種とピーナッツの中間のようなナッツが描かれていた。
確かピーナッツって木じゃなくて草なんだよね……土の中に実がなるんだっけ? 詳しく覚えてないけど……。でもこれはピーナッツじゃなくてピーラッカなんだもんな。こういう植物なんだな。
私は納得し、ページをめくった。
『木の実』のページは終わり、次は『魚』の項目になった。




