第五章 06 文房具屋(長さの単位や手帳)
06 文房具屋(長さの単位や手帳)
「やっとそこに興味を持ったか。もちろん、ノアタムアにも長さの単位はある。成長の仕方が均一な、ジョウという木があるのだ。
ジョウの木は、芽が出て一年で一メートル、二年で二メートルに育つ。それ以上は高くならない。この世界ではその木を基準に、一メートルを『一エスト』と呼ぶ。
また、その木の枝は、根元が必ず一センチの太さになる。だからそれを『一フィンク』と呼ぶ」
「ジョウの木……定規……。ウエストぐらいの高さだからエスト? フィンガーぐらいの太さだからフィンク?」
「ネーミングをいちいち気にするな」
「でも、そんな木が本当にあるの? 想像つかないな」
「シュロの木やソテツの木をイメージしろ。あんな感じだ」
「ああ、確かに、ああいう木も言われてみれば変な形かも」
私はジョウの木を想像しながら定規を手に取った。
「ジョウの木は固くて歪まないので定規によく使われるのだ。それらの定規はすべてジョウの木だろう」
「ふうん」
私は手にした定規をじっと見る。基本は一センチ刻みだが、線は五個目と十個目ごとに長くなっていた。
「一センチより小さい単位は?」
「半フィンク、四分の一フィンク、などと言えば伝わるだろう。もう少し細かい目盛りの定規もあるようだが」
売り場の定規をよく見ると、確かにもっと刻みの細かい定規もあった。だが、日記などを書くのにそこまで細かい物は必要ないだろう。
私は一センチ、いや一フィンク刻みで15フィンクの定規を選んだ。50テニエル。
「そういえば、重さの単位もあるの?」
「もちろんだ。カリファという木があってな。カリファの実一つ分の重さを『一カリファ』と呼ぶ。一カリファは地球で言う一キロだ」
「カリファ……かりは……『はかり』かあ」
「ネーミングを気にするなと言うのに」
「あっでも、水中だと重さって地上と違わない?」
「うむ。だからノアタムアでは、重さより体積で表現する方が多い。
ボットルという、固い実を付ける木があってな、実が熟すと殻が真っ二つに割れる。その殻にシーズ水を満たすと、ちょうど地球で言う一リットルになる。それをノアタムアでは『一ボットル』と呼ぶ」
「……ボトル一本分が一ボットルね」
「そうだ。だがこれらは、こういう基準がある、とだけ覚えておけばいいだろう。日常では身体尺を使えばそれでいい」
「しんたいしゃく?」
「体を使って大きさ等を表現することだ。両手を広げた大きさとか、素泳ぎで一日かかる距離、などだ。日常会話はそれで問題ないだろう」
「じゃあ、さっき双牙舎で道を聞いたときみたいな感じでいいんだ。私、できてたんじゃん」
「シンが他の人魚の前でうっかり『一センチ』などと口走っては困る。知識だけは持っていてもらわんと」
「はいはい」
私は最後に、手帳を探しに向かった。
ノート類の棚があり、大小様々なサイズのノートが並んでいた。無地や罫線だけが印刷されたノートの横に、手帳のコーナーがあった。
手帳には暦が印刷されていた。
見開きで一つの月について書かれており、上部に『一月』の表記があった。
それから縦に六マス、横に五マスの四角が並んでおり、一マスに一つずつ数字が入っていた。
一行目 1 2 3 4 5
二行目 6 7 8 9 10
三行目 11 12 13 14 15
四行目 16 17 18 19 20
五行目 21 22 23 24 25
六行目 26 27 28 29 30
次のページは白紙で自由に書き込めるようになっていた。
その次のページをめくると、同じように四角が並び、上部だけ『二月』の表記になっていた。それが『十月』まで続き、その次は『一月』になっていた。
「一ヶ月が必ず三十日だから、どの月も同じカレンダーになるんだ」
「そうだ。曜日も無いから年ごとに月の始まりの位置が違ったりもしない。何年前に印刷した手帳でも使えるのだ。
そのぐらいの厚みの手帳だと、数年分の暦が印刷されているだろうな」
「あっじゃあ、休みの日ってどうなるの? 日曜休みとか言えないじゃん?」
「定休日を設ける場合は、五日ごとに設定するのが一般的だな。つまり、『1と6の日』『2と7の日』のように、そのマスの縦一列を休みの日とするのだ」
「へえ、ノアタムアじゃ一週間が五日しかないようなもんか。休みの間隔が近くていいね。
あっでも、鑑定屋が休みの日は魔物の換金ができないんじゃ!?」
「鑑定屋に定休日はない。魔物の出現に休みはないからな。報酬だって毎日もらえんとやる気が出ないだろう」
「そっか、よかった」
私は棚を眺め、気に入った手帳を選んだ。表紙が革製の物は高いので、丈夫そうな厚紙の物にした。15センチ、いや15フィンクぐらいの大きさで、200テニエル。
「これだけ買えば、日記が書けるよね」
「三日坊主にならなければいいがな」
「うるさい」
私は店主を起こし、支払いを済ませて店を出た。




