第五章 07 本屋
07 本屋
私は文房具屋を出て、また町を泳ぎ始めた。しばらく泳ぐと、『本屋・いろどり』と書かれた看板を見つけた。
「本屋発見! 『いろどり』は……店主の名前じゃないよねえ」
「色とりどり、たくさんの本があります、のような意味を込めて付けられた店名だろうな」
店の扉は大きく開けられ、外からでも店内にたくさんの本があるのが見えた。私はその本屋に入った。
店内は広く、見渡す限り本が並んでいた。客も何人もおり、本を選んでいる。私はノアタムを肩に止まらせ、しずかに店内を見て回る。
出入り口近くには、平積みの本が並べられていた。売れ筋の本を、表紙がよく見えるように並べているのだろう。日本の書店と同じだ。
まず目に入ったのは、『伝説の剣を受け継ぎし者』『指輪の勇者』『魔法使いマーフィン』のようなタイトルと表紙絵の本だった。日本にもありそうな冒険小説のようだ。
ただし、表紙に描かれているのは当然、人魚ばかりだった。主人公らしく真ん中で大きく描かれているのも、女の人魚だ。男の人魚もいないことはないが、主人公を取り巻くキャラの一人、という描かれ方だった。男の人魚は、人間の小説におけるヒロインのような扱いなのだろう。
冒険小説の隣に並んでいるのは恋愛小説のようだ。『運命の人』『一度きりの恋』『苦しくて眠れない』などのタイトルと、恋に悩んでいるらしい人魚が描かれている。
こちらは男と女が同じ大きさで描かれている本が多かったが、女同士、男同士の人魚が描かれている本もそれなりにあった。恋愛はどちらの性でも楽しめるからだろう。
次に目に入ってきたのは、ビジネス書だった。『雰囲気の良い店づくり』『経営者の心構え』『魔法屋を始めるのに必要なこと』などのタイトルが並ぶ。こちらは娯楽小説と違って表紙は地味だった。文字や建物の絵だけの表紙が多い。人魚がいる場合でも、真面目そうな女の人魚が一人描かれているぐらいだ。
こうして見ると、確かにノアタムアは女を基本としてるんだな。
私は平積みの本を見渡し、そう思った。表紙に描かれる女の人魚は、一定以上の容姿はしていたが、勇ましかったりかわいかったり知的だったり、バリエーションが豊富だった。また、年齢も若者から年配まで様々だった。だが男の人魚は、表紙に描かれることが少ない上に、描かれても表紙に花を添えるような、若く美しい人魚ばかりだった。
女の方が数が多いからこうなるのかあ……。確かに、若いうちから男になるのはちょっと居心地が悪そう。女のままでいたがる人が多いのも納得だわ……。
そう思いながら私は入口近くの棚から離れた。
何か本を買いたいが、重い本は持ち運びに困る。ビジネス書は今の自分に必要ないし、娯楽小説は、続き物だと荷物がどんどん増えてしまう。ちょうどいい本はないものかと店を回り、私は一冊の本に目を留めた。
それは子供向けの絵本の棚だった。何冊かの本は客に表紙を見せる形で並べられている。
その中に、『身近な食べ物ずかん』と描かれたかわいい絵の本があった。
これだ、と私は本を手に取った。中をざっと見ると、魚や海藻が色付きで大きく描かれ、簡単な説明の文章が付いていた。両手に収まる大きさでページ数も少ないので、旅のお供にぴったりだ。
値段は裏表紙に200テニエルと描かれていた。少し高いが色刷りなので妥当な値段だろう。
私は『身近な食べ物ずかん』を買い、本屋を出た。




